ゴルフ界の王者T・ウッズがリブゴルフを壊滅させる「ターミネーターになる」という興味深い説
タイガー・ウッズがPGAツアー選手会のプレーヤー・ディレクターに初めて就任し、PGAツアーの理事会の一員となることが、8月1日(米国時間)、PGAツアーから発信された声明で発表された。
1996年にPGAツアーにデビューして以来、ただの一度もプレーヤー・ディレクターや理事会のボードメンバーになることを受け入れなかったウッズが、ここへ来て、なぜ首を縦に振り、不慣れな経営側の仕事に参画しようと決めたのか。
その背景には、言うまでもなく、リブゴルフとリブゴルフを支援しているサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」の存在がある。
【救いの手?】
PGAツアーのジェイ・モナハン会長がPIFとの統合合意を電撃的に発表したのは6月6日のこと。その日の午後、モナハン会長はPIFのヤセル・ルマイヤン会長とともに米CNBC局のニュースショーに出演し、笑顔を輝かせたのだが、そんなモナハン会長には、すぐさま批判の嵐が押し寄せた。
なぜ、選手たちにもPGAツアーの他の役員や理事にも何も告げず、これほど重大な事柄を、たった3人で水面下で交渉したのか。なぜ、合意に至ったことを、いきなり電撃的に発表したのか。
激しい批判にさらされたモナハン会長は、あっという間に体調を崩し、療養生活に入った。
すでにモナハン会長は職務復帰を果たしたが、一連の動きを傍目にしてきたウッズは「今、ツアーは重大な局面を迎えている」と判断した。
だから、信頼や存在感がすっかり低下しているモナハン会長と危機的状況に陥っているPGAツアーを救うため、ウッズがプレーヤー・ディレクターを引き受け、理事会に加わることになったと見ることができる。
【再び「ウッズVSミケルソン」!?】
だが、米メディアの中には、ウッズのプレーヤー・ディレクター就任の意義を、さらに深読みしている記者たちもいる。
とりわけ、米スポーツイラストレイテッド誌のマイケル・ローゼンバーグ記者の記事は、きわめて興味深い。
ウッズがプレーヤー・ディレクターになることで、モナハン会長は「失った信頼と自信を回復するための大きなステップになる」と声明の中で綴っていたが、ローゼンバーグ記者はウッズの理事会参画が「リブゴルフを壊滅させるための最後のステップになる」と見ているのだ。
モナハン会長とPIFのルマイヤン会長が統合合意を発表後に明かしたフレームワークによれば、今後、リブゴルフを統括する権限はグレッグ・ノーマンCEOからモナハン会長に移されると明記されている。そして、いずれノーマンCEOを解任することは、あらかじめモナハン会長側からPIF側へ出された交換条件でもあった。
平たく言えば、リブゴルフを活かすもつぶすも、モナハン会長次第ということ。
たとえ、ルマイヤン会長がリブゴルフを「私が初めて抱いたマイ・ベイビー」と表し、リブゴルフ選手らに「リブゴルフは来年も再来年もある」と告げたとしても、統合合意の時点でルマイヤン会長がリブゴルフの運命をモナハン会長に託したことは事実だ。
それと引き換えに、ルマイヤン会長は自分自身が統合後の巨大な「PGAツアー・エンタープライズ」(仮称)の会長になって、その頂点に輝くことを選んだのだ。
とはいえ、批判され、信頼も失墜しているモナハン会長には、もはやリブゴルフに最後通牒を突き付けるだけのパワーがなく、だからウッズを理事会に取り込み、ウッズに正式な発言権や投票権を持たせ、リブゴルフをつぶす決定打をウッズに打たせようとしているというのが、同氏の見方だ。
「ウッズは、リブゴルフの息の根を止めるターミネーターになる」
同氏が指摘する通り、モナハン会長に代わってウッズがリブゴルフを壊滅させようとするとしたら、リブゴルフ側は、すでに権限がすっかり縮小している様子のノーマンCEOに代わって、フィル・ミケルソンが先頭に立ち、リブゴルフを存続させようとするだろう。
そうなれば、「ウッズvsミケルソン」の再燃となることも同氏は記事の中で綴っている。
それが、ゴルフにおけるライバル対決なら、ファンにとっては大いにウエルカムだ。しかし、「統合合意」「和解」という言葉とは裏腹に、新たな対立と戦いが繰り広げられそうな気配に包まれている今、一体、誰のため、何のために、こんな騒動が続いているのだろうかと首を傾げたくなる。