トップはサウジアラビアにあらず…主要国の原油確認埋蔵量をさぐる
国際石油資本BP社が毎年発行しているエネルギー白書「Statistical Review of World Energy」には、主要国のエネルギーに係わる多彩なデータが盛り込まれており、エネルギー面で考察する際には非常に役立つ資料として注目に値する。記事執筆時点では2017年6月に発表された「Statistical Review of World Energy 2017」が最新のものだが、今回はこの掲載データを用い、原油(石油)確認埋蔵量の現状と推移、シェアなどを確認し、状況の精査を行う(※)。
まずは、直近2016年とちょうど10年前、2006年における原油確認埋蔵量の動向を確認する。BP社の資料には相当数の国のデータが記述されているが、全部の国を挙げてもきりがないので、2016年における上位国に絞って掲載を行う。
まず驚くのは南アメリカ北部にある国、ベネズエラの量の多さ。この10年間で3倍強も増え、サウジアラビアを追い抜く形となった。これは同国の開発技術が進み、採掘が可能とされる原油の量が飛躍的に増加したことを起因としている。一方で同国の原油確認埋蔵量には多くの「重質油」「超重質油」が加算されている。これらを抽出するには技術的困難を伴うだけでなく、費用もかかることが指摘されている。
他方、ベネズエラほどではないが、イランやイラクなどでも原油確認埋蔵量の大幅な増加が認められる。これらの国の国際発言力や自信の高まり(特にイラン)も、理解できる。
次に示すのは、原油確認埋蔵量の世界全体値に対するシェア。例えば2016年のベネズエラは17.6%であることから、世界中の抽出可能な原油全体量のうち、17.6%がベネズエラに存在する計算となる。
先に挙げたベネズエラ、さらには値そのものは小さいがカザフスタンがこの10年間で大きくシェアを拡大している。一方で世界全体の採掘量の増加を受けて、サウジアラビアやカナダ、クウェート、UAE、ロシアなどのメジャーどころは軒並みシェアを落としている。
実際には原油の品質、輸送設備、安定性、そして抽出量(生産量)なども大きな影響を与えるので、単に原油確認埋蔵量の変化だけで石油市場動向が変動を起こすわけではない。しかし、パワーバランスの変化が生じていることには違いない。大きな変化が見られた国における、外交的な動向を思い返してみると、色々と合致する部分もあるのが興味深い。
二度のオイルショックを経て、なおエネルギー源のメインとして活用されている石油(原油)におけるリスク分散を図るため、日本では他の原材料の活用促進や輸入元の分散などが推し量られている。しかし昨今では震災後のパニック的な動きにより、これら中長期的な視点から見たエネルギー戦略に、揺らぎが生じていることも否めない。
原油価格は現状では安定やや安値の状況にある。しかし少なからぬ産油国は、政治的に不安定なところがあり、状況が急変するリスクは否定できない。直近では中東周りでの動向が良い例である。各国の情勢と合わせ、原油価格や採掘・埋蔵動向にも注目したいところだ。
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※言葉の定義の補足
「1バレル」……石油・原油の量を測る単位。樽(たる)が語源で42ガロン、158.987294928リットル(約160リットルと覚えれば、日常生活では問題ない)。
「確認埋蔵量」……現在の技術で経済的に採掘できる量。科学技術が進歩して、より深いところまで採算が取れるレベルで採取できるようになれば、これまで以上に「確認埋蔵量」が増える可能性もある。当然、採掘していくうちに、そして計測ミスや再検証の結果、減る可能性もある。原油の存在が確認できても、採算の取れない場所でのものなら、その分はカウントされない。
「石油」……いわゆる採掘直後の「油」を指す場合もあるし、採掘した油からガスや水分、その他異物を大まかに取り除いた、精製前のものを指す場合もある(こちらはむしろ「原油(Crude oil)」と呼ぶ場合が多い)。今回対象となるのは基本的に後者の「原油(Crude oil)」。