自国の習慣や伝統の尊重は真の自国民として重要なのか、諸国の考え方の実情
現代社会において国家は人々の組織的社会集合様式として欠かせないシステムであるが、同時に環境の変化と共にその概念の根本部分が揺さぶられていることも否定できない。自国民とはどのような立ち位置にある人を指すのか、自分は本当に自分の国に属する国民として胸を張れる存在なのか、自問自答的な論議が交わされている。今回はアメリカ合衆国の民間調査会社PewResearchCenterが2017年2月1日に発表した調査結果「What It Takes to Truly Be ‘One of Us’」(※)から、その自国民の認識要素の一つ「自国の習慣や伝統を尊重・共有すること」がどこまで肯定されているかについて確認していく。
次に示すのは法的な問題以外に自国民足り得るか否かを判断する際の要素として、自国の習慣や伝統を尊重・共有する事が重要か否かを尋ねた結果。あくまでも回答者の考え方であり、その国の一般論ではないことに注意。また自国の習慣や伝統に関し、具体的な要綱の例示は無い。
青が重要視派、赤が重要では無いとする派であり、第一印象としてはどの国も自国の習慣や伝統の尊重・共有は自国民を主張することにおいて重要な要素足り得ると考えているようだ。
縦軸は「大変重要」の回答率の高い順に並べているが、ハンガリーやギリシャ、ポーランドなどそう遠くない過去に侵略行為を受けた国が強い認識を抱いているのがうかがえる。他方、イギリスやイタリアのように、長い歴史を持ち文化伝統を尊重していると他国から強く見られている国もまた、高めの値を計上している。一方でドイツやスウェーデンは値が低めで、重要では無いとする意見もかなり多い。
国境線の変更が何度となく頻繁に行われているヨーロッパだが、習慣や伝統に対する考え方は色々と複雑のようで、報告書では回答者のイデオロギーによる仕切り分けの結果も公開している。
どの国においても左派は習慣や伝統への傾注を自国民の認識の要素として重要であるとの意見は少なく、右派は非常に大きい。大よそどの国も右派は左派の2倍程度の値を計上している(ギリシャやハンガリーはそれほど差は開いていないが)。左派・右派がそのまま自国の習慣・伝統への傾注の重視・軽視につながるわけでは無いが、その思惑とは少なからぬ関係があるのだろう。公開情報はあくまでもヨーロッパ諸国のみだが、他の地域でも同じような結果が出るのかもしれない。
今調査はアメリカ合衆国の調査機関によるところもあり、同国の結果に関しては属性別の値も公開されている。
年齢階層別では若年層ほど低い値、高齢層ほど高い値を計上し、高齢層は習慣・伝統を尊重する姿勢が強いことがうかがえる。興味深いのは学歴別で、高学歴ほど値が低くなること。学歴が高くなると習慣や伝統にはさほどこだわりを見せなくなるのだろうか。
なお属性別では日本の値も一部ではあるが公開されている。それによると「大変重要」の値は「50歳以上は50%、34歳以下は30%」「高卒以下は47%、大卒以上では36%」との結果が出ているとのこと。傾向としてはアメリカ合衆国とさほど大きな違いは無いようだ。
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※What It Takes to Truly Be ‘One of Us’
対象国に2016年3月から5月に18歳以上の男女に対して渡り電話による通話アンケート方式(一部は対面応対方式)で行われたもので、有効回答数は約1000件(一部の国ではそれ以上)。それぞれの国の実情に合わせてウェイトバックが行われているが、一部の国では都市部のみの調査となっている。