性犯罪が広がる無法地帯の実態を暴き、小さな地方紙が世界最高の栄誉に 日本でも広がる「コラボ報道」の力

アンカレッジ・デイリー・ニュース「無法」より

報道の世界で最高の栄誉とされるのがピュリッツァー賞だ。複数部門ある中で最も注目される公益報道部門で、2020年に受賞したのは米アラスカ州の小さな地方新聞だった。破産寸前の経営環境の中で、それを可能にしたのが「コラボ報道」の力だ。

アンカレッジ・デイリー・ニュースによる調査報道シリーズ「無法(Lawless)」は2019年5月に掲載した最初の記事で、州内の村の3分の1に警察官がおらず、無法地帯となっている実態を明らかにした。

アラスカ州の性暴力事件の発生率は全米平均の3倍だが、警察がいない地域では州平均のさらに2倍に及ぶこともわかった。被害を届けたら、捜査のためにとシャワーも浴びずに数百キロ離れた施設に来るように求められる事例もあったという。

シリーズは1年を超えて継続しており、読者に情報提供を呼び掛け、地域のNPO団体などと協力して住民や政府当局者らも交えた討論会を開き、米司法長官によるアラスカ訪問と5200万ドルをかけた改善施策にも結びついた。

アンカレッジ・デイリー・ニュースは、編集局員が30人に満たず、発行部数は2万5000。日本の地方紙と比較しても小さな新聞社だ。近年は会社がただ同然で売却されるなど、経営的には厳しい状況が続いている。

担当記者のカイル・ホプキンスさんも「小さな子が二人いるし、記者の仕事を辞めようと思っていた」とポインターの取材に語っている。

ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの候補作を押しのけて、この小さな新聞社が最高の栄誉を勝ち取る力となったのが、非営利の調査報道組織「プロパブリカ」だ。

アンカレッジ・デイリー・ニュースはプロパブリカが主宰する地域報道ネットワーク(Local Reporting Network)に参加して、1年を超える長期の調査報道を実現させた。

このネットワークに参加したメディアは、プロパブリカのベテランエディターが調査やデータ分析を支援する。その上に金銭面でもサポートを受ける。プロパブリカによると、「無法」の特集では750を超える公的な記録を収集し、アラスカ州の警察当局のデータベースを独自に構築し、村々の3分の1が「無法地帯」という実態を暴いたという。

地元の記者が村々を訪問し、数少ない警察官や、村人や、性犯罪被害者を足で稼いで取材。プロパブリカがデータ分析などで支援する。プロパブリカのマネージングエディター代理、チャールズ・オーンスティーンさんは、こう語っている。

「この強力なコラボレーションは、個々の事件の報道をはるかに超えて、司法制度がアラスカの遠隔地の脆弱なコミュニティを破綻させている現状について、綿密な調査結果とその意味するところを提供しています。何より重要なのは、この調査報道が変革に結びついているところです」

問題の指摘に留まらず、問題改善のための予算投入につながった。「課題解決型ジャーナリズム」だ。

プロパブリカによる「地域報道ネットワーク」のようなコラボ報道事例は、世界に広がる。

例えば、イギリスではBBCが「ローカルニュースパートナーシップ」を実施して地方メディアを支援している。日本では、NHK福島放送局とFCT福島中央テレビが東日本大震災をきっかけとしたコラボ企画に取り組み、熊本や宮崎など各地での取り組みが徐々に始まっている。

また、西日本新聞社が始めた、読者からの情報提供を活用した「オンデマンド調査報道」には、全国各地の地方紙からの参加が相次ぎ、2020年4月には全国12紙の地方紙連合による外国人労働者の実態調査にも結びついた。

コラボはメディア間に留まらない。筆者が事務局を務めるプロジェクト「#コトバのチカラ」は、全国の新聞、テレビ、ネットなど24メディアが参画し、ジャーナリズムを世界的に支援している「Googleニュースイニシアティブ」のサポートを受けている(詳しくはこちらの記事)。

「コトバのチカラ」より
「コトバのチカラ」より

アスリートの言葉を紹介し、人を勇気づける。各メディアの取材力と蓄積にデジタル表現を掛け合わせた企画だ。

ニュースメディアの危機は、インターネットの発達によって紙媒体が衰退しただけではない。ネット上で情報が溢れ、真偽不明のニュースが飛び交い、メディアの信頼度は下がり、業態を問わず、ほとんどのニュースメディアが経営に苦しんでいる。

新型コロナウイルスによる景気悪化はそれに拍車をかけたが、正確な情報提供、複雑な状況のわかりやすい解説、隠された真実の発掘など、ニュースメディアの重要性はさらに増している。

2020年のピュリッツァー賞では2部門でコラボ報道が受賞し、過去5年間に計7部門でコラボ報道が獲得した事になる。1社では難しくても、お互いの強みを生かしたコラボ報道が、経済面だけでなく、質の面でもジャーナリズムの可能性を広げている。