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半世紀以上にわたるガス料金の変遷をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ ガスは料理やお風呂など生活に欠かせない存在。その料金は(ペイレスイメージズ/アフロ)

大きな変化をくりかえすガス料金

日常生活を営む上で電気同様欠かせないインフラの一つが「ガス」。総務省統計局の「小売物価統計調査」の公開値をもとに、半世紀以上に渡るガス料金の動向を確認する。

具体的なガス料金の動向として東京都区部の小売価格を参考に、半世紀ほど前の1960年以降、一年間を終えて年平均が算出可能な範囲での最新値となる2014年分までの値を随時取得していく。対象となるのは東京都区部のガス料金、その基本料金(使わなくとも発生する固定費)と、従量制のガス料金(基本的に1平方メートルあたり、最低区分)である。

一方、2014年から2015年に渡る小売物価統計調査における大規模な調査項目の差し換え、内部仕様変更に伴い、ガス関連でも基本料金や従量制の単価に係わる調査が実施されなくなってしまった。ガスの利用状況に関しては他に「1か月1465.12MJ使用したときの料金を算出」した値が調査対象に挙がっているが、こちらは2004年以降の分しか値が取得できない。そこで今回は双方について、取得できる範囲の期間の動向を確認する。

↑ 東京都区部のガス代推移(1960年~2014年)(円)
↑ 東京都区部のガス代推移(1960年~2014年)(円)
↑ 東京都区部ガス代推移(2004年~2017年)(円)(1465.12MJ使用を想定)
↑ 東京都区部ガス代推移(2004年~2017年)(円)(1465.12MJ使用を想定)

まず2014年までのグラフにおける推移。左側がいびつな形となり体裁が悪いのだが、これはグラフ中の説明にもあるように、対象使用量の違いによるもの。原因は不明だが1960年代前半において短期間、計測対象とする料金の設定を頻繁に変えた形跡がある。そのため、この時期の数字が突出してしまっている。また同時期の従量制部分のガス代も、一部データが欠損している。長期データを取得するために色々と試行錯誤をしていたのだと思われるが、やはり中長期の推移を見るような機会においては、このようなデータの断絶・基準の変更は都合が悪い。

それはさておき、その特異値以外で推移を見ると、基本料金は1970年代前半・1980年代後半、従量制部分は1970年代後半で大きく値を上げている。一部はいわゆる2度の石油危機(オイルショック)とほぼ時期を同じくしており、その影響であることが分かる。当時は物理的なガソリン・灯油の不足だけでなく、関連商品各種が値を上げざるを得ない状態に陥ったわけだが、ガスにもそれが及んでいたことが見て取れる。もっとも輸入するガスは原則LNGであり、タンカーで運ばれてくることを考えれば、原油価格の上昇がガスの価格引き上げにもつながることは、容易に理解できるはず。

またその後状況の安定化に伴い従量料金は値を下げているが、先の金融危機に連動して発生した資源価格の高騰を受け、少しずつ料金も値をかさ上げしている。そして2011年の震災を経て、ガスの需要が急増したことにより、さらに少しずつではあるが、従量部分の料金は上昇傾向にある。

一方2004年以降の、一定量を使った場合の総合的なガス代(世帯ベースでの利用状況を想定しているのだろう)。こちらは2010年まではいくぶん上昇気味の値動きのあとに下降へ転じ、2011年以降はややキツイカーブでの上昇。基本料金などの仕切り分けは今件値からは判断できないが、一つ目のグラフと見比べると、従量料金部分の値上げが全体的なガス料金の支払いに影響しているものと考えられる。そして2014年をピークに、直近の2017年までは下落に転じているが、これも電気料金同様に、原油をはじめとした資源価格の下落に伴うものである。

消費者物価の動向を反映させると

モノやサービスの値段の価格の推移を見る場合、当時の額面自身の流れを追うと共に、家計に対する負担を考慮したい場合もある。その際に便利なのが消費者物価指数。この指数と連動させる形で価格を算出すれば、家計への負担の推移をより正確に推し量ることができるようになる。

そこで各年のガス料金に、それぞれの年の消費者物価指数を反映させた値を試算することにした。2017年の消費者物価指数を基準とし、各年のガス料金などを再計算した結果が次のグラフ。

↑ 東京都区部のガス代推移(1960年~2014年)(円)(2017年の消費者物価指数をベースに再計算)
↑ 東京都区部のガス代推移(1960年~2014年)(円)(2017年の消費者物価指数をベースに再計算)
↑ 東京都区部ガス代推移(2004年~2017年)(円)(1465.12MJ使用を想定)(2017年の消費者物価指数をベースに再計算)
↑ 東京都区部ガス代推移(2004年~2017年)(円)(1465.12MJ使用を想定)(2017年の消費者物価指数をベースに再計算)

基本料金部分は物価変動にほぼ対応しており、実質的な価格は横ばいを維持しているのが分かる。一方、従量制部分は1980年前後の大幅値上げが目立つ。オイルショックは第一次(1973年。第四次中東戦争)よりも第二次(1980年。イラン革命)の方が、石油供給の観点では大きな衝撃を与えていたことが改めて理解できる。

また第二次オイルショック以降は資源供給の安定化と共に実質的に値下げ、そして横ばいの状況が続いたものの、その後少しずつではあるが値を上げていることも確認できる。特に2007年以降は金融危機に伴う資源価格の高騰、そして震災以降におけるエネルギー需給の変化により、上げ幅が大きくなっているのが気になるところだ。

他方、世帯ベースでの支払いを想定している2004年以降の動向では、大よそ従来の価格動向と変わりはない。2009年から2011年におけるへこみがやや大人しくなった程度である。

家庭のインフラの大部分を電化する、いわゆる「オール電化」の浸透率は上昇中で、ガスは劣勢に立たされていた。しかし2011年の震災を経て、たとえ家庭内でもインフラを単一化することによるリスクが露呈してしまい、今では以前ほどの勢いは見られない。また、たとえ料金が高いにしても、多様性・応用性の高さで分のある電気を集中利用するのは、エネルギー利用の最適化の視点では問題があるとの指摘も少なくない。

昨今ではガス供給の面でシェールガスが注目を集め、世界におけるガスの需給状況が大きな変化を迎えている。日本においてもエネルギー政策の点で大きな揺らぎが生じており、それが二、三年前までのガス料金の値上げの一因にもなっている。資源価格の上昇、為替レートの変動、さらには電力事情の変化に伴うガス需要の急増をきっかけとしたガス価格の上昇などで、震災以降ガスの従量料金は漸増傾向にあった。昨今ではLNG価格の下落などを受けてガス料金も安値で推移しているが、この状況がこのまま継続する保証はどこにもない。

今後ガス料金がどのような変化を遂げていくのか、中長期的な視点から見続けていきたいところだ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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