たった一人の少年が「部族」にコロナを持ち込んでしまい、、、、「ウッズの親友」悲痛な叫び

「ウッズの親友」ノタ・ビゲイは米ツアー唯一のネイティブ・アメリカンだ(写真:ロイター/アフロ)

 今月8日(米国時間)の米ニューヨーク州の発表によれば、同州内の新型コロナウイルス感染による死者数には人種や民族によって顕著な差が出ており、人口10万人当たりのヒスパニック系とアフリカ系黒人の死者数は白人とアジア系より2倍ほど多いという。

 

 恐ろしい発表だが、それが現実であることを私たちは認めなければならない。

 私自身、ニューヨークやロサンゼルスで暮らしていた在米25年の間、人種や民族による差別や不公平や不条理を何度も肌で感じさせられた。私自身が差別されたことも、もちろんあった。

 新型コロナウイルス感染拡大が激化している今、マイノリティと呼ばれる人々が差別や不公平にさらされ、次々に犠牲になっているというニューヨーク州の発表は、身が凍るような話だが、残念ながら現実だ。

 そして、その悲しい現実は、米ゴルフ界にとっても無縁ではない。

【ウッズとビゲイの共通項】

 タイガー・ウッズは幼いころからゴルフの天才少年と呼ばれていたが、一方で、激しい人種差別も受けてきた。

 

 そのウッズがスタンフォード大学に籍を置いていた時代、ゴルフ部のチームメイトだったノタ・ビゲイは、当時も今もウッズの親友である。

 大学卒業後はビゲイもウッズを追いかけるようにプロゴルファーになり、そして米ツアー選手になった。ビゲイには「ウッズのチームメイト」「ウッズの親友」という枕言葉が常に付けられてきたが、ビゲイ自身、通算4勝を挙げて中堅選手となり、なかなかの人気を博していた。

 だが、故障による成績下降で、2012年を最後にツアーから退き、以後はTVレポーターに転身。明るい笑顔、わかりやすい解説には定評がある。

 そんなビゲイとウッズが特別親しくなった理由の1つは、どちらもマイノリティという共通項があるからだ。

 ビゲイはニュー・メキシコ州アルバカーキという都市の奥地に先住するインディアン部族、ナバホの出身。米ツアー選手としては初めてで唯一のネイティブ・アメリカンだ。

 以前、私はビゲイに「是非ともアナタの故郷でインタビューさせてほしい」とお願いし、ナバホ部族の居留地の入り口の「ナバホ部族ヒストリー・センター」でビゲイと待ち合わせたことがあった。

 しかし、結局、居留地に入ることは許されなかった。

「申し訳ないけど、ここから先にキミを入れることはできない。なぜなら、部族の人々はとても繊細で、外部の刺激に弱いからね」

あのとき、ビゲイはそう言っていた。

【恐怖のプロセス】

 そのナバホ部族の居留地に、今、新型コロナウイルス感染が拡大し、壊滅的な状況にあるという。

 ビゲイ自身は、現在はナバホ部族の居留地ではなく、アリゾナ州に居を構えているが、彼の親戚の7割以上は今も居留地に住んでいる。そして、居留地で暮らすナバホ部族の2000人以上が、すでに感染していると見られ、17人が死亡。状況は日に日に悪化している。

 そもそもインディアン居留地は、米国内にありながら米国ではない「治外法権」のような場所だと言われており、病院やクリニック、ドラッグストアの類は、ほとんど無いという。

「奥地ゆえに、Wi-Fiも飛んでないし、スマホを持っている人は皆無に近い」

 人里離れた場所でリモート生活を送っているナバホ部族の居留地で、なぜクラスター感染が起こってしまったのか。原因は「外の世界」のイベントに参加した、たった一人の少年が、ウイルスを居留地へ持ち帰ってしまい、それが広がったのだそうだ。

 ニューヨークやロサンゼルスのみならず、全米も世界も危機に瀕している今、ナバホ部族の壊滅的な状況に目を向け、救いの手を差し延べようとしているのは、ビゲイと彼の財団のみと言っても過言ではない。

「世の中の情報と無縁な生活をしている部族の人々は、世の中で何が起こっているかを知るよしもなく、理解もしていない。とにかく僕は、水や食べ物、医薬品などを必死に運んで提供している。でも、その作業も、僕にとっては恐怖のプロセスだ」

 州からも国からも誰からも救いの手を差し延べてもらえない故郷の部族のために、見えない敵の恐怖を肌で感じながら救援物資を運んでいるビゲイの悲痛な声が聞こえてくる。

「僕はファミリーを失おうとしている。しかし、今は、どうすることもできない」

 無力だ――“helpless”の一言から、ビゲイの悲痛さが伝わってきた。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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