学歴による賃金格差の国際比較をさぐる
・OECD諸国ではいずれの国でも高学歴ほど賃金は高くなる傾向。
・高卒や高専卒の賃金を100とするとOECD平均では中卒は76、大卒は160。
・高卒や高専卒の賃金を100とするとフィンランドでは中卒は99とほとんど変わりが無い。
学歴はその人の学習経歴や知識経験の実情度合いを指し示す物差しとなる、肩書の一つ。無論それがすべてでは無いが、そしてむしろその学歴を持てるだけの能力があるからこそだが、学歴が高いほど多くの賃金を得られる傾向がある。今回はOECD(経済協力開発機構)の公開値(※)を基に、諸外国での学歴別の賃金格差の実情を確認する。
まずは大卒内の大学院修士・博士を除いたグラフを生成する。
一部の国で基準が「高卒と高専卒の平均値」で無いためにきっかり100で無い状態となっているが、大よそ基準値の100となっている上で、中卒の賃金はどの国も100より低い値に留まっている。OECD平均値は76。
一番差異が少ないのはフィンランドで99、「高卒と高専卒の平均値」とほぼ同額。他方もっとも差異が大きいのはメキシコの61。中卒は「高卒と高専卒の平均値」の6割程度しか賃金が得られていない計算となる。日本は78で8割近く。
大卒全般はすべての国で「高卒と高専卒の平均値」より高い値を示している。OECD平均値は160なので、1.6倍の賃金を得ている計算になる。もっとも高いのはチリで237、つまり2倍以上。一番低いスウェーデンでも117で1割以上の増し。日本は152だから1.5倍ほど。
グラフが雑多となるので除いていた大学院修士・博士卒の値は次の通り。計上されている国に限り、さらに高い順に並び変えている。
最大値はチリの472。チリでは「高卒と高専卒の平均値」の5倍近い賃金を大学院修士・博士卒は得ていることになる。次いでメキシコが371、ハンガリーが240。日本やOECD平均値は値が計上されていない。
学歴による賃金格差の是非はそれぞれの国の事情によって異なる。高学歴者の賃金が相対的に高くとも、単に高学歴者以外の人が就く職業の賃金水準が低いだけの可能性はある。賃金格差が少ない国は学歴≒能力による賃金格差が少ないことになるが、産業構造の上で平等化のために弊害が生じている懸念がある(押しなべて高度化しているのなら話は別だが)。
他方、どの国でも多かれ少なかれ、学歴による賃金格差が存在することもまた事実には違いない。
■関連記事:
正社員と非正社員の賃金差は?…雇用形態別の平均賃金をグラフ化してみる
※OECDの公開値
OECDの公開データベースOECD.Stat内の「Education and earnings : Trends in relative earnings, by educational attainment」にある、「Trends in relative earnings, by educational attainment」(学歴による相対的収入動向)。学歴は国際標準教育分類で仕切り分けしているが、今回は日本の教育機関の序列に合わせる形で、中卒(Below upper secondary education)、高卒・高専卒(Upper secondary and post-secondary non-tertiary education)、大卒全般(Tertiary education)、そして大卒内の大学院修士・博士卒(Master’s, Doctoral or equivalent education)の値を確認する。値は「高卒と高専卒の平均値」(高専卒が無い場合は「高卒」)を100とした時の値。
なお現時点で公開されている最新値は2015年分だが、国によってはそれ以前の値が最新値の場合もある。その時は国名の後に用いた値の年数を記載している。
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。