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「勝ちたい」「勝てる気がしている」タイガー・ウッズ、マスターズ5勝目への静かなる自信

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
昨年から今年へ。プロセスを経たウッズは今、「勝てる気がしている」と語った(写真:ロイター/アフロ)

「勝てる気がしている」

 「ゴルフの祭典」マスターズ・トーナメント(4月11日~14日、米ジョージア州オーガスタ・ナショナル)の開幕を目前に控えた9日(米東部時間)、タイガー・ウッズが会見に臨み、勝利への想いを静かに語った。

 振り返れば、ウッズの王者への歩みは、1997年マスターズを2位に12打差を付けて圧勝したあのときから始まった。2001年、2002年には連覇を果たし、2005年大会も制して、マスターズ4勝目を挙げた。しかし、その2005年以降、ウッズはグリーンジャケットを羽織ってはいない。

 ウッズがこよなく愛するオーガスタで勝利から遠ざかってしまった要因は、決して1つではない。膝の故障、不倫騒動、スイング改造に伴う不調、そして腰の故障、手術、リハビリ等々、ウッズ自身に苦難や苦悩がいろいろあった。

 その一方で、ゴルフ界には才能溢れる選手が次々に登場し、かつての王者でさえ、オーガスタで勝つことができない日々が13年間も続いてきた。

 そして今年、アマチュア時代を含め、22回目のマスターズを迎えているウッズは、14年ぶりにグリーンジャケットに袖を通すことへの自信を静かに語った。

【ウッズのプロセス】

 生涯4度に渡る腰の手術を受け、長く辛いリハビリ生活を経たウッズは、昨年1月から戦線復帰し、メジャー4大会もすべて戦い、そして9月に行なわれた米ツアー最終戦のツアー選手権で、実に5年半ぶりの復活優勝を遂げた。

「去年、僕はメジャー4大会のラスト2で、僕には勝てる力があることを実証することができた」

 それは、全英オープンで一時は単独首位に立って6位タイになり、全米プロでも優勝争いを演じた上で単独2位になったことを意味していた。あと少しだけ、いくつかのことができさえすれば勝てるという手ごたえを得たウッズは、それを翌月にはすぐさま実践。

「そして僕はイーストレイクで勝った」

 昔からウッズは「プロセス」を重視してきた。どんな勝利も、どんな功績も、三段跳びで達成できるものではなく、1つ1つ階段を踏みしめながら昇っていくプロセスを経ることが必要なのだと言い続けてきた。

 

 昨年の復活優勝に至るまでの自身の歩みは、ウッズの中で強固な自信になり、今年のマスターズ勝利へつながるプロセスをすでにきっちり踏んできたのだという確信に変わっている。

 だからこそ、なのだろう。ウッズは会見で、こう言った。

「勝てる気がしている」

 それは、静かなる優勝宣言と言っていい。

【ウッズのライブラリー】

 ウッズの勝利を予感させるものは、昨年の歩みだけではもちろんない。

 

 アマチュア時代を含めると、ウッズのマスターズ出場は今年が22回目。その中で、過去4勝を含め、トップ10入りは合計13回。そんなウッズはオーガスタ・ナショナルというコースの特徴を隅から隅まで知り尽くしている。

「僕の頭の中には、このコースをどうやってプレーすべきかをしたためた素敵なライブラリー(図書館)が出来上がっているんだ」

 そのライブラリーはウッズだけが持つオリジナルだ。そんな貴重なライブラリーを持ち合わせつつ、今、勝利が現実的に狙える選手はどれほどいるかと見回せば、その答えは自ずと「ウッズだけ」になる。

「勝てる気がしている」

 そんなウッズの言葉に「なるほど」と頷ける。

【ウッズのチャレンジ】

 とはいえ、オーガスタで過去4勝を挙げたときのような全力投球は、もはやできないとウッズは言う。

「昔のように、(技術面の課題を)何から何まで1日中、練習するなんてことは、もはや僕にはできない」

 4度に渡る膝の手術、4度に渡る腰の手術を経てきたウッズには、肉体的に限界がある。練習量を制限しない限り、彼の肉体は壊れてしまう。

 だが、練習量をコントロールしつつ、練習の質を向上させれば、十分に前進できると彼は言う

「(ポイントを)選んで練習すること。さまざまな課題の中で、いくつかを練習し、バランスを取っていくこと。それは僕にとって新たなるチャレンジだ。(昔のように)どれも全部練習するほうがイージーだったけどね」

 

 「質より量」は簡単だった。「量より質」にせざるを得ない今は、そのぶん知恵と忍耐が求められる。だが、それでもなお「勝てる気がしている」現在のウッズは、とても幸せそうに目を輝かせている。

 米メディアが今年のマスターズで勝利を目指す意義をウッズに問いかけた。「タイガー、もう1度、勝たなくてはいけないと思っていますか?」

 ウッズの返答は、こうだった。

「もう1度、勝たなくてはいけないわけじゃない。僕は、もう1度、勝ちたいんだ」

 そう言って頬を緩ませたウッズの表情に静かなる自信が漲った。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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