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「渦中の人」R・マキロイが明かした胸中。賛否両論は必至だが、「責めることはできない」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 「渦中の人」ローリー・マキロイが、今週開催されるPGAツアーの大会、ウエルスファーゴ選手権(5月4日~7日)の会場、クエイルホロー・クラブに姿を現わし、胸中を明かした。

 マキロイは、生涯グランドスラム達成がかかっていた今年4月のマスターズで予選落ちを喫した後、翌週のRBCヘリテージへのエントリーを取り下げ、理由を告げることなく、欠場した。

 その欠場が米ゴルフ界で取り沙汰され、マキロイへの批判の声や不信感が広がっていた。

 同大会は、今年からPGAツアーが実施している「格上げ大会」の1つだ。「トッププレーヤー」と定義されているマキロイなどの上位選手は、12の格上げ大会に必ず出場することが義務づけられており、12試合のうち1試合だけは例外的に欠場することが許されている。

 だが、2試合以上を欠場すると、前年のPIP(プレーヤーズ・インパクト・プログラム)なるボーナス制度で獲得したボーナスのうち、今季終了後に支払われるはずの25%を受け取る権利を喪失する(注・ボーナスの75%は、すでに今年1月に支払い済み)。

 マキロイは昨年のPIPで2位になり、1200万ドルのボーナスが支払われることが決まっていた。しかし、彼は今年1月に格上げ大会のセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズを欠場し、さらにマスターズ翌週のRBCヘリテージへの出場を取り下げたことで、格上げ大会2度目の欠場となり、1200万ドルの25%にあたる300万ドル、約4億円に近い金額を受け取る権利を失った。

 そんなマキロイに対し、批判が広がっている理由は、新興ツアーのリブゴルフへの対抗策として「格上げ大会」のコンセプトやアイディアを考え出し、PGAツアーの新たな制度として今季からの実施へと導いた「発案者」が、マキロイだったことにある。

 「言い出しっぺのマキロイが、誰よりも先に、自分が率先して決めたはずの決めごとを破るとは、けしからん」「マキロイは自分勝手」といった声が多数上がる中、マキロイはマスターズ後の3週間、何も語らず、無言を貫いていた。

 だが、今週、次なる「格上げ大会」のウエルスファーゴ選手権に姿を現わし、待ち受けていた米メディアの質問に答える形で、胸の内を明かした。

 「自分のメンタル面を考えたとき、僕の心はRBCヘリテージにはあらず、家で休むことが必要だった」

 RBCヘリテージを欠場すれば、自身2度目の格上げ大会欠場となり、PIPボーナスの25%を受け取る権利を失うことは「もちろん、わかっていた」とマキロイは言った。

 「でも、ペナルティなり何なりを受けようとも、あるべきものをあるべき場所に取り戻すためなら、どんな罰も受けるに値すると僕は思った」

 「あるべきもの」とは「ゴルフへの戦意やモチベーション」、「あるべき場所に」とは「自分の心の中に」という意味なのだろう。

 PGAツアーのジェイ・モナハン会長に、RBCヘリテージの欠場理由を告げたかどうかを尋ねられると、マキロイは、こう答えた。

 「僕には、然るべき欠場理由があるということをモナハン会長に伝えた。それをモナハン会長がどう思おうとも、すべては僕の判断だ。もう一度言うけど、僕は(ボーナスの25%を失うことを)わかっていて、欠場することを決めたんだ。すべては僕が判断したこと。そこから先は、なるようになっただけのことだ」

 マキロイの考え方や判断、彼の肉声をどう受け取るべきなのか。

 「自分がもらえるはずの約4億円を自分で放棄したのだから、彼の問題、彼の勝手。他人が口を出すべきことではない」と見ることはできる。

 「マスターズの予選落ちで心に深いダメージを受けたのだから、それを癒すための欠場は、仕方がないし、理解もできる」「アスリートも感情を持つ人間なのだから」と、マキロイのメンタル面を重んじ、同情する人々は、もちろん多いことだろう。

 しかし、「残念な結果に傷ついたからと言って、ツアーの規定を破っていいのか?」という厳しい声は不可避であろう。

 マキロイが格上げ大会の発案者であり、実施のための「かじ取り役」でもあったからこそ、彼への不信感は、どうしても渦巻いている。

 この一連のマキロイ騒動をどう見るかは、もはや個々人の考え方次第である。

 ちなみに私は、マキロイの言動は少々身勝手だと思うことは事実。だが、マスターズで思うようなプレーが最後までできないことが8度も続き、トラウマ化しているマキロイにとって、今年の予選落ちがもたらした心のダメージが4億円を上回るほど大きかったのなら、その4億円を放棄して心を取り戻そうとした彼の行為を責めることはできないし、責めたいとは思わない。

 だが、規定を破り、他選手たちやツアー関係者、ファンを失望させたり激怒させたりした責任はそれなりに重い。その責任を取る意味で、さらなる活躍をして、PGAツアーを大いに盛り上げていただきたい。

 「この3週間でリフレッシュできた。まだメジャー大会はこれから3つもある。心の準備はできた」と言ったマキロイは、こうも語っていた。

 「今回のことで、僕の人生におけるゴルフの位置づけを見直す必要性を感じた。ライフには、もっと大切なことがあると気づいた」

 ゴルフより心。ゴルフより人生。

 力み過ぎていたマキロイが心と人生を取り戻したら、逆に、これまでよりもっといいゴルフができるようになる。私は、そう思いたい。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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