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優勝して5億円を手に入れた世界5位のトッププロゴルファー、一夜明けたら親友のキャディに早変わり!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米男子ゴルフのPGAツアーで勝利を飾り、とりわけビッグな優勝賞金360万ドル(約5億円)を稼いだ世界ランキング5位のトッププレーヤーが一夜明けたらキャディに早変わり。全米オープン出場を目指す親友ゴルファーのバッグを担ぎ、早朝から地区予選会場に現れたという驚きのニュースが米メディアによって発信されるやいなや、米国のゴルフファンの間では賞賛の声が溢れている。

 ノルウエイ出身の25歳、ビクトル・ホブランは、ゴルフ界の「帝王」ジャック・ニクラスがホストを務めた「ザ・メモリアル・トーナメント(6月1日~4日、米オハイオ州ダブリン・ミュアフィールドビレッジ)」で4日間72ホールのみならずサドンデス・プレーオフの1ホールも戦った上で、見事、勝利を挙げたばかりだ。

 ザ・メモリアル・トーナメントは、文字通り「ニクラスの大会」ゆえに、そもそも他のレギュラー大会よりステイタスが高いトーナメントとされている。

 だが、今年からはPGAツアーが新施策として開始している賞金総額2000万ドル級の「格上げ大会」の1つに含まれているため、優勝賞金は破格の360万ドルに跳ね上がった。

 そんなハイステイタスなトーナメントをプレーオフで見事に制し、ツアー通算4勝目を挙げて破格の360万ドル、約5億円を獲得したホブランは「ニクラスの大会で優勝できて、とてもうれしい」と夢見心地で笑顔を輝かせていた。

 フツウなら、一気に5億円を手に入れたら、翌朝も翌々朝も、いやいや数日間ぐらいは、その「夢見心地」に浸っていたいと思うものだろう。

 しかし、ホブランは翌朝から早起きして親友のバッグを担ぐキャディ役を務めていたのだから、その姿を目にした人々は、きっと「えっ?ホブランが地区予選でキャディ?」と驚き、二度見したことだろう。

 全米オープン地区予選は、英国予選、日本予選、米テキサス州ダラス地区予選が先行して5月に行なわれ、残る全米9か所とカナダの合計10か所で実施される最終予選は「ザ・メモリアル・トーナメント」が終了した翌日の6月5日(米国時間)に設定されていた。

 世界ランキング5位のホブラン自身は、2週間後に開幕する全米オープンの出場資格を、もちろん、すでに有している。だが、オクラホマ州立大学時代のゴルフ部のチームメイトで学生寮のルームメイトでもあった親友のザック・バウチョは、自力出場を目指して米オハイオ州コロンバス地区予選にエントリーしており、ホブランは必死で夢を追うバウチョのために駆け付けたのだ。

 コロンバス地区予選の会場なら、ホブランが勝利を挙げたミュアフィールド・ビレッジの近郊ゆえ、試合を終えたホブランが翌日にキャディとして向かう上では最適なロケーションではある。

 しかし、地区予選は1日36ホールの長丁場で、しかも、この予選会場には2つのコースが用意されており、挑戦者たちは午前と午後で異なる18ホールを回ることになる。

 その2コースは、日本のゴルフ場によくあるようなクラブハウスを挟んで左右に広がる「東コース」と「西コース」といった類ではない。車で30分ほど離れた距離にあるまったく異なる2コースなのだ。「18ホールをプレー→車で移動→次の18ホール」という形で1日36ホールの熾烈な地区予選を戦うことは、想像以上に難行だ。

 コロンバス地区予選の合格枠は、10か所の中では最大の11枠。だが、エントリーした103名の中には、メジャー覇者を含めたPGAツアーの現役選手が多々含まれている。その中でトップ11に食い込むことは、これまた想像以上に厳しい。

 短パン姿でスタンド付きのセルフバッグを担ぐホブランのキャディ姿がSNSで多数出回っている。その姿は、世界ランキング5位のトッププレーヤーというより、まるで学生ゴルファーみたいで爽やかだったが、肝心の親友バウチョのゴルフは午前の18ホールでスコアを伸ばせず、午後の18ホールは76を喫して、トップ11入りには遠く及ばなかった。

 残念ながらバウチョの全米オープン出場は叶わなかったが、5億円をゲットしたばかりのチャンピオンが心身の疲れを押して駆け付け、2コースを渡り歩きながら、重いバッグを担いで36ホールをともに戦ってくれたことは、バウチョにとっては生涯忘れない思い出になったのではないだろうか。

 プロゴルファーである前に、いや5億円を手に入れたチャンピオンである前に、1人の人間として友のために尽くしたホブランを賞賛する人々の声は高まるばかりだ。そして、その声は、来たる全米オープンでホブラン優勝を期待する声に変わりつつある。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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