一人暮らしの買い物生活は20年でどのように変わったのか
流通網や商品の流行り廃り、店舗形態、消費性向の変化に伴い、暮らしの中で調達する品々の調達先は大きな変化を遂げていく。今回は自身の購入判断ですべてを決定できる、一人暮らしにおける買い物先の移り変わりを、総務省統計局が2015年9月に発表した「2014年全国消費実態調査」の単身世帯に係わるデータを元に確認していくことにする。
次以降に示すのは単身世帯における消費支出(税金や社会保険料をのぞいた「世帯を維持していくために必要な支出」)のうち、消費先が調査票上で明記されている金額のルート別金額シェア。原値の回答項目には「その他」も含まれているが、直近年における回答値で多分のぶれが確認されているため、過去の分まで含めてそれをのぞいて再算出した値を精査する。
まず目に留まるのが「一般小売店や百貨店の減少と、スーパーの増加」。大型スーパーやコンビニ、昨今ではディスカウントストアや100円ショップの進出と、消費性向の減退で、普通の小売店がビジネス的に立ち行かなくなり、近所の店がシャッターを閉じる場面が増えてきたのが一因。そしてそれらの店と比べてスーパーなどの方が商品価格は安く、短い移動距離でまとめて買物が行えるので手間もかからない。メリットが多く、そちらに足を運ぶようになったのも大きな要因。
気になるのはコンビニに関する動き。世間一般には「若者はコンビニを積極活用している」とのイメージがある。しかし今グラフを見る限り、利用金額の割合の面では、昔も今もさほど変わらない。むしろ直近ではいくぶんであるが減退する動きすら見受けられる。
またネット通販の利用が大きく拡大し、代わりにディスカウントストア・量販店が減っている。購入時の便宜性や品揃えの豊富さなど、ネット通販のメリットはいくらでも見出すことができる。もっともネット通販がシェアを奪った対象は商品構成から考察するに、ディスカウントストアだけでなく、百貨店なども含まれているのだろう。
続いて30歳~59歳。30歳未満とはやや違った動きが確認できる。
就職から間もない若年層でもなく、定年退職前後の高齢者でもない、単身赴任以外は微妙な立ち位置ともいえるこの世代の単身世帯。一般小売店の利用率減退とスーパーの増加は30歳未満と変わらない。スーパーの利用頻度はかなり高めで、30歳未満を超える。
一方でディスカウントストアなどの利用も年々増加しているが、若年層ではまちまちだったコンビニの比率が少しずつながらも確実に増加の一途をたどっている。比率はまだ30歳未満より低いが、今後逆転することも十分にありえよう。
ネット通販の値が漸増しているのは30歳未満と変わらない。比率こそやや少なめだが、1割に近づく勢いを見せている。
最後に、社会問題的には一番気になる60歳以上の単身世帯。多くは定年退職前後に配偶者と離別・死別した一人暮らしの人が該当する。勤労者世帯か否か、無職か否か(勤労者はあくまでも被雇用者を意味し、会社役員や自営業者などは勤労者に該当しない)までは問われておらず、それらの属性がすべて混じっている。
「一般小売店の減退とスーパーの伸長」の点では他世代と変わりはないが、この2系統だけで7割近い支出を占めているのが特徴的。これは高齢者においては移動の難儀さなどから多店舗での買物を苦手とし、可能ならば少数か所・自宅から短い距離にある場所で生活必需品を調達したいとの希望を有しているため。一般小売店は近所の商店街(=短い距離で済む)を意味するが、商品の値引きがされにくいことに加え、閉店が相次ぎ通えない店が増えてきたことを考えれば納得がいく。個々の用品を販売する店が集まった商店街の便宜性が低下し、何でもそろうスーパーが近場に登場すれば、そちらを日常生活品の調達先のメインとして選ぶようになるのは、道理ではある。
「長距離の移動が苦手なら、ネット通販を利用すれば良いのでは」との発想もある。しかし高齢者は一般的に他世代と比べると、インターネットを用いたサービスの利用が苦手なのは他の多数の調査結果から明らかになっている通り。今件でも計測項目がはじめて用意された2004年・2009年共に0.4%でしかなく、直近の2014年でも1.4%に留まっている。
他方、コンビニの利用がほんのわずかずつではあるが増加している点にも注目したい。価格がスーパーなどよりは高く、商品ラインアップもデパートやスーパーほどではないものの、日用生活品の取扱範囲も増えており、何より店舗数の拡大で「身近」さは増している。深夜営業などのメリットを享受する部分は無いが、単身高齢者の間にも、コンビニは少しずつその存在意義を高めつつある。
どの世代でも一般小売店のシェアが下がり、その分スーパーが増加している。この動きは恐らく、居住地域周辺の店舗状況を見れば納得はできるはず。一方で若年層のコンビニ離れ・中堅層以降の増加は意外に見えるかもしれない。次の調査となる2019年にはどのような変化が生じているだろうか。
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