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厳しさつのる生活意識…児童あり世帯の生活意識の変化をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 子供がいる家族は何かと負担も。景況感はいかなるものか(ペイレスイメージズ/アフロ)

生活のゆとり感はお財布の中身だけでなく、さまざまな要素で判断される。子供が居る世帯の心境はいかなるものか。厚労省の定点観測調査「国民生活基礎調査」(※)の公開値から、その推移と現状を確認する。

今回対象とする「生活意識の状況」は毎年調査が行われており、複数年の調査結果の値を取得できる。これは生活意識について「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「たいへんゆとりがある」の5選択肢から1つを選んでもらい、その回答を集計したもの。対象となる世帯は「児童のいる世帯(児童:18歳未満の、未婚の人)」。その回答を集計したのが次のグラフ。

↑ 生活意識別世帯数の構成割合の年次推移(国民生活基礎調査、2000~2016年)(構成比棒グラフ)(児童のいる世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合の年次推移(国民生活基礎調査、2000~2016年)(構成比棒グラフ)(児童のいる世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合の年次推移(国民生活基礎調査、2000~2016年)(折れ線グラフ)(児童のいる世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合の年次推移(国民生活基礎調査、2000~2016年)(折れ線グラフ)(児童のいる世帯)

年代の経過と共に「苦しい派」が増加するのは「全体値」の動向と同じだが、大元の値が厳しい状態にあり、2010年には「大変苦しい」が「普通」を超える現象が起きてしまっている。これは「全体」「高齢者世帯」には無かった動きであり、特にこのクロスを起こす直接の原因となった2010年以降の「大変苦しい」の増加が目に留まる。

さらに2011年には「大変苦しい」が「やや苦しい」ですら超えて、5選択肢の中で最大の値を示してしまっている。これは多分に景気の悪化に加えて、同年3月に発生した東日本大地震・震災による心理的影響が大きいと考えられる。その分、2012年はややリバウンドが起きたからか、「大変苦しい」はいくぶん減少し「普通」が大幅増加、わずかだが「普通」の方が多い形となった。もっとも2013年以降は再び増加し、「大変苦しい」が「普通」を超える状態となった。

2014年は消費税率引き上げ直後の調査だったこともあり、全体値などと同様に「大変苦しい」が大きく増加、「やや苦しい」も増えた。しかし2015年には消費税率引き上げの心理的影響も鎮静化し、景況感の回復もあり、「大変苦しい」は減少し、「普通」を下回る形となった。中期的に見ても他の属性同様、直近の2年間の動向は、これまでの流れとは明らかに向きを違えている、悪化一方だった意識が改善している状況がうかがえる。

この状況を分かりやすくするため、「全体」「児童のいる世帯」「高齢者世帯」共に「大変苦しい」「やや苦しい」を合わせた値、すなわち苦しい派の動きを見たのが次のグラフ。

↑ 生活意識別世帯数の構成割合の年次推移(国民生活基礎調査、1991~2016年)(「大変苦しい」+「やや苦しい」の推移、全体と高齢者世帯と児童のいる世帯)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合の年次推移(国民生活基礎調査、1991~2016年)(「大変苦しい」+「やや苦しい」の推移、全体と高齢者世帯と児童のいる世帯)

「児童のいる世帯」分のデータ開示が始まった2000年当時は「全体値」と変わらない値を示していたものの、あとは一貫して全体よりも高い値(=生活が苦しいとの意見が多い)を示している。

震災年で大きく開き、その翌年にやや縮小する動きを見ると、経済が悪化する度合いが大きくなるほど、「児童のいる世帯」に対する(心理的)負担が大きくなると見るべきかもしれない。

また消費税率引き上げが行われた直後に調査が行われた2014年ではどの属性も増加しているが、その後の景況感の回復に伴う下落(=生活に苦しさを覚える人の減少)は、他の属性と比べるとやや弱い値動きとなっている。子供が居る世帯においては、景気の回復度合いの浸透が、今一つなのかもしれない。

今件データは「世帯が調査日時点における、暮らしの状況を総合的にみてどのように感じているかの意識」を選択肢から選んでもらったもの。回答者一人一人の主観によるところも大きく、心理的動向に左右される面が大きいことを留意しておく必要がある。また調査日「時点」であることから、特異な事象が生じた直後の場合は、その年平均の心理状況では無く、その事象に大きく左右される可能性も多分にある(例えば2014年分は、消費税率の引き上げが4月に行われ、それから3か月後の7月に実施されているため、景況感では足が引っ張られている)。

その上で、「児童のいる世帯」においては全体平均と比べ、生活の切迫感では緊張感が続いている、余裕が少ない生活を強いられているとの状況については、覚えておいて損はない。

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※国民生活基礎調査

全国の世帯及び世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2016年6月2日・7月16日にそれぞれ世帯票・所得票・介護票、所得票・貯蓄票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収できたデータは世帯票・健康票が22万4208世帯分、所得票・貯蓄票が2万4604世帯分、介護票が6790人分。

今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2016年分)は大調査に該当する年であり、世帯票・所得票だけでなく、健康票・介護票・貯蓄票に該当する調査も実施されている。

また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大地震・震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分はデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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