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「昨年より大幅に厳しい」今夏電力需給状況

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 電力会社管轄間でやりくりを行うための連系線にも限りはある

今夏は昨夏よりも厳しい電力需給状況

昨年冬における「数値目標を設けない節電要請」などを発した、政府による電力需給対策・施策と同様、今夏の電力需給に対応する「2014年度夏季の電力需給対策について」はゴールデンウィーク明けにも発表され、具体的な今夏の節電要請、あるいは電力使用制限令の有無に関する詳細が明らかになる。その施策の判断材料として、以前から各種専門委員会が開催され、討議が行われている。中でも重要なのが「電力需給検証小委員会」で、施策決定のための各種資料が提示され、その公開も行われている。過去の電力需給対策を検証した限りでは、この委員会で呈された資料がほぼそのままの形で政府の施策発表の際の資料としても用いられる。今回はその資料を先行する形で取得し、今夏の電力需給状況の確認を行うことにする(先日経済産業省から、委員会の報告書をまとめた「電力需給検証小委員会の報告書をとりまとめました」も発表されている)。

一連の委員会内報告書では、今夏の電力事情について4項目にまとめている。

1.2014年度夏季は大飯原発3・4号機の停止や松浦火力2号機のトラブルなどにより、東西の周波数変換装置(FC)を通じた融通をしなければ、中部及び西日本で予備率は2.7%にまで下落。電力の安定供給に最低限必要となる予備率3%を下回る。

2.東日本から西日本へFCを通じて約60万kWの電力融通を行えば、予備率3%をギリギリ確保。しかしFCによる電力融通をあらかじめ織り込むことはリスクへの対応力が喪失する。

3.昨年より大幅に厳しい需給状況であることを踏まえ「FCを通じた電力融通にあらかじめ頼らずとも電力の安定供給を確保できることを目指したさらなる取組」「火力発電設備の保守・保安の一層の強化(不測の供給力減少リスクの軽減)」「具体的で分かりやすい節電メニューを示しつつ必要な節電要請を行うこと」「ディマンドリスポンス等の促進を図ること」などの施策が求められる。

4.電力需給の量的なバランスのみならず、コスト増や温暖化、化石燃料依存度の高まりも深刻な問題。コスト抑制策やエネルギー源の多様化、調達源の多角化などに取り組む必要がある。

重要なのは、震災から3年以上が経過した今夏季でも、昨夏よりもさらに厳しい電力需給状況が見込まれている点。最大の理由は「1.」の通り大飯原発3・4号機の停止や松浦火力2号機の使用が望めないといった、供給力のイレギュラー的マイナスが生じたから。元々震災以降は綱渡り的な電力のやりくりが求められていたわけだが、そのリスクが体現化した形となる。

↑ 2014年度夏季における電力予備率見通し(沖縄除く)
↑ 2014年度夏季における電力予備率見通し(沖縄除く)

昨年夏と比較して新設発電所の稼動、再生可能エネルギーによる発電量力の上乗せ、新電力への切り替えに伴う9電力管轄からの離脱など、需給面でプラスとなる面もある。しかしそれらプラスとなる要素の内部にも、火力は老朽化や管理の面でリスク上昇、揚水は天候に左右される面や連続使用の点でやや難、再生可能エネルギーは出力に波があるため火力や水力より使い勝手が悪いなどの問題がある。

↑ 2014年度夏期供給量想定(各電源別、2013年度夏期最大需要日の供給力実績比、万kW)
↑ 2014年度夏期供給量想定(各電源別、2013年度夏期最大需要日の供給力実績比、万kW)

需要の面では節電が逐次進んでいるが、震災以降の経済復興などに伴い、電力需要は増加している。新電力への移行もあるが、需要が大きく増加していることに変わりはない。

↑ 電力需要における夏期経済影響等(新電力への離脱影響含む、2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)
↑ 電力需要における夏期経済影響等(新電力への離脱影響含む、2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)

蓄積されるリスク、増加する費用

試算の限りでは今夏は、最後の切り札ともいえるFC経由の融通電力まで「最初から」駆使し、ようやく関西・九州両電力管轄で、最低限の予備率(3.0%)を確保できることになる。しかしこの状態は各発電所において、従来行われるはずのメンテナンスや機器の改編・更新を先延ばし、間引きなどを実施し、稼働を続けた上でのものとなる。さらに従来ならば解体待ちの老朽化した発電所まで再稼働させているところも少なくない。

そして稼働率そのものも通常想定以上に高めている。当然トラブルリスクは平常時と比べ高い状態になる。その上、震災により電力需給がひっ迫して以降、老朽火力発電所(稼働開始から40年以上が経過した発電所)の相次ぐ強引な稼働に伴い、それらが稼働中の火力発電所全体に占める割合は増加。「想定以上の稼動率」「老朽発電所の再稼働」という2つのリスク上昇要因により、計画外停止件数は増加の一途をたどっている。

↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季と冬季)
↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季と冬季)
↑ 火力発電における老朽火力発電所割合推移(設備容量ベース)
↑ 火力発電における老朽火力発電所割合推移(設備容量ベース)

火力発電所においては、その設備容量(最大発電可能容量)の2割までもが老朽化し、本来閉鎖・廃棄扱いされてもおかしくない発電所を、半ば強引に稼働させている状態である(コスト面などで問題の多い石油燃料の火力発電に限定すれば1/3を超えている)。

また、原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加も顕著化。「原発の停止分の発電電力量を、火力発電の焚き増しにより代替していると仮定し、直近の燃料価格などを踏まえ」これまでの実績及び今後の試算を行うと、2011年度から2013年度の3年間で9.0兆円のロスが生じる計算となる(電力需給検証小委員会第6回会合「資料2 委員会におけるご指摘事項と回答」などから)。

↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2014年4月時点、2013年度は推計)
↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2014年4月時点、2013年度は推計)

当然、このコストは直接的に電力会社への負担となり、メンテナンスや機器改編・更新のさまたげとなる。そして電気料金の引き上げは家計や企業への重圧となり、経済行動の低迷を導き得る。家計に限っても、それだけ可処分所得が減り、生活への負荷につながることは、多くの人が体感しているに違いない。

委員会からの各種報告書、経産省の報告書まとめレポートを読み解く限りでは、今夏の電力需給対策・施策が数値目標の無い節電要請(昨夏同様)に留まるか、それとも電力使用制限令(2011年夏季に発令)が発令されるかは微妙なところ。半ば強引にでも予備力を最低限必要な3.0%以上にした点からは、法的強制力のある、それだけに経済的な圧迫感の大きい制限令の発令は極力避けたいとの思惑が見えている。しかしいかなる決定が下されるかは現時点では判断が難しい。

いずれにせよ、少なくとも電力需給が昨年夏より厳しい状況に変わりはない。震災直後から連なる政策の決定的な過ち、それが今なお後遺症の形で続く現状を悔やみつつ、今後に向けて最大限の状況改善のための手立てがなされることを望みたい。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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