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なぜデシャンボーは全米オープンを圧勝できた?異次元のゴルフに隠された「最大の驚き」を紐解く

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
驚きのようで驚きではないデシャンボーのメジャー初制覇。が、その勝ち方は驚きだった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 27歳の米国人、ブライソン・デシャンボーが2位に6打差を付け、通算6アンダーで圧勝した今年の全米オープン。その展開、その結果は、果たして「なるほど」と頷けるものだったのか、それとも「驚き」だったのか。

【デシャンボー優勝は驚きか!?】

 2015年に全米アマで優勝し、その翌年にプロ転向したデシャンボーは、2017年から米ツアー参戦を開始し、早々に初優勝を挙げ、これまですでに米ツアー通算6勝を挙げていた。その実績を考えれば、彼がメジャー大会をついに制覇したことは、まったく驚きではなかったし、むしろ彼は「いつメジャー優勝してもおかしくない存在」だった。

 コロナ禍の中で今年6月に米ツアーが再開されてから、すぐさまロケット・モルゲージ・クラシックで勝利を挙げ、つい先月もメジャーの全米プロで優勝争いに絡み、4位タイに入ったばかり。好調な流れの中で全米オープンを迎えた彼が勝利したことは驚きにはあたらない。

 ツアー再開時に、以前より20ポンド以上も体重を増やしたマッチョな姿で登場したことは、大いなる驚きだった。

 ドライバーを振れば、360ヤードも370ヤードも飛んでいき、その様子を間近に見せつけられたローリー・マキロイは「こんなの見たことない」と、驚きまくりだった。

 しかし、この全米オープンを迎えたころには、そんなデシャンボーのマッチョぶりも飛ばしぶりも、すでに周知の事実となっており、それは、今さら驚くことではなかった。

【最終日の驚き】

 しかし、ウイングドフットで戦い、4日間を制したデシャンボーには「ずいぶん驚かされた」という印象を受け、その余韻は大会終了から数時間が経過した今も残る。

 マシュー・ウルフから2打差の2位で最終日をスタートしたデシャンボーは、前半でウルフを追い抜き、1打リードで迎えた9番(パー5)で2オンに成功。12メートルのイーグルパットを見事に沈めた。

「あれはびっくりした」

 デシャンボー自身が驚いたと振り返っていたが、メジャーの優勝争いの中、わずか1打リードというきわどい場面で、あの長さでラインも難解なあのイーグルパットをパーフェクトなスピードで入れにいく度胸と技量には、度肝を抜かれた。

 とはいえ、その直後にウルフもイーグルパットを沈めたことは、もう1つ、驚かされた出来事ではあった。しかし、ウルフの最終日の見せ場はこれが最初で最後となり、その後はデシャンボーのワンマンショーとも言える展開になった。それは、メジャー初優勝をかけた若者のプレーぶりという意味では、きわめて大きな驚きだった。

 バック9でデシャンボーが奪ったバーディーは11番の1つだけ。他はすべてパーを拾うゴルフだったが、そんな「パーのゴルフ」がウルフとの差を2打、3打と広げ、最後には6打差まで広がった。その展開は、驚きのようで驚きではなく、全米オープンを知る人々、ゴルフを知る人々にとっては、「そういうものだよ」と頷けるものだったのではないだろうか。

【何よりの驚き!】

 何よりも一番驚かされたのは、デシャンボーが口にしたこの言葉を耳にしたときだった。

「ラフからは、スピンがかけられた。僕には、スピンがかけられた」

 だから、デシャンボーにとって、ラフはさして驚異ではなかったということを知らされたとき、私は何より驚かされた。

 ウイングドフットを戦ったすべての選手が深いラフに苦しみ、翻弄され、スコアを落とした全米オープン。だから、アンダーで回れた選手は日に日に少なくなり、最終日はデシャンボーただ一人だった。4日間を終えたとき、デシャンボー以外には、通算でアンダーパーは1人もいなくなっていた。

 なぜ、デシャンボーだけがアンダーパーで回れたのか。なぜ、デシャンボーだけが異次元のゴルフを実現できたのか。

 その答えは、肉体を増強したデシャンボーだけは、そのパワーをフルに生かして、ウイングドフットの深く重いラフからでもコントロールしながら打ち出すことができたからだったのだ。

 最終日も4日間平均でも、デシャンボーのフェアウエイキープ率は40%をやっと上回る程度だった。だが、そこからグリーンを捉えた成功率は60%超。ラフからでも、どこからでも、スピンをかけてコントロールできていたことの証だ。

 しかし、それはパワフルになったデシャンボーが必死にショットした末に「結果的に」そうなったのだと思っていた。

 だが、そうではなく、彼はそもそも「ラフからでもスピンコントロールできるな」と思っていたのだ。「できる」と確信しており、だから強い自信を抱いてプレーすることができていたのだ。

 もっとも、ウイングドフットで戦うことが初めてだったデシャンボーは、14年前の2006年大会で惜敗したフィル・ミケルソンから「とにかくラフに気をつけろ」と開幕前に助言され、ラフからのショットを徹底練習したという。

 その段階で、彼は気付いたのだ。

「僕なら、このラフからでもスピンをかけて攻めていける」

 ウイングドフットに、そんな選手はデシャンボー以外には誰一人いなかった。だが、デシャンボーは自分ならスピンをかけられることに気づき、かけられると信じ、それを実行して勝利した。

 その事実を知ったことが、今年の全米オープンの最大の驚きだった。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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