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「いい流れ」を生かした上位陣。1打差、暫定5位タイの松山英樹の首位浮上は「まったく驚きではない」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
初日も2日目もアイアンショットが冴えていた松山英樹。悲願の初制覇なるか?(写真:ロイター/アフロ)

 マスターズ2日目。と言っても、日没サスペンデッドとなった第1ラウンドの残りがずれ込み、この日も再び日没サスペンデッドとなって、過半数の48人が36ホールを終了できずに終わった。ゴルフの大会は、ひとたび不規則進行に陥ると、なかなか抜け出すことができない。だが、それはゴルフが自然との戦いであることの1つの証でもある。

【アグレッシブなDJ、JT】

 ダスティン・ジョンソンは早朝4時に起床し、好調なゴルフで第1ラウンドを7アンダー、65で終了。その勢いのまま、すぐに第2ラウンドをスタートし、2つ伸ばして70でホールアウト。通算9アンダーで暫定首位に立ち、「このポジション、気に入っている」と満足の笑顔を見せた。

 ジャスティン・トーマスは第1ラウンドを66で終えると、第2ラウンドは7バーディー、2ボギー、1ダブルボギーと出入りの激しいゴルフになったが、それでも3つ伸ばして通算9アンダー。ジョンソン、エイブラハム・アンサー(メキシコ)、キャメロン・スミス(オーストラリア)とともに暫定首位に並んだ。

 彼らに共通していたのは、好調な流れを止めることなく第1ラウンドの残りと第2ラウンドを一気に回り終えたこと。そして、彼らのアイアンショットが冴え渡っていたことだ。

 「パットはうまく転がせなかったが、ショットはとても良かった」と自画自賛していたジョンソンは、その言葉通り、パーオン率86%という正確性を誇り、アンサーは83%、トーマスは81%と続いていた。

 今年のオーガスタ・ナショナルのグリーンは「いつもよりソフトだ」と練習日の段階からタイガー・ウッズが目を丸くしていた。その後の大量の降雨でグリーンはさらに柔らかくなり、ボールはピタリと止まるため、ピンの根本をデッドに狙うダーツのようなゴルフでスコアを伸ばしたジョンソン、トーマスらが首位に並んだことは頷ける。

「明日もアグレッシブに攻めていく」

 ジョンソンもトーマスも大いなる意気込みを見せている。だが、明日以降もダーツのようなゴルフができるかどうかは蓋を開けてみないとわからない。突然、グリーンが硬く速くなることだって、オーガスタでは起こりうる。

 攻め過ぎれば、意気込みすぎれば、往々にして、しっぺ返しを食らう。開幕前、優勝候補の筆頭だったブライソン・デシャンボーは初日から乱れ気味で70と伸ばし切れず、第2ラウンド途上では12ホールで3つスコアを落として予選落ちの危機に瀕している。

 

 オーガスタの魔女は勝利への渇望を膨らませる選手たちの行く手を、しばしば阻み、ほくそ笑むことが大好きなのだ。

【松山がリーダーになる?】

 首位グループのジョンソンは「このポジション、気に入っている」と満足げだったが、2日目が日没サスペンデッドになった現段階で自身のポジションを一番気に入っているのは、ひょっとしたら松山英樹なのではないだろうか。

「明日、残り3ホールで1つ2つスコアを伸ばして、マツヤマが36ホール・リーダーになっても、まったく驚きではない」

 予選ラウンドのTV中継局、ESPNの解説者は、自信満々にそう言い切った。

 その通り。松山のアイアンショットも冴え渡っていた。いや、松山はアイアンのみならず、ドライバーからパターまで好調だ。それでも第2ラウンドの前半は2番のバーディー以降は伸び悩んでいたが、ピン2メートルに付けてバーディーを奪った10番で勢いづき、13番でもバーディー。

 そして迎えたパー5の15番、ドライバーでフェアウエイを捉えたところで日没サスペンデッドを伝えるホーンが鳴った。すっかり暗くなってきていたため、コース上の大半の選手は、その時点でプレーをやめた。

 しかし、松山は自身の「いい流れ」のまま、このホールをプレーし終えることを選択した。2打目はやや左に飛び出し、ヒヤリとさせられたが、クリークにつかまることなくグリーン左奥の広いチッピングエリアに止まってくれたことはラッキーだった。3打目できっちり1メートルに寄せて、珍しく頬を緩ませ、イージー・バーディー。首位と1打差の通算8アンダー、暫定5位タイでこの日を終えた。

 冷静な判断があり、運もあり、技が生き、笑顔を垣間見せる余裕もあった。それらを明日以降も保ち続けることができれば、米TV解説者の言葉通り、松山が残り3ホールでスコアを伸ばして36ホール・リーダーになったとしても、いやいや、明日の3日目を終えて54ホール・リーダーになったとしても、まったく驚きではない。

【自分との戦い、自然との戦い】

 とはいえ、まだ第2ラウンドすら終わっていない選手が過半数もいるのだから、これから先の展開は、まだまだ未知数だらけだ。

 大会2連覇と大会6勝目を狙うタイガー・ウッズは、初日を松山と並ぶ4アンダー、5位タイで発進したが、2日目は2バーディー、2ボギーとスコアが伸ばせないまま、暫定22位で日没を迎えた。

 しかし、ウッズには第2ラウンドがまだ8ホールも残されており、その意味では3ホールを残している松山同様、さらに順位を上げて決勝を迎えるための「いいポジション」にある。

 明日、雨天中断がなければ、大会は不規則進行から抜け出すことができるかもしれない。だが、短い日照時間との戦いは最後まで続く。そして、明日の朝は一気に4度(摂氏)以上も気温が下がる予報。選手たちの半袖姿は長袖姿やセーター姿に様変わりして、早朝は冷気の中でのプレーを強いられる。

 やっぱりゴルフは自分との戦いであり、マザーネイチャーとの戦いである。無観客でも、グリーンがソフトでも、マスターズはゴルフの真髄を見せてくれる。そんな週末になりそうである。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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