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米ツアーが目指すコロナ禍からの脱却と新世界への飛翔、熱い意欲を示す綿密詳細な再開プラン

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
3月半ばのプレーヤーズ選手権が中止された際も取材に応えていたザック・ジョンソン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米男子ツアー(PGAツアー)が6月11日からの再開を目指し、緻密で詳細な再開プランを発表した。「リターン・トゥ・ゴルフ」と名付けられたレポートは37ページに及ぶ分厚さだ。そのビッグなボリュームに米ツアーのなみなみならぬ意欲が溢れている。

【注目の存在】

 米ツアーは新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月半ばから休止状態にあるが、チャールズ・シュワッブ・チャレンジ(6月11日~14日)からツアーを再開し、最初の4大会は無観客試合での開催を予定している。

 そのための具体的なプランをまとめたレポートは、まず選手や関係者への自覚を促すところから始まっている。

「我がツアーは、主要なスポーツの中では最初に再開するスポーツの1つとして注目を浴びている」

 だからこそ、きっちり検査を行ない、きっちりソーシャル・ディスタンスを守り、感染防止に努めるべしとうたっている。

 ハイファイブや握手は例外なく全員禁止。ミラクルパットを沈めたり、ウイニングパットを沈めて勝利を決めたときでさえ、選手とキャディが抱き合って喜ぶシーンを見ることはできない。

 試合会場に入場できるのは選手、キャディ、ツアーのスタッフ、ボランティア、スターター、選手のパフォーマンスをデータベース化するショットリンクのスタッフ(一部)、メディアとされている。

 選手専属のトレーナー、コーチ、インストラクターは入場可だが、マネージャーやエージェント、家族の入場は不可だ。

【PCR検査、空間維持】

 最も気になるのは、感染有無の検査だ。選手に対する検査は、現地への出発前、現地到着時、さらには毎日の問診と検温という具合に、3段階、4段階が予定されている。

 現地到着時とは、米ツアーが借り上げるホテルなどに到着した際を指しており、検査結果が出るまでには24時間から48時間を要する。その間、試合会場での練習やラウンドは許可されるが、それ以外の施設(レストランなど)は使用禁止となる。

 検査結果が陽性だった場合は、当然ながら試合には出場できず、10日間の隔離を求められる。陽性となったことをツアー側は公表しないが、選手が自ら明かすかどうかは選手次第だそうだ。

 会場内では原則として「36スクエア・フィートに1人」の割合で空間を維持し、密集を防ぐとのこと。だが、これは文字でそう伝えられても実感がわかず、実現はきわめて難しそうに思えてしまう。

【移動、宿泊】

 選手やキャディの試合から試合への移動は米ツアーが用意するチャーター機が基本とされ、先着順で170名が搭乗できる。もちろん、自身でプライベートジェットを利用することも可能だが、陸の移動の際、ウーバーなどの一般ライド・サービスを利用することは禁止されている。

 宿泊は原則として米ツアーが借り上げるホテル。希望者は独自で借りるホテルや自宅などでの宿泊も許可されるが、感染などが起こった場合、自己責任となることは言うまでもない。

【賛否両論。意気込む選手も】

 トランプ大統領ひきいる米国は経済や社会の早期再開を声高に叫び、米ツアーも同様に早期再開を目指して、今回の「リターン・トゥ・ゴルフ」を発表した。

 だが、そうしたアクティブな動きを「時期尚早」と否定的に見る人々が存在することは当然である。米ツアー選手の中にも、頻繁にPCR検査を受けさせられることに拒否反応を示したり、「そこまでして再開する意味はあるのか?」と首を傾げる向きはある。「感染が怖い」と感じる選手がいても決しておかしくはない。自分自身の感染がいずれ家族に及ぶことを恐れる選手もいる。(参照:早期再開を目指す米ツアー、戸惑う選手たち、見え隠れする不協和音 https://news.yahoo.co.jp/byline/funakoshisonoko/20200512-00178120/)

 しかし、米ツアーがこの「リターン・トゥ・ゴルフ」というレポートを形にして発表したことで、もしかしたら選手たちの戸惑いは、ある程度、吹っ切れたのかもしれず、米ツアーの姿勢にならって熱い意気込みを口にし始めている。

 ケビン・キズナーは「仕事を再開するためには、多少のリスクがあることを前提とする必要がある。じっとしたままワクチン開発を待っていたら、僕らは1年、いやそれ以上、仕事ができなくなってしまう」。

 メジャー2勝のザック・ジョンソンも「米ツアーはあらゆることを考慮してくれており、僕はツアーの姿勢や施策を受け入れる。詰まるところ、感染リスクを完全に避けることなんて誰にもできない。もし完全に避けるとしたら、スーパーへ買い出しにも行けないってことになる」。

 ブライアン・ハーマンも「ツアー再開のためには僕らも努力することが大切だ。僕らが再びモノゴトを動かしていかなければならない」と語り、最後には「早期再開のために最大限の努力と施策をしてくれている米ツアーを誇りに思う」と胸を張る。

 確かに、恐れるだけでは前進できない。勇気は必要である。しかし、その勇気は勇み足によって事態を悪化させる危険性と紙一重であることも事実だ。

 どちらを取るか。どちらを選ぶか。コロナ禍という未曽有の事態からの脱却と新世界への飛翔には、自己責任による自己判断が求められると言えそうだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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