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勝てる確率をゼロにしないために、タイガー・ウッズが選んだ「ミニマム作戦」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
「20年前とは体が違うんだ」と言うウッズ。今、彼の胸の内には何があるのか?(写真:ロイター/アフロ)

「タイガー・ウッズが、また1つ、伝統を覆した」――米メディアが発信した記事に、そんな見出しが躍っていた。一体、どんな伝統を指しているのかと言えば、それは、ウッズが試合にエントリーする際の「慣例」のことだった。

 米ツアー大会へのエントリーは「前週の金曜日の東部時間の午後5時」が締め切りとされている。そしてウッズは、そのデッドラインぎりぎりのタイミングでエントリーすることが長年の「慣例」であり、米メディアも周囲も、そうなるまでウッズが本当に試合に出るかどうかはわからないのが常だった。

 だが、来週8日から始まるプレーオフ・シリーズ第1戦、ノーザントラストには前週の水曜日(7月31日)に早々にエントリーを済ませ、さらには第2戦のBMW選手権にも挑みたいという意志をツイッターでも発信した。

 昨季まで4試合で構成されていたプレーオフ・シリーズは、今季からは3試合に変更されている。第1戦、第2戦を勝ち進めば、ウッズは最終戦のツアー選手権にディフェンディング・チャンピオンとして挑むことができる。

 果たして、その可能性は高いのか、低いのか――。

【レギュラー・シーズン出場は10試合】

 昨年のツアー選手権を制し、2013年以来、5年ぶり、1876日ぶりの勝利を挙げたウッズは、さらに今年4月のマスターズを制し、メジャー15勝目、米ツアー通算81勝目を挙げた。それは、言うまでもなくウッズの大復活であり、奇跡のカムバックだったと言っていい。

 だが、その後のウッズの成績は、まったく振るっていない。マスターズの「次戦」として出場した全米プロは予選落ち。全米オープンは4日間を戦うことができたものの21位タイどまり。そして、その「次戦」の全英オープンは予選落ち。メジャー4試合は「優勝1回と予選落ち2回」と落差の激しい成績になった。

 出場試合数も極端に少ない。見事な優勝を遂げたマスターズには今季の自身6試合目として臨んだが、メジャー4大会の合間で出たレギュラー大会はメモリアル・トーナメントの1試合のみにとどまり、全米プロも全英オープンも、いわば「ぶっつけ本番」で挑み、予選落ちとなった。

 全英オープンは今季の自身10試合目にあたり、翌週の世界選手権シリーズ、フェデックス・セント・ジュード招待もレギュラー・シーズン最終戦のウインダム選手権も欠場する選択をした。

 そんなウッズに残されているのが、来週から始まるプレーオフ・シリーズ3試合だ。

【ウッズは、大丈夫?】

 プレーオフ・シリーズはフェデックスカップ・ランキングに従って第1戦は上位125位まで、第2戦は70位まで、最終戦は30位まで出場できる。

 そして、最終戦に出場する30人は、ランキング1位の選手が10アンダー、2位が8アンダー、3位が7アンダーという具合に、あらかじめスコアが傾斜配分された状態から初日をスタートし、優勝者が年間王者に輝いて、15ミリオンのビッグなボーナスを手に入れる。

 その王座に、現在ランク27位のウッズが就く可能性は、もちろんある。だが、マスターズ優勝後のウッズの少ない試合数や振るわない成績を眺めていると、優勝や年間王者の可能性を取り沙汰するより、むしろ「タイガーは大丈夫?」「体がボロボロ?」「43歳という年齢のせい?」「引退間近?」等々、心配する声が方々で上がっている。

 ウッズの現状や今後を憂慮するそうした声に対し、ウッズ自身は、すでに答えを見いだしている様子だ。試合数に関しては、今年の始めごろから、こう言っていた。

「今年は(出場試合数を)少なくするって(去年のうちから)言っただろう?」

 昨季終盤は予想以上に成績が上がり、プレーオフ最終戦まで連戦になったことで、ウッズはすっかり疲弊してしまった。

「だから今季の試合数は抑える。僕は、このツアーに長く居たいから――」

 そしてウッズは、試合数のみならず練習量も抑えている。

「今の僕は、23、24歳のころの僕とは違う。昔のように猛練習はできない。4~5時間ボールを打って、それから36ホールを回って、さらに4~5マイル走り、そのあとジムに行くなんて日々は、もう過ぎ去った。人生は変わっていくものであり、動いていくものなんだ」

 練習量と試合数をミニマム(最小限)に抑える。それが、米ツアーの現役選手であり続けるため、生き残り続けるための唯一の道だとウッズは考えている。

 勝てる確率は当然下がり、試合慣れしながら調子を上げていく時間的余裕もなくなるため、優勝どころか予選落ちすることもある。それが今季はすでに表面化し、現実になったというわけだ。

「絶好調の週があれば、そうではない週もある。20年前なら、決してそうではなかったけど、今は体が違うんだ。昔のように安定した強さを誇ることはできない」

 実際、マスターズでは優勝したが、全米プロでも全英オープンでも予選落ちという具合に、好不調の波は極端に大きくなった。

 しかし、ツアーに居続けることができれば、試合に出ることが叶えば、勝てる確率は、たとえ低くても、ゼロではない。

「出る以上は、そりゃあ勝ちたい」

 それが、現在のウッズの胸の内にある本当の気持ち。小さな確率に勝利への想いを込めて、ウッズは来週から始まるプレーオフ3試合に挑んでいく。

 そこで再び、何かしらの「伝統」を覆し、新たな奇跡を見せてくれるかもしれない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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