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米ツアーが急きょ発表した「インターナルOB」は「デシャンボー対策」だが「飛ばし屋冥利」!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ベイヒルの6番。湖越えに見事成功し、ガッツポーズを取ったデシャンボー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

これは、いいのか、悪いのか?米PGAツアーが9日(米国時間)に出した声明は、まさに「デシャンボー・ルール」だが、その内容に少々首を傾げている人は少なくないはずである。

先週のアーノルド・パーマー招待でブライソン・デシャンボーが見事な勝利を挙げたことは、すでにご存じの通りだ。

デシャンボーはベイヒルの6番ホール(パー5)で、湖越えの「ほぼグリーン」狙いのギャンブルショットを披露し、大勢の観衆と世界中のゴルフファンを大いに沸かせたばかりだ。

熟練選手のリー・ウエストウッドとの死闘に打ち克ち、通算8勝目を挙げたデシャンボーは、フェデックスカップ1位へ浮上し、世界ランキングも6位へ上昇。

次なる狙いは今週開催される「第5のメジャー」プレーヤーズ選手権のタイトル獲得に違いないということで、そのプレーヤーズ選手権の舞台であるTPCソーグラスの攻め方に「何か奇策はあるか?」と米メディアから問われたデシャンボーは、ソーグラスの18番、左ドッグレッグのパー4の攻め方の「奇策」を選択肢の1つとして明かした。

「これまでにも何度か考えたことがあるんだけど、18番のティショットを(左隣の)9番へ打っていくという手はあるよね。(9番の)フェアウエイを狙って4番アイアンで打ち、そこから7番アイアンか8番アイアンで(18番の)グリーンを狙う」

18番は右から左へ大きくカーブしている439ヤードのパー4。左サイドには大きな湖が広がっているため、フェアウエイのやや右方向を狙って打ち出した結果、右サイドの林につかまって次打が難しくなるケースが頻発する。

そうしたケースを回避する目的で、デシャンボーは18番のティショットで左隣の9番を狙って310ヤードほどを飛ばす湖越えというオプションを思い描いていた。このルートなら18番ホールをほぼ無視してプレーする完全なる別ルートを作り出すことができる。

「僕としては、そのほうがグリーンを狙いやすくなる」

このデシャンボー発言を受けてのことだろう。米ツアーは9日付けで声明を出し、このルートが取れないよう、18番ティから9番を狙う場合の“落としどころ”に「インターナルOB」を設けることを発表した。

平たく言えば、デシャンボーが思い描いている奇策を封じるための「デシャンボー・ルール」「デシャンボー対策」だ。

インターナルOBは、その大会(コース)で独自に設けるローカルルール扱いで設定されるのだが、このインターナルOBが設けられること自体は、今回が初めてではない。

欧州ゴルフの総本山R&Aは、2014年のロイヤル・リバープルの18番にインターナルOBを設け、2017年のロイヤル・バークデールの9番、2019年のロイヤル・ポートラッシュの1番と18番にもインターナルOBを設置した。米ツアーでも今年のソニー・オープンで13番と18番にインターナルOBが設けられたことは記憶に新しい。

他選手やキャディ、関係者、観客の安全を確保することがインターナルOBを設ける理由とされており、もちろんその通りではあるのだが、飛ぶ選手も飛ばない選手もフェアに戦える舞台作りという意味での「飛ばし屋対策」の要素も色濃く見えることは言うまでもない。

インターナルOBのみならず、いわゆる「飛ばし屋対策」というものが本当に必要なのかどうかという点に関しては議論が尽きないところだが、ゴルフヒストリーを振り返れば、1990年代終盤から2000年代にかけて、オーガスタ・ナショナルの大改造を筆頭に、あちらこちらで「タイガー・ウッズ対策」が取られてきた。

言い換えれば、そうした「対策」のターゲットにされることは、「パワーヒッター冥利」「選手冥利」と言えなくもない。今、デシャンボーがそのターゲットになりつつあることは、デシャンボー時代が繰り広げられつつあることの1つの証でもある。

そして、すでに経験と学習を重ねているデシャンボーは、無謀で無茶な攻めをするつもりは最初から毛頭なく、この「デシャンボー・ルール」が発表される以前から、「本当にアドバンテージがあると思えば9番方向を狙うけど、アドバンテージが無いなら9番は狙わない」と語っていた。

結果的に、この「デシャンボー・ルール」は、何も起こらないうちに設定され、大会が終わると同時にひっそりと消えていくだけのものになるのだと思われる。

そんな騒動を傍目に、デシャンボーは飄々と、次なる奇策を探っているのではないだろうか。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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