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「3.3対1」選挙の現状を示す、ある数字

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 昨年末に実施された第46回衆議院選挙。そのデータは如何なる実情を示しているか

先の衆議院選挙の世代別投票状況で知る「3対1」

選挙をはじめとした政治周りの話では、よく「3対1」という数字が用いられる。若年層と高齢層、特に団塊世代との間の、政治に対する意見力の差異を表したものだという。この数字が確かなものか否か、昨年末に行われた第46回衆議院選挙の公開データを基に精査を行う。

用いるデータは総務省が発表している選挙関連資料の平成24年12月16日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果。この公開サンプリングデータを基に、同選挙の男女・世代別人口数と投票者数、そして男女を合わせた世代別投票率をそれぞれ算出し、グラフ化したのが次の図。

↑ 性別・年齢階層別有権者数と投票数、投票状況調査地区における結果
↑ 性別・年齢階層別有権者数と投票数、投票状況調査地区における結果
↑ 年齢階層別投票率
↑ 年齢階層別投票率

元々少子化が進行していることで、若年層の人口は他の年齢階層と比べると少なめとなる。さらに投票コストは若年層の方が高い。やらねばならないこと、やりたいことが多く、投票に参加するための時間や手間が惜しいため、そして直接すぐに自分自身へ成果が返ってくるようには思えない現状を鑑み、実生活における選挙に対する優先順位が下がり、結果として投票率は低くなる。

例えば「その日は旅行に出かけるので投票はパス」「寒いのでわざわざ選挙のために外出するのも面倒だから、投票は棄権でいいや」という具合である。前者の場合は事前投票の仕組みを用いる事も出来るが、やはり多分に「わざわざ指定場所にまで足を運ぶのも面倒、時間が無い」としてキャンセルされてしまう。結果として、選挙権を持つにも関わらず投票しない人(一つ目のグラフ上、男女とも色が薄い部分)が増え、若年層における有効投票者数は減少する。

一方歳を取ると時間にも余裕が生じるようになる。また社会の上での経験も積み重ねられ、一票の重み、政治参加の必要性と意義を認識するようになり、投票率も上昇する。概して定年前後の世代で投票率はピークとなるが、現在はちょうどその世代が団塊の世代と合致するため、同世代の投票率だけでなく投票者数も、他の世代と比べると断然大きな値を示すようになる。

世間一般には「若年層と高齢層(現在は主に団塊世代層)で一人あたりの政治的な意見力は、2倍から3倍の差がある」と言われている。今回のデータで見る限り、投票率の時点ですでに最大で2倍強ほどの差が生じている。さらに各世代の人口比でも若年層と高齢層との間には2倍前後の差異がある。従って単純人口ではなく投票者数で試算すると、団塊世代と若年層との間には、男性では最大3.33倍、女性では3.48倍の差が生じることになる。「2倍から3倍」の値が決してジョークでもオーバーな表現でもないことが分かる。

政治が高効率、高反映の期待が有る方に向くのは当然の話

この値が何を意味するのか。政治家視点で考えれば、特定世代に対する政策への効用…具体的にはどれだけ得票に結びつくかを示すことになる。端的にいえば、20-24歳をはじめとした若年層向けの政策と、60-64歳を中心とした団塊世代への政策とでは、同じリソースを投じた場合、得票に結びつきうる効果(投票期待値とでも呼べば良いだろうか)に3.3倍から3.4倍もの差が出る。もちろん団塊世代向けの方が投票期待値は高い。これでは政治家諸達がシニア層の方ばかり向き、若年層を軽視しても仕方がない。

政治家の立場から見ると1対3以上の差異。これが「ゆがんだ状態」なのは間違いない。さらにその現実を知りながら、「あきらめてしまう若年層」「自分の既得権益を手放すのが惜しく、不公平を是正する動きを見せない団塊世代」の双方の意識にも問題がある。特に若年層においては、さまざまな工夫を凝らし「グラフ上側の、薄い色の部分を濃い色で塗りつぶしていく」、つまり「若年層の投票率を上げていく」ことを考え、実行しなければならない。

その若年層では「投票コスト」が大きなハードルとなっている。それを押し下げるには他国の状況も検証し、良い施策は積極的に導入検討課題とすることが求められる。また、ハードルが高くとも喜んでそれを飛び越え投票に若年層が足を運ぶように、政治を執り行う側も、若年層に向けた行動が求められよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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