いわゆる「未婚の母」による出生率の実情
直近年の出生総数に占める非嫡出子率は2%
日本の出生率が低い原因の一つに挙げられるのが、他国と比べて「結婚していない女性による出生した子供(婚外子、非嫡出子)」の数が少ない事。その実情を他国比較も合わせ確認する。
日本の婚外子出生率は厚生労働省の「人口動態調査」の詳細データに収録されている。現時点では2015年分までが公開されているので(2016年9月8日付で確定報が公開)、各年における「出生総数に占める、嫡出でない子の割合」を算出の上でグラフにしたのが次の図。
データ収録開始直後の1947年からしばらくは戦後の混乱期などの事情もあり、嫡出でない子の比率は(日本としては)極めて高く4%近くに達していた。その後1975年から1980年の高度成長期までは低下を続け、その後再び増加を見せる。このタイミングは高度成長期であると共に日本の人口周りの数字におけるターニングポイントでもあり、非常に興味深い動きといえる。
直近の2015年においては非嫡出子率は2.29%。嫡出子98万2645人、嫡出でない子は2万3032人。
諸外国の状況を探る
出生率の増減のカギを握る、出生全体における「嫡出でない子」の比率は、日本では極めて小さい。他方、非嫡出子に関わる問題で比較対象国として挙げられることが多いアメリカ合衆国では、ヒスパニック系の人たちをはじめとした非白人の割合が高いことが確認できている。
この非嫡出子率の高さは、アメリカ合衆国(、さらにはその他少なからぬ諸外国)では「結婚しないまま子供を出産する」(非嫡出子)事象が社会的・文化的に容認されつつあること、国や社会全体が支援する仕組みを構築している(あるいは個人の「何とかなるだろう」との楽観的な考え方、「そうせざるを得ない」との悲観的状況の増加など)が要因。そして非嫡出子の増加は出生率そのものを押し上げる大きな力となっている。
それでは日本とアメリカ以外の状況はどうなのだろうか。OECDが公開しているデータベースOECD.statから、調査対象国における「その年の総出生者のうち結婚していない人による出生者数比率」、つまり非嫡出子比率を抽出した結果が次のグラフ。
データの収録国に関してやや偏りがあり、アジア方面の値がほとんど収録されていないことから、定説の一つとして挙げられている、また上記のアメリカ合衆国の事例でも数字として確認できる「社会的、文化的特性から、太平洋・アジア文化圏では非嫡出子が容認されにくい環境にあり、結果として値も低くなる」との裏付けがし難いものとなっている。それを差し引いて考えれば、これらの国の多くは日本より婚姻率が低いにも関わらず、出生率は高い。その要因として嫡出でない子の存在が挙げられる。
出生率と非嫡出子と
国の経済的な発展(先進国化)と少子化は、いわば「先進国病」的なものとして常に連動して発生する。少子化社会白書の平成16年版では「世界的にみれば、ほとんどの先進国が少子化社会となっているが、北部ヨーロッパのアイスランド、アイルランド、西部ヨーロッパのフランス、北アメリカのアメリカ合衆国が、比較的高い合計特殊出生率の水準を維持している」と記載されているが、それらの国は押し並べて「嫡出でない子」の比率が高く、それらが深い関係にあることが分かる。
また、第一生命が以前に発表したレポート「日本における「結婚」へのこだわりと婚外子(PDFファイル)」では、日本は婚姻内での出生にこだわる社会文化があり、これがいわゆる「できちゃった婚」の増加の一因であると推定すると共に、「婚姻率の相対的な低さを事実婚や同棲の一般化が補っている部分があり、非婚カップルに生まれる婚外子出生率の高さが、全体の出生率低下に歯止めをかけていると指摘されている」と言及している。これも納得のいく解説といえよう。
ともあれこれらの事例を見る限り、半ば先進国病ともいえる出生率の低下と、それを補うような形で先進諸国の一部でも浸透しつつある「嫡出でない子」の増加。これが出生率の維持・増加のカギであるのは間違いない。そして日本(に限らずアジア全般)では社会文化などから、これらの値が低いままであり、それがアジア諸国において先進化すると出生率が急速に低下する要因とも考えられよう。
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