新聞は「低所得者の生活必需品」「多くの人が日々の生活の中で必要な情報を得るために毎日読むもの」なのか
近々正式に発表されるであろう、2017年4月に導入する「予定」の消費税率の軽減税率の対象として、食品「以外」の新聞も該当するとの報道が相次いでいる。その理由として新聞は「低所得者の生活必需品」であり、「多くの人が日々の生活の中で必要な情報を得るために毎日読むもの」だからとの説明がある。
この新聞には宗教色の強いもの、政治機関紙的なものが含まれるのか(「生活必需品」「必要な情報」の観点における問題)、電子媒体上で刊行される電子新聞は該当するのか(新聞社による電子版新聞の他に、有料メールマガジンなども該当すると解釈されかねない)など、少なからぬ問題が考えられるが、それ以上に「本当に新聞は低所得者の生活必需品」で「多くの人が日々の生活の中で必要な情報を得るために毎日読むもの」なのだろうかとの疑問が沸いてくる。
そこで総務省統計局による家計調査の最新版となる2014年分データを用い、二人以上世帯における世帯年収別動向を確認することにした。合わせて新聞同様に、むしろ昨今では新聞以上に「生活必需品」との認識が強く、また昨今では「携帯電話の支払い料金が家計に負担となっているので、携帯電話事業者は配慮をするように」との要請も出されている、つまり政府側からも「欠かせない存在」と認識されている移動電話(携帯電話全般。従来型やスマートフォンを合わせたもの)の動向も見ていく。
次に示すのは「二人以上世帯全体」(勤労者世帯以外に年金生活者世帯も含む)における、世帯別新聞購読率・移動電話通信料支払い率の、世帯年収別推移。合わせて購読・支払い世帯における平均支払額も算出した。なお今件では「新聞購読料支払い世帯は月極での購入」「移動電話通信料を支払う世帯は携帯電話を所有している」と定義している。また単身世帯はデータが存在しないので検証からは除外する。
まず実質的な普及率だが、新聞はむしろ低収入層の方が普及率が高い。100%を超えている層は、1世帯当たり1部以上か、月極以外にも単発で周期的に購入している世帯があることになる。他方、携帯電話は低年収ほど低所有率ではあるが、その差は200万円未満を除けば20%ポイント足らずでしかない。
利用世帯の負担費用は、新聞ではほぼ一定。1紙あたりの月額料金にさほど差が無いこと、多くの購入世帯では1紙の購読であることを考えれば当然の話。他方携帯電話は利用の仕方で費用が大きく変わること、子供のあるなしなど世帯構成などによって世帯内所有台数が変わることから、高年収層ほど額が上昇していく。
この結果のみを見ると、「新聞は低年収層へのサポートとして欠かせない存在」との話もあながち間違っていないように見える。しかし「二人以上世帯」には勤労者世帯以外に年金生活者世帯も多分に含まれていること、年金生活者は世帯年収こそ低いものの、生活費の少なからずを資産の切り崩しで充当していることから、実生活様式と額面上の年収との間には、勤労者世帯と比べて差異が大きく出ることを考える必要がある。
そこで勤労者世帯に限り、上記グラフを再構築したのが次の図。
利用者世帯の支出額動向はさほど変わりはなく、新聞は一定、携帯電話は高年収ほど上昇していく。他方普及率は一部イレギュラーが生じているものの、新聞は多分に高年収世帯ほど購読している、携帯電話は世帯年収による差異があまり出ていない。
つまり現役世代に限れば「低年収層における生活必需品」はむしろ新聞より携帯電話であり、新聞は優先順位としては低いことがうかがえる。そして逆算すれば、新聞を「低年収層における生活必需品」としているのは、二人以上世帯においては非勤労者世帯、大よそ高齢年金生活者世帯が該当していることとなる(若年層では年金生活者は有り得ない)。
実際、世帯主の年齢階層別で仕切り直すと、まさにその通りの結果が出る。
世帯主の年齢と共に新聞普及率は上昇していく。他方、携帯電話は70歳以上でやや下がるが、60代までは8割以上をキープしている。広範囲の世帯に普及浸透しているか否かの観点では、はるかに携帯電話の方が上となる。
なお高齢世帯で携帯電話の利用者世帯における利用料金が大きく下がっている。これはスマートフォンでは無く、利用料金が安上がりで済む従来型携帯電話を利用している人が多いのが要因。
上記で挙げた問題以外にも、「食品以外でなぜ突然新聞が対象となるとの話が出て来たのか」「新聞業界自身以外で、新聞を対象とするようにとの声はどこから上がっているのか」「低所得者の生活必需品として食品以外を挙げるならは、むしろ水道やガス、電気などのインフラの方が、より一層生命に直結するものではないのか」など、新聞の軽減税率適用に関しては、首を傾げる点が多い。そもそも景気動向を考慮すれば社会保障の抜本的見直しも合わせ、消費税率の引上げ自身に疑問符を呈せざるを得ない。
それらを脇に置くとしても、新聞があえて特例的に挙げられたのは、データの上からも不思議な点が多い。単に「低所得者の生活必需品」で「多くの人が日々の生活の中で必要な情報を得るために毎日読むもの」ならば、むしろ今夏以降に該当業界に是正を求めた、そしてデータの上からも裏付けの取れる、携帯電話料金に目を向けるべきだと結論付けざるを得ない。
あるいは「低所得者の生活必需品」とは大義名分で、実質的に「高齢者世帯の生活必需品」と解釈すれば良いのだろうか。そもそも本当の、今件事案のケースでサポートをすべき低所得者世帯では、現時点ですでに新聞の定期購読はしていない気がするのだが。
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