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女子ゴルフ、メジャー大会の50年の歴史と伝統儀式が、ついに「変わる」新時代の到来

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

「あの大会は“私たちのマスターズ”だった。誰もが『プロになったら、あそこで勝ちたい』と目指してきた大会だった」

 女子世界ランキング1位のネリー・コルダ(米国)がそう言って嘆いたワケは、女子ゴルフのメジャー大会、ANAインスピレーションの姿が一新され、優勝者が池に飛び込むあの伝統的なシーンが見られなくなるからだ。

 これまでANAインスピレーションは、男子のメジャー大会であるマスターズの前週に、米カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のパームスプリングスにあるミッションヒルズのダイナショア・トーナメントコースで開催されてきた。

 毎年、同じコースで開催されるメジャー大会という意味では、男子のマスターズと同じであり、マスターズのキャディが白いつなぎのユニフォームを着用するのと同様、この大会のキャディも白いジャンプスーツに身を包み、女子選手たちを支えてきた。

 4日間72ホールの戦いが終わると、優勝に輝いた選手はキャディとともに18番グリーン脇のポピーズ・ポンドと名付けられた池に飛び込む。その場面は、男子のマスターズ・チャンピオンがグリーンジャケットを羽織るのと同様、メジャー・チャンピオンの誕生を祝うお馴染みの儀式だった。

 しかし、来年から同大会はタイトルスポンサーがシェブロンに変わり、大会名がシェブロン・チャンピオンシップ(シェブロン選手権)に変更される。

 開催コースは、2022年まではミッションヒルズのままとなる予定だが、2023年からは別のコースへ移され、開催時期もやや遅められる。

 この大会は「女子ゴルフ界の礎となるメジャー大会を創設しよう」ということで、1972年にコルゲート・ダイナショアという名で始まった。

 池に飛び込む儀式は、1988年にエイミー・オルコットがこの地で2度目の勝利を挙げた際、うれしさのあまり、思わず飛び込んだのが発端となり、以後、勝者たちに引き継がれてきた。

 そうした伝統が変わってしまうのは確かに淋しいことだが、このチェンジは大会の新時代の始まりでもある。

 シェブロンが女子ゴルフ界に参入するのは今回が史上初。女子ゴルフの未来を見据えたからこそ、同社が向こう6年間の契約を結ぶアクションを起こしたと考えれば、これはゴルフ界にとっての朗報だ。

 賞金総額も今年の310万ドル(約3億4100万円)から500万ドル(約5億5000万円)へ大幅アップする。

 開催時期がマスターズ前週ではなく、遅めの春へ変更される理由は、マスターズ前週のオーガスタ女子アマチュアとのバッティングを避けるためだ。これを回避すれば、装い新たとなるシェブロン・チャンピオンシップをキー局であるNBCが中継できるようになり、より多くの人々に女子のメジャー大会を観戦してもらうことが可能となる。

 歴史や伝統は「終わる」のではなく、「変わる」もの、「変える」ものだと考えれば、50年の歴史を誇るミッションヒルズの女子メジャー大会が一新されることは、女子ゴルフ界の前進である。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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