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ゴルフ界騒然。PGAツアー選手会に"共同所有"呼びかけの怪文書「モナハン会長を恐れる必要なし」とは?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 揺れに揺れている世界一のゴルフツアー、PGAツアー(米ツアー)の選手会宛に、5月5日の日付で、なんとも怪しげなレターが届き、選手たちを惑わせている。

 手紙の送り主はPGL(プレミア・ゴルフ・リーグ)だ。PGLは、グレッグ・ノーマンが今年6月から創始しようとしているリブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズとは別の新ツアー構想。順番から言えば、PGLのほうがノーマンのツアーより先に新ツアー構想を打ち出した“オリジナル”と見ることはできる。

 そのPGLが、PGAツアーの本体ではなく、ツアーメンバーである選手たちで組織される選手会の投票権を持つアクティブな現役メンバー宛に向けて、一方的な勧誘レターを送りつけてきた。

 PGLはレターの中で、こう主張している。ノーマンのツアーが採用しようとしている「3日間大会で予選カットはなし。個人戦とチーム戦の双方を同時に行なう」といった試合のフォーマットは、元々は「PGLが考案した優れたフォーマット」であり、その優れたフォーマットのおかげで、ノーマンのツアーが年間100億ドル(約1.3兆円)を生み出すとしたら、PGLも当然、同等か、それ以上を生み出すことができる。だから、それを「一緒にやって50%ずつ山分けしよう」と、PGLはPGAツアーの選手たちに持ちかけてきたのだ。

 ノーマンのリブ・ゴルフ・インビテーショナルがPGAツアーのジェイ・モナハン会長に警戒され、怒りを買い、さまざまな騒動につながってきたことは、すでに世界中のゴルフ界が知るところである。ノーマン側に傾倒してきたフィル・ミケルソンは、直接的には自身の発言が災いしたことが原因ではあるが、あれほどのレジェンドがスポンサー契約をほぼすべて失って、失脚に近い形になっている。そんなトラブルを間近に眺めれば、選手たちの誰もが「新ツアー」に対して尻込みする。

 そうした現実に目を向けたのだろうか。PGLはPGAツアー本体ではなく、選手たちを抱き込んで懐柔するような手法でアプローチをかけてきた。

「アナタたちPGAツアーの選手会メンバーに残されたオプションは2つだ。1つは、PGLの全資産の50%をアナタたち選手が所有すること。

 そうすれば、着手金として200万ドルを前払いする。そして、毎週得られる2000万ドルや上手くいけば生み出せるであろう10億ドルをPGAツアーやコーンフェリーツアー、DPワールドツアーで山分けすることができる。

 もう1つのオプションは、アナタたち選手がこのまま何もせず、ノーマンのリブ・ゴルフに大儲けさせること。それは、ひいては伝統ある2つのツアー(米欧ツアー)が完全合併などを強いられ、アナタたちのメンバーシップが危うくなる」

 レターを読む限りでは、PGLはPGAツアーの選手たちに出資を求めているわけではなく、「PGLと一緒にやることに賛成です」とツイッターでツイートあるいはリツイートすることを求めており、「ツイート数が選手会メンバーの70%以上になれば、この話は現実化する」としている。

 しかし、どうやって現実化されるのかは具体的には一切書かれておらず、そもそもノーマンのツアーが100億ドル以上の価値を生み出す保証も実績もまだ一切ないわけだから、不確かなものを基準にして「同等以上のことがPGLと手を組めばできる」と言われたところで、頷けるはずはない。

 さらに言えば、「PGLの50%を所有する」の具体的な所有方法は「サインしたら個別に教える」とされており、ここまで来ると、かなり怪しい印象を覚えてしまう。

 実を言えば、PGLは水面下でPGAツアーの選手会理事であるローリー・マキロイにアプローチをかけ、今回のレターとほぼ同様の内容で「一緒に手を組もう」と提案。マキロイはその提案を選手会に諮り、さらにはビジネス・コンサルティング会社に調査分析を依頼したところ、「滅茶苦茶な提案」という結論が出され、マキロイはその結論をPGLへ伝えていたと思われる。

 今回、PGLはレターの中で「マキロイが依頼したコンサル会社は『滅茶苦茶』だと結論を出したそうで、常識的な概念からすれば滅茶苦茶と思われるのかもしれない。でも、彼らはPGLと話をしようともしておらず、我々PGLがやろうとしていることを正しく理解すらできていない」と主張。

 しかし、トーンとしては「やぶれかぶれ」のように感じられるこのレターは、ビジネスの提案としては、あまりにも表現が曖昧で稚拙だ。

 ただし、ノーマンのツアーの姿勢とは異なり、PGLは「モナハン会長の怒りを恐れる必要はない」という謳い文句を新たに唱え始め、法の抜け道を探し、そこを突いてくる姿勢を打ち出しているところだけは目新しい。

「モナハン会長の怒りを恐れる必要はない。なぜなら、モナハン会長は選手会の理事会メンバーではないからだ。アナタたち選手は自分たちの権利を行使すべきだ。 

 PGAツアーは『アナタたちのツアー』と言われているものの、アナタたち選手はPGAツアーを所有していないし、もちろん、今はリブ・ゴルフも(その母体と思われる)SGLも何も所有していない。だから(この際)PGLの所有者になればいい」

 そんな誘い文句に乗るPGAツアー選手は、果たして、出てくるのかどうか。全体の70%以上が「乗る乗る!」とツイートするのかどうか。

 大いに疑問だが、こんなレターまで登場すること自体が、現在のゴルフ界の混乱と混沌ぶりを物語っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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