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2日間で100万円超!? 高騰するマスターズのチケットとタイガー・ウッズ効果

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
予定を早めて日曜日にオーガスタ入りしたウッズ。月曜日にはバック9を回った(写真:ロイター/アフロ)

 いよいよ、マスターズ・ウィークを迎え、米ゴルフ界、いやいや世界のゴルフ界の視線がオーガスタ・ナショナルに向けられている。そんな中、米国の全国紙「USAトゥデイ」が、マスターズの歴史を物語る面白い秘話を紹介していた。それは、オーガスタの地元に住む94歳の男性の「証言」に基づいて紐解いたマスターズの知られざる歩みだった。

 その昔、まだタイガー・ウッズどころか、ジャック・ニクラスもアーノルド・パーマーも出場していなかったいにしえの時代、マスターズは観戦チケットを地元のホテルや銀行などに「売りさばいてくれ」と頼み込み、なんとかして大会の存在を広めよう、チケットの売り上げと収入をアップさせようと必死だったそうだ。

 94歳の男性は、そんなある日、銀行へ出かけ、融資の相談をしていたら、銀行マンがおもむろにマスターズのチケットを取り出した。

「このチケットを50枚、買ってくれと言われた。そうやって銀行マンからプレッシャーをかけられたことを、私は今でもよく覚えています。そう、あのころは、まだマスターズそのものを“売る”ことに、みんなが必死だった」

 「ゴルフの祭典」と呼ばれるマスターズにも、そんな「売れない時代」が実はあった。だが、やがてサム・スニードやベン・ホーガンらが登場し、そしてアーノルド・パーマーが活躍し始めた1950年代終盤になると、「もう、チケットを必死に売りさばく必要はなくなった」。

【ウッズ出現とチケット高騰】

 私が渡米した1990年代の序盤ごろ、マスターズの練習日のチケットは、オーガスタの入り口の横の券売機で売られていた。

 私はまるで駅で電車の切符を買うように、練習日のチケットをその場で買い、ギャラリーとしてオーガスタに初めて足を踏み入れたのが94年大会だった。

 翌95年、タイガー・ウッズがアマチュアとしてマスターズに初出場。私はそのとき初めてメディアとしてマスターズを初取材した。

 96年にプロ転向したウッズが、2位に12打差を付けて圧勝したのは翌97年大会。以後、ウッズの活躍と相まってマスターズのチケットは高騰の一途を辿り、やがてチケットは事前にオンライン申請して抽選に応募し、当選者だけが購入できる現行システムへと変わっていった。

 前年のマスターズの時期にオンライン申請し、抽選は7月ごろ。Eメールで通知された当選者のみ、練習日は75ドル、試合の日は115ドルでチケットを購入できるのだが、抽選に当たる確率は「きわめて低い」というのが、もっぱらの噂である。

 抽選で当たっても実際にはオーガスタへ行かず、チケットを2次的、3次的に売る人々もいる。本来、チケットを有しているパトロンの中にも、それらを手放し、売る人々もいる。逆に、どうしてもマスターズを観戦したい一心で、旅行会社など何かしらのルートを通じて購入し、訪れる人々も多数いる。

 さらに、オーガスタ近郊の路上には、毎日、ダフ屋が連なり、チケットを求めて彷徨う人々に、こっそり、しかも高値で、チケットを売っている。

 需要と供給がある限り、そこに売買が成立する現象を、マスターズ委員会も、いわば黙認している形だが、地元の銀行マンにもチケット販売を依頼していた「売れない時代」があったことを思えば、ここ20数年はマスターズにとって「我が世の春」と言っていい。

【昨年比15%アップ】

 その20数年を支えてきた筆頭は、言うまでもなく、ウッズだ。

 ウッズはマスターズ4勝の実績を誇り、オーガスタを熟知している王者だが、腰の故障等が原因で2014年と2016、2017年は出場しなかった。

 昨年は3年ぶりにオーガスタに戻ってきたウッズを見ようとする人々が殺到し、マスターズのチケットの値段は前年比20%もアップしたと言われていた。

 そして今年は、昨年9月にツアー選手権を制して5年半ぶりの復活優勝を果たしたウッズが、マスターズ5勝目を目指してオーガスタに立つとあって、チケットはさらに前年比15%アップと言われている。

 抽選に当たったラッキーな人々が1日75ドルで買った練習日のチケットは、今や1000ドルを上回り、1日115ドルだった試合の日のチケットは2000ドル超。

 決勝ラウンドが行なわれる土日は1日5000ドル前後。週末2日間で1万ドルは、日本円に換算すれば、110万円超。

 昨年のこの時期は1週間の通し券が9750ドル、ほぼ100万円で出回っていたが、今年は週末2日間だけで100万円を超えているのだから、なるほど、今年は昨年よりさらに高騰しており、値を吊り上げているのは間違いなく人々のウッズへの期待だ。

 これぞ、タイガー・ウッズ効果。マスターズの変遷を眺め続けている94歳の生き証人も、隔世の感に目を丸くしながら微笑んでいることだろう。

 いざ、試合が始まり、ウッズが優勝争いに絡んでいけば、週末のチケットはさらに高騰するはずで、いやいや、ウッズ効果は今なお、どこまでも果てしない。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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