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ゴルフ界に衝撃と波紋。なぜ、D・ジョンソンは前言を翻し、ノーマンの新ツアーに出ることを決意したのか?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 グレッグ・ノーマンが指揮を執るサウジアラビア資本の新ツアー「リブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズ」初戦の出場者リストに、元世界ナンバー1プレーヤー、ダスティン・ジョンソンの名前が載っていたことは、世界のゴルフ界に衝撃と波紋をもたらしている。

 今年の春、ジョンソンは「PGAツアーこそが僕が戦うべき主戦場」という声明を出し、PGAツアーへの忠誠を誓った。

 わざわざ声明を出したのは、ジョンソンがノーマンのツアーへ移行しようとしているのではないかという噂が以前からあちらこちらで囁かれていため、それらをきっぱり否定し、「PGAツアー一筋」の姿勢を貫いているタイガー・ウッズやローリー・マキロイらと足並みを揃えることが目的だった。

 その声明を見聞きしたPGAツアー関係者やファンは、ジョンソンがノーマンのツアーへ移行しないことを知り、ほっと胸を撫で下ろしていた。ジョンソンがPGAツアーとともに歩むことを、みな信じていた。

 しかし、蓋を開けてみれば、「ダスティン・ジョンソン」の名前は、6月9日から11日にロンドンのセンチュリオンGCで開催される「リブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズ」の初戦の出場者リストに載っていたのだ。

【怒りと落胆】

 この第一報を耳にして、怒りと落胆を露わにしているのは、ジョンソンとスポンサー契約を結んでいるRBC(ロイヤル・バンク・オブ・カナダ)だ。

 「リブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズ」初戦のロンドン大会とRBCがタイトル・スポンサーを務めるPGAツアーの「RBCカナディアン・オープン」は、同週の開催ゆえ、ジョンソンがノーマンのロンドン大会に出場することは、彼が2018年から大会アンバサダーを務めているRBCカナディアン・オープンには出場しないことを意味する。

 同時に、ノーマンのツアーへの出場を許可していないPGAツアーの規定に違反してロンドン大会に出ることを意味し、それはジョンソンのPGAツアーのメンバーシップが停止あるいは剥奪されるであろうことも意味している。

 出場者リストが発表された数時間後、RBCは怒りと落胆の声明を発信した。

「大会前週のこの時期になって、大会アンバサダーであり、過去のチャンピオンであるジョンソンが出場しないと決めたことは、あまりにも残念。ジョンソンのゴルフを間近に見ようと楽しみにしていたカナダのファンも、とてもがっかりしている」

 折りしも、今週は米女子ゴルフのメジャー大会、全米女子オープンが開催されようとしている。その開幕直前にノーマンが出場者リストを公表し、ゴルフ界に大揺れをもたらしていることに、米女子ツアー2勝のマリーナ・アレックスなど女子選手たちからも怒りと落胆の声が上がっている。

【なぜ、ジョンソンは頷いたのか?】

 大勢の人々を怒らせ、落胆させる決断をジョンソンに下させたものは何だったのか?

 なぜ、ジョンソンは前言を翻してまで、ノーマンの申し出に頷き、忠誠を誓ったはずのPGAツアーやスポンサー企業を裏切ることになる決断を下したのか?

 英国紙「テレグラフ」によると、ノーマンがCEOを務める「リブ・ゴルフ・インベストメンツ」からジョンソンに最終的にオファーされた「移籍料」は、1億2500万ドル(約158億円)から1億5000万ドル(約190億円)と推定されるという。

 ゴルフ界の帝王ジャック・ニクラスが、やはりノーマンから1億ドル(約127億円)をオファーされ、ニクラスが「口頭と文書の双方で拒絶した」ことが、5月下旬に米欧メディアによって報じられたばかりだが、ジョンソンには、それ以上のビッグ・マネーが掲げられたことになる。

 ロンドン大会の出場者リストは、元々は5月27日(米国時間)に発表されるはずだったが、なかなか発表されなかったのは、その間に、ノーマンからジョンソンへの強硬な説得が行われたと見られている。

 そもそもノーマンのツアーに出場する「最も代表的な選手」はフィル・ミケルソンになるはずだった。

 だが、問題発言やギャンブルによる借金などが次々に報じられ、注目も批判も何もかもがミケルソン一人にのしかかりすぎてしまったため、それらを分散し、「リブ・ゴルフ」のイメージアップを図るためにも、ミケルソンに代わる新たな「リブ・ゴルフ」のアイコンとして、ノーマンは是が非でもジョンソンを獲得しようと考えた。

 そして、出場者リストの発表を遅らせてでも強硬にジョンソンを説得し、移籍料の金額を吊り上げ、ついにジョンソンを頷かせたという見方ができる。

 ジョンソンのエージェントが出した声明は、ノーマンから強硬で執拗な説得があったことを、ありありと示している。

「ジョンソンは自分自身と家族のために、この決断を下した。彼はPGAツアーに感謝しているが、最終的には(ノーマン側の)強い説得に対し、頷かずにはいられなかった」

 ジョンソンに「頷かずにはいられない」と感じさせたものは、ノーマンの熱意か、それともビッグ・マネーか。

 そのどちらかだとしても、両方だとしても、何を決めるかは本人の自由。戦う場を選ぶ決断は、ジョンソンが行使できる正当な権利ではある。

 しかし、大勢の人々に怒りと落胆をもたらす決断だったことは疑いようもない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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