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「コロナをチャンスに」 デジタル化が遅れた日本の民主主義をテクノロジーで進化させる

古田大輔ジャーナリスト/ メディアコラボ代表
テクノロジーが様々な課題を解決する(写真:アフロ)

新型コロナウイルスが嵐を呼んだのは、医療問題だけではありません。日本社会、特に政治行政におけるデジタル化の遅れをあからさまにしました。

ファックスでやりとりする患者発生の情報を現場職員が手集計し、器材の故障やミスで何度も訂正されるデータ。隔離中の市民には、電話で連絡。10万円の給付金も、例えオンラインからの申請でも職員が紙で本人確認をするために、膨大な時間がかかる。

他国で申請から数日で支援金が振り込まれるというニュースが流れるたびに、多くの国民が疑問を感じています。なぜ、日本はこんな状況なのかと。

同時に、これを機会として日本社会を変えようと奮闘している人たちもいます。テクノロジーを活用し、情報流通や行政の効率化・オープン化に取り組もうという動きです。

この記事とそれに続く連載では、それらを紹介し、日本社会の課題と改善策を共に考え、実現につなげていきたいと思います。

民間が行政に直接アイデアを伝えるサイト

民間のテクノロジーの力で公共(シビック)の課題を改善する運動を「シビック・テック」と呼ぶ。日本でこの運動を牽引してきた一般社団法人「Code for Japan」(CfJ)が5月13日に「VS COVI-19アイディアボックス」というサイトを公開した。

このサイトでは、テクノロジーを活用して新型コロナに関連する社会課題を解決・改善するアイデアを誰でも投稿できる。

5月27日現在で203人が参加し、79のアイデアと138のコメントが投稿されており、最も人気を集めているのはこれだ。

「一人一人の行動につなげるため、データ活用しやすい環境を」

新型コロナに関する情報を収集し、分析するプロジェクト「SIGNATE COVID-19 Challenge」を実施している齊藤秀さんの提案だ。

新型コロナに関する情報は、感染者数、退院者数、死者数、検査数、利用可能な病床数など多岐にわたる。それらを地域別、世代別など細かく分析することで、対応策が導き出せる。

ところが、これらの情報は冒頭にも紹介したように、ファックスや電話でやりとりされていた。膨大な作業とミスを経て、厚労省は感染者情報の把握・管理システムの導入を決めた。また情報をネットで公開するにしても、政府や自治体に統一されたルールがなく、PDFや画像など、そのデータを利用する側が収集・分析しづらい公開方法が一般的だ。

テクノロジーを活用したデジタル時代に適した情報公開は、ルールを決めて導入さえすれば、情報を公開する側にとっても大幅な負担軽減になる。その情報を収集・分析する民間にとってもいいことづくめだ。

何年も言われ続けている課題が、新型コロナで改めて再燃しており、これを機会に改革を求める声が広がる。

次のような、現場職員からの具体的な要望もある。

「官と民の契約は電子署名で行うよう総務省から技術的助言を!」

東京都港区の情報政策課で個人情報保護を担当し、コロナ対策でみなと保健所も兼務する日野麻美さん。業務における「印鑑の壁」を乗り越えるために投稿した。

地方自治法には印鑑だけでなく、電子署名も利用可能だと書いてある。しかし、実はその活用例はない。総務省から電子署名活用に関するサポートがなく、自治体が立ち往生しているのが現状だ。

その結果、緊急事態宣言でリモートワークを始めた民間企業が印鑑をオフィスに取りに行けないために行政とコロナ対策に関する事業の契約を結べなかったり、請求書を送れなかったりする事例も発生していた。

竹本直一IT担当相が印鑑が必要なことがリモートワークの壁になっていると記者会見で問われ、「役所との関係でそういう問題は起きない。所詮は民・民の話」と答えて批判を浴びたが、官と民の契約も実情はこの通りだ。

このアイデアには総務省と内閣官房IT担当室から「非常に重要なご指摘です。ぜひ、意見交換をさせてください」などとコメント欄に反応があり、対話が始まっている。

これまでに14回実施、形となるアイデアも

今回のサイトには政府の「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」も関わっている。だからこそ、直接行政に声が届いているし、反応も素早い。

アイデアボックスの取り組みは初めてではない。経済産業省をはじめ、自治体も活用しており、これまで14回実施され、出てきたアイデアが有識者会議の議題となったり、実現したりしている。「外字の廃止」「手続きや支援制度の情報の公開」、「WebAPIの整備」などだ。

「VS COVI-19アイディアボックス」でのアイデア募集は6月5日まで。名前やニックネーム、連絡先など登録すれば、誰でも投稿できる。

テクノロジーを活用し、民主主義を進化させる

システムを開発し、運営に携わる「自動処理」社長の高木祐介さんはこう語る。

「政治に対して無力感があり、無関心になっている人にも参加して欲しい。行政に直接意見を届けられ、議論され、政策として実現することもある。意見をかわし、みんなで明日の日本を作っていきたい」

高木さんはCfJの設立時からのメンバーでもある。デジタルの力で、情報が開かれ(=オープンデータ)、政治が開かれ(=オープンガバメント)、民主主義を進化させていく運動に共感を抱いてきた。

CfJは今回、東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を作成し、その素早い対応、分かりやすいデザイン、他の自治体への展開などで話題になった。

その活動には下積みがあった。CfJは東日本大震災直後に復旧復興に協力したエンジニアたちの活動が源流となり、2013年に設立された。全国に仲間を広げ、官公庁や自治体とイベントや勉強会で交流を深めた結果が、新型コロナでの対応に役立っている。

CfJ代表理事の関治之さんがその歩みを振り返る。

「誰か一人の力でいきなり今の状況が生まれたわけじゃない。たくさんの人がそれぞれの場所でそれぞれ積み上げてきた努力が、コップが溢れるように成果になり始めている」

課題や解決策などご連絡ください

新型コロナがきっかけとなって、日本のデジタル化やテクノロジーの浸透の遅れがはっきりと見えるようになるとともに、コロナをきっかけに、課題の改善を実現しようとする人たちがいる。

公的機関のデジタル化、情報公開、オープンデータ、オープンガバメントなど課題やその解決策をご存知の方は、筆者までご連絡ください。課題の改善に繋がるまで、連載を続けていこうと思います。

ジャーナリスト/ メディアコラボ代表

早稲田大政経学部卒。朝日新聞社会部、アジア総局、シンガポール支局長などを経て、デジタル版担当。2015年に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年に独立し、株式会社メディアコラボを設立。2020年-2022年にGoogle News Labティーチングフェロー。同年9月に日本ファクトチェックセンター(JFC)発足とともに編集長に。その他、デジタル・ジャーナリスト育成機構事務局長、ファクトチェック・イニシアティブ理事など。USJLP2021-2022、ニューヨーク市立大ジャーナリズムスクール News Innovation and Leadership2021修了

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