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茨城空港の飛躍―開港10周年~首都圏第三空港としての魅力続々~

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
茨城空港(茨城県小美玉市)(写真:アフロ)

 2020年3月11日で、茨城空港は開港10周年を迎える。冷戦終結後、自衛隊と民間空港の関係性の変化から、茨城空港構想が持ち上がったのは1990年代であった。そこから苦節20年余り。航空自衛隊・百里(ひゃくり)基地との共用空港としてスタートしてから丸10年である。

 2010年3月の開港当初は国内線の定期便すらなく「税金の無駄」「飛ばない空港」と揶揄された同空港は今、2019年の旅客数が過去最高の82万人を超え、着々と首都圏第三空港としての地位を確立しつつある。本稿では飛躍し続ける茨城空港の魅力に迫る。

・首都圏第三空港としての茨城空港

スカイマーク(フォトAC)
スカイマーク(フォトAC)

 何を隠そう筆者は茨城空港の大の愛用者である(千葉県松戸市在住)。神戸、福岡、沖縄へ向かう時はほぼ必ず羽田や成田ではなく茨城空港を利用している。まず何と言ってもその魅力は1,300台を収容できる広大な無料駐車場(臨時を含めると3,600台収容)。そしてあまりにも機動的でコンパクトなターミナルの便利さ。そしてとりわけ千葉・埼玉方面からのアクセスの良さだ。

「延べ床面積約8200m2、幅約120m、奥行き約40m」(2010.04.12 日経アーキテクチュア)というターミナルビルは、1Fに国内線と国際線のカウンターが並列し、1分もたたず出発口を通ることが出来る(ぜひこの便利さを経験していただきたい)。ターミナル間の移動だけで何十分もかかる羽田や成田と、その利便性は比べるべくもない。

 巨大な人口を抱える首都圏には、事実上羽田と成田の2つの空港しかない。これは、関西に伊丹、関空、神戸(関西三空港)が存在するのとは対照的である。ゆえに首都圏に第三空港を造る計画(首都圏第三空港構想)は、昔から存在したが実現しなかった(2015年、九十九里浜空港構想断念)。

 だがここにきて、茨城県のほぼ中央に位置し、都心からのアクセスも整いつつある茨城空港が、がぜん「首都圏第三空港」としての地位を獲得しつつある、という格好である。

 このような茨城空港も、2010年3月の開港当初は前途多難であった。何せ国内線定期便が一本も無かったのである。開港当時の状況を、茨城県空港対策監の斎田陽介氏は次のように語る。

特に国内線が厳しかった。茨城空港には需要があるということをいくら説明しても「羽田、成田の吸引力には勝てない」と言われ、国内航空会社はどこも相手にしてくれなかった。「茨城の人は羽田を使ったらいい」と言われた。就航が決まらないうちは、知事の記者会見は毎回ほとんど空港問題が取り上げられ、議会でもそうだった。

 スカイマークだけは西久保慎一社長(当時)が「潜在需要はあるかもしれない。試しに飛んでみよう」と言ってくれた。当時は支店を置いて整備士を常駐させるのが通例だった。橋本昌知事(当時)が前原誠司国交相(同)と直談判して規制解除してもらい、スカイ社が腰を上げてくれた。

出典:2020.03.06、茨城新聞社

 このように、茨城空港の国内線はスカイマークが事実上一手に引き受け、現在でも茨城空港発着の国内定期便4路線(茨城―札幌、茨城―神戸、茨城―福岡、茨城―沖縄)すべてがスカイマークの単独就航となっている。このスカイマークの順調な伸びが、茨城空港飛躍の原動力だ。2018年にはターミナル来場者が延べ1000万人を記録している。

筆者制作
筆者制作

・国際空港としての茨城空港

 茨城空港の魅力は国内線の充実だけではない。現在、茨城空港発着の国際線定期便は三路線ある。具体的には茨城―上海(春秋航空)、茨城―西安(春秋航空)、茨城―台北(タイガーエア台湾)の三つだ(*現在、新型コロナ禍による休止路線あり)。

 2011年には同空港の国際線旅客数は55,000人にすぎなかったが、2018年には165,000人に拡大した。むろんこの数字は、例えば羽田空港の国際線旅客数(18年、約1,800万人)の僅か1%未満に過ぎない。が、それだけに今後の伸びしろは十分あると言える。

 茨城空港の飛躍は、周辺の道路網整備とセットになっている。茨城空港に直結する東関東自動車道水戸線・茨城空港北ICは、同空港の開港に合わせ2010年に開通(下図)。さらに南進して鉾田(ほこた)ICまでの8.8km区間が2018年に開通した。

 これにより、常磐自動車道を使って北進すれば都心からおおむね2時間強でのアクセスが可能となっている。また、同ICの利用により、常磐自動車道沿線で大人口を有する茨城県土浦市、つくば市、守谷市および千葉県柏市、野田市、流山市、松戸市、埼玉県三郷市等が一挙に1時間未満~1時間台圏内へとそのアクセスが短縮されている。そしてなにより、茨城空港以北にある水戸市や日立市、それに栃木県などの利用者にとっては、車で成田や羽田に移動するよりも茨城空港の方が断然近い。

画像引用:NEXCO東日本
画像引用:NEXCO東日本
画像引用:茨城空港
画像引用:茨城空港

 一方、東関東自動車道・水戸線は最終的に鉾田ICの先に、鉾田市、行方(なめがた)市、潮来(いたこ)市などを縦走して開通済みの潮来ICと接続する計画(図点線部分)で、潮来ICから鉾田ICまでの未整備区間約31キロ区間における用地取得率は93%(2019年11月末現在)とされ、いよいよ全線開通が射程に入った。

画像引用:NEXCO東日本
画像引用:NEXCO東日本

 東関東道水戸線が全線開通すると、今度は東関東道を利用し、都心の湾岸エリア(豊洲、台場、葛西等)と茨城空港が一直線で結ばれることとなる。全線開通時期は未定とはいえ、これにより東京とのアクセスが劇的に向上することから、国内線利用者だけでなくインバウンドへの期待も大きい。

・茨城空港の未来「東京北空港」として

 2018年に関西地方で猛威を振るった台風21号は、タンカー衝突により関西国際空港(関空)の機能をマヒさせるに至った。しかし同じ大阪湾に浮かぶ神戸空港では被害はなかったため、関空で孤立した約5,000人の旅客を高速船で神戸空港にピストン輸送し、代替便を供して解決したことは記憶に新しい。

 神戸空港と関西空港は、高速船「ベイ・シャトル」によって30分で結ばれている。関空で欠航便がでた際、神戸空港がその代替となる。またその逆も然りで、これと同じようなことは危機管理の観点からも首都圏第三空港の茨城空港が担ったとしてもおかしくはない。

 茨城県は「都道府県魅力度ランキング」で7年連続最下位になるなど、都心への近さ、県人口の多さ(19年現在約290万人で全国11位)、また一人当たり県民所得の高さ(19年現在全国8位)の割に、知名度や良イメージに乏しいと言える。それがゆえにと言おうか、茨城空港の愛称を「東京北空港」に改称する県議会での提案もある。

 茨城空港の愛称が東京北空港になったところで、実質的な何かが変わるわけではないが、首都圏第三空港としての茨城空港の存在感は以後、まずます増大していくものと考えられる。

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

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