主要国軍事費の推移を複数視点からながめ見る
政府支出に占める軍事費の割合、米は9.3%、露は15.5%
国際的な軍事研究機関のストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の公開資料を基に、主要国の軍事費を政府支出の総額比率や人口比率など、複数の視点から確認する。各国の軍事費の実情を推し量ることができよう。
そのSIPRIの発表によると直近となる2016年における各国軍事費(米ドル換算)で、トップはアメリカ合衆国、次いで中国、そしてロシアの順となっている。
これは単純に米ドル換算して比較したもの。国によって内情が異なることから、単純な額面比較だけでは問題ではとの指摘もある。そこでまずは、それぞれの国の政府支出総額、つまり国家予算に占める軍事費の比率を算出する。
次に示すのは2016年時点における米ドル換算による軍事費上位10か国の、それぞれの国の政府支出総額に占める軍事費の割合。例えばアメリカは9.3%とあるので、国家予算全体の1割近くは軍事費にあてられていることになる。また過去値を用い、計上可能な範囲での過去の比率推移を折れ線グラフ化する。
それぞれの国の各年における経済状況や周辺環境にも大きく影響するため、一概にどの程度が望ましい値なのかに関する基準値は無い。経済力に見合わない軍事費負担が国そのものの経済を不安定化させることも事実。安全を望むために保険に多数加入したところ、毎月の保険料で首が回らなくなってしまうようなもの。
一方、同じ軍事費額でも政府支出全体が増加すれば比率は下がる。政府支出総額に対する比率の低下は、単に軍縮・予算不足による削減以外に、経済力の伸張を意味する場合もある。
中東諸国は概して比率が高い。そのため額面そのものも大きくトップテン入りしたサウジアラビアのために、グラフ全体の縦軸の最高値を引き上げる必要が生じる程。それでもかつて示していたピーク時の約40%と比べ、現在では27.6%にまで落ち着いている。
その他の国ではロシアはいくぶん増加しているが、大よその国では減少傾向にある。中国も総額比率では減少しているが、これは他国とは少々事情が異なり、経済成長による総支出額に軍事費の増加が追い付いていないため。また今件で計上されている軍事費に関して中国の値は内情が推し量りにくいため、推測値となっているのも要因だろう。
対人口比換算をすると
国家間比較の話でよく持ち上がる意見の一つが「人口が多ければ国の規模も大きくなるから、大国の数字が大きくなるのも当然」とするもの。そこでそれぞれの国の軍事費を、各国の人口で除算し、国民一人当たりの軍事費額を算出したのが次のグラフ。
対政府支出総額が大きめなサウジアラビアが、対人口額でも大きな値を示している。他方それにアメリカ合衆国が続き、あの人口をもってしてもこれだけの高額になるほど、アメリカ合衆国の軍事費が大きいことがうかがえる。
絶対額では大きな伸びを示す中国やインドだが、人口比では少額にとどまっている。日本は1人頭365ドル。
経年変化を見ると、軍事費の圧縮を続けるアメリカ合衆国と、円安の影響を受けた日本、ルーブルの下落で米ドル換算では失速しているロシアでこの数年減少傾向が見られるものの、それ以外の国では概して増加傾向にあることが確認できる。人口が急激に増減する事象は生じていないことから、軍事費は大よそ増加傾向にあると見て良いだろう。ただしフランスとドイツもこの数年に限れば下落の動きを示しているのが気になるところ。
なおサウジアラビアが直近年で大きな下落を示しているのは、2016年が実支出額の計上で2015年は予算額であることに加え、2015年では対イエメンへの軍事支援200億サウジリヤル(約6000億円)が計上されていたが、2016年ではその類の支援額は含まれていないからとSIPRIでは説明している。
インドや中国のように多分な人口を抱える国の動向が分かりにくいこともあることから、対人口比の額面がどのような変化を示したのか、該当国すべてで値を取得できる最古の1989年当時と直近の2016年の値を比較し、その増加ぶりを倍数で示したのが次のグラフ。例えばアメリカ合衆国は1.6とあるので、1989年から2016年にかけて、国民一人あたりの軍事費は1.6倍に増加(6割増し)したことになる。
ロシアがむしろ減少しているのが驚き。ドイツはほぼ横ばい、日本は1.6倍。インドはやや大きめで3.4倍、サウジアラビアは2.5倍。そして中国は実に15倍以上を計上している。これもまた、各国の軍事費動向を推し量る上での指針となるに違いない。
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