「お年寄りほどお金持ち」の実態、貯蓄総額分布
全体比率で見る世帯数、そして貯蓄「総」額
高齢化社会が進むに連れて、年金問題と共に指摘されることが増えてきたのが世代間の財力格差問題。現実問題としてどの程度の世代別格差が生じているのだろうか。その指針の一つとして、総務省統計局の定点観測的調査の一つ「家計調査」の「貯蓄・負債編」から、「二人以上世帯」における貯蓄状況を確認していく。
次のグラフは、その家計調査の結果をもとに計算した「該当世帯数全体における、各世帯主年齢別の世帯数比率」、そして「各世帯主年齢階層別の、貯蓄総額に占める金額比率」。「世帯数割合」は比較のために生成したものである。なお「貯蓄・負債編」では単身世帯の調査はなされていないため、今件結果は日本全体の状況を指し示しているわけではないことに注意しなければならない(現状把握には十分有益だが)。また今件「貯蓄」は負債と相殺したものでは無く純粋な貯蓄額のみを示している。
元々若年層は蓄財の機会・期間が少なく、金銭的余裕も少ない。当然貯蓄も少なくなる。さらに高齢者世帯が増加し、若年層世帯の数が減少しているので、世帯数割合が減少する(「「お年寄りがいる家」のうち1/4・414万世帯は「一人きり」」)。結果として「年齢階層別の貯蓄総額比率」も、高齢層が増えていく結果になるのは明らか。
直近の2013年分に関しては、70代以上の世帯数が大幅に増加したので、世帯数比率・貯蓄比率共に、ますますシニア層の比率が高まっている。「高齢層全体のお金持ち度」がアップした次第である。
シニア層全体の貯蓄額増加は「人数増加」と「経年蓄積」
上記グラフは高齢層全体への貯蓄の偏りの強化を示すものではあるが、それが同時に個々の高齢者世帯が富んでいくことは意味しない。次に示すのは、個々世帯の世代別における貯蓄額の推移だが、個々の高齢者世帯が年々蓄財を増しているとの結果は出ていない。
つまり「所属世代層全体では無く、1世帯単位で比べれば、元々高齢層は若年層と比較して貯蓄額が大きい。そして高齢層の世帯数が増加し、若年世代層が減っているのだから、全体に占める高齢層全体の貯蓄額比率が増えても当然」というのが実態となる。「個々のお年寄り世帯はますます裕福になる」との俗説は、構成要素一つ一つの値の比較と、各世代属性全体による値の比較を混ぜ合わせてしまうことで生じやすい、誤解の一つといえる(年金生活者の家計実状事例は「年金生活をしているお年寄り世帯のお金のやりくりをグラフ化してみる」を参考のこと。貯蓄の切り崩しが前提となっている)。
ただし視点を変えれば、「二人以上の世帯の総貯蓄の2/3強は、60歳代以上の世帯だけで有する」「二人以上の世帯の総貯蓄の約84%は、50歳代以上の世帯だけで有する」のも事実ではある。そして負債の多くは住宅ローンで、統計上では50歳代前後にはほぼ完済していることから、実質的な「純貯蓄額」(貯蓄から負債を引いた額)の総量はさらに50歳代以上に偏るのも否定できない(この「純貯蓄額」は若年層ではマイナスになるのでシェア計算は出来ない)。
若年層に無理な支出を強いるより、「60歳代以上で2/3」「50歳代以上で84%」(二人以上世帯のみ)の貯蓄をサービスなどの対価として、市場で消費させるかを考えた方が、内需活性化における効率は良い。この事実を政策にも大いに取り入れてほしいものだ。
もちろんこれは「高齢層に無駄遣いをさせろ」を意味しない。支払いの価値がある効果・満足感を得られる商品・サービスを提供し、お財布のひもを緩められるだけの安心感で社会の秩序を維持し、さらには資産を市場、そして特に若年層に還流させる仕組みを多数創り上げることを意味する。
それこそが社会の活力・生産力を底上げし、高齢者の満足感と、後に続く世代に対して直接の資産だけでなく、将来に続く国富をも手渡せる道につながるはずである。
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