どれほど音楽CDが人気を博したのか…CDやネット配信の「ミリオン認定」などの動向をさぐる
「ミリオン」2016年の実情とこれまでの動き
創作者にとって「ミリオン(100万)」は一つの大きな目標であり、金字塔的存在であり、ヒットの代名詞に他ならない。日本の音楽業界における「ミリオン」の実情を、日本レコード協会が2017年4月に発表した音楽業界に関する白書「日本のレコード産業2017」から確認する。
書籍やゲームソフト市場でも良く使われている言い回しで、作家・出版元の立場からは夢、目標の一つでもある「ミリオンセラー」(100万単位以上売れること)。しかし「日本のレコード産業」では数年来この言い回しは使わず、代わりに「ミリオン認定」との言葉を用いている。これは「会員各社からの申請に基づいた出荷枚数」を定期的に確認し、「発売日からの累計正味出荷枚数が100万枚を超えた場合」に認定する称号。累計正味出荷枚数が300万枚に達した場合、その時点で改めて3ミリオンが認定されると共に、それ以降は100万枚毎に改めて認定がなされることになる。
ミリオンより下には10万枚以上の「ゴールド」をはじめ、25万枚以上の「プラチナ」、50万枚以上の「ダブル・プラチナ」などがある。これらはあくまでも出荷枚数であり、販売枚数よりはハードルが低いことに留意しなければならない。
次に示すのは、過去の分も合わせ、経年の「日本のレコード産業」で確認できる限りにおける「ミリオン認定」の推移。
直近分となる2016年はアルバムで1本3ミリオン、シングルでは3ミリオンと2ミリオンがそれぞれ1本ずつ登場した。またシングルのミリオン(100万本台)は4本、アルバムは2本が確認できる。具体的には次の通り。
●シングル
■3ミリオン
・世界に一つだけの花(シングル・ヴァージョン)(SMAP)(2003/03)
■2ミリオン
・翼はいらない(AKB48)
■ミリオン
・君はメロディー(AKB48)
・LOVE TRIP/しあわせを分けなさい(AKB48)
・サヨナラの意味(乃木坂46)
・ハイテンション(AKB48)
●アルバム
■3ミリオン
・自己ベスト(小田 和正)(2002/02)
■ミリオン
・松任谷由実40周年記念ベストアルバム 日本の恋と、ユーミンと。(松任谷 由実)(2012/11)
・SMAP 25 YEARS(SMAP)
※年月表記が無いのは2016年中発売
といった次第である。
アルバムは「手堅い」作品で占められている。2014年の映画「アナと雪の女王」の関連アルバム「アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック」のようなイレギュラー的な作品も無く、提供アーティストの底力を感じさせる。また、発売が2016年より前の作品も複数確認でき、長年にわたり売れ続けているようすがうかがえる。
シングルはいわゆる「選挙」や「握手会」との絡みをはじめとするさまざまな「仕組み」もあり、ここ数年来の状況から大きな変化は無く、同一グループが多分に占める形となった。他方2016年はSMAPの解散があり、アルバムだけでなくシングルでも大きなセールスを計上したことが分かる。特に3ミリオンを計上したSMAPの「世界に一つだけの花(シングル・ヴァージョン)」は社会現象化した購入ムーブメントの結果でもあり、2016年を象徴するものに違いない。
2014年に生じた、グラフの緑線の大きなイレギュラー的動きだが、これは2014年発表分からミリオン認定のカテゴリ区分に変更が生じたことによるもの。これまで「着うた」「着うたフル」はCDとは別途「音楽配信」として計上し、さらにパソコンやスマートフォンなど向けの「PC(パソコン)配信(シングル)」は今件項目ではカウントしていなかった。しかし2014年分から「着うたフル」「PC配信(シングル)」を統合して「シングルトラック」としてカウントし、「ミリオン認定作品」に計上している。
2014年分では2014年1月において、これまでカウントしていなかった過去の「PC配信(シングル)」分の作品が大量にミリオン認定されている。つまり2014年分が跳ね上がったのは、2014年に大量のミリオン認定作が突如出現したのではなく、これまで未認定だったものが一挙に認定されたことによるもの。
2015年以降はそのイレギュラー的な動きも収まり、全部で5タイトルがカウントされる形となった。ちなみに2016年中に「配信を開始」し、ミリオン認定されたのは皆無。もっとも新しい作品は2015年12月に配信開始の「海の声」(浦島太郎(桐谷健太))である。
2012年以降は携帯電話市場におけるスマートフォンへのシフトが進み、それに合わせてモバイル端末の有料音楽配信市場が大きく変動、従来型携帯電話(フィーチャーフォン)による着うた・着うたフルの需要が大きく減退している。その動向はシングルトラックのミリオン認定数の減少として表れていたが、2014年からカウント形式が変わり、パソコンやスマートフォン向けの有料配信も計上されることで、動きが読みにくい状況となったのは否めない。
現状の分析と今後の推測
今回のミリオン「認定」の動向を見るに、社会現象を巻き起こしたSMAPの解散に絡んでセールスも大いに盛況なものとなったが、それ以外では大きな動きが無いように見える。前年に続き今回年でもシングルのセールスで2ミリオン以上のセールスが登場したこと自体は喜ばしいものの、その内情を見るに「音楽業界の伸長による結果」と評して良いのか否か、判断にはやや迷うところがある。
かつて宇多田ヒカルの初アルバム『First Love』は初回出荷280万枚、1999年だけで800万枚を超えるヒットとなった(国外も合わせると1000万枚前後ではないかとの話もある)。このような「超ヒットセラー」は、現在の市場では奇跡でも生まれえないのが現実。
2014年に顔を見せたあの「アナと雪の女王」ですら、アルバムはダブルミリオンに届いていない。趣味趣向が分散拡散し、手法が多様化する以上、同一作品が集中的に売れることが難しくなったのが一因と言える(もちろん無料の音楽配信に音楽利用客が流れているなど、複合的要因はある)。2013年以降、定額制の聴き放題サービス部門が大きく伸びたのも、その状況変化を示す数字の一つであろう。
デジタル化、スマートフォンの普及、ソーシャルネットワークの浸透、そして定額制サービスの展開など、音楽を取り巻く環境は大きく変化を遂げている。「音を楽しむ」スタイルも多種多様化し、既存のビジネスモデルが通用しにくい時代であることは否めない。他方、主従を逆にしかねないビジネスモデルが良いものなのかについても、賛否両論がある。関係各位は今一度、音楽とビジネス、そして業界の将来のことを見据えるために、思案する必要があるのではないだろうか。
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