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それでも、 魔の54ホール目を今後に活かせ、松山英樹!

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
それでも練習。また練習。努力が続く限り、可能性もチャンスも尽きない。(写真:ロイター/アフロ)

「チャンスはないけど――」

54ホール目の18番。見事に2オンしながら、まさかの4パットでダブルボギーフィニッシュ。松山英樹の表情からは、すっかり生気が失われていた。

通算2オーバー、16位タイで迎えた3日目。ムービングデーと呼ばれるこの日に猛追をかけ、最終日に望みをつなぎたい。松山の胸の中には、そんな想いがもちろんあった。

強風や突風に煽られた予選2日間は「このぐらいの風が吹けば、我慢していればチャンスがある」と耐え続けた。だが、「晴天で風も穏やかになる」という予報が出ていた3日目は「風が吹かないので、我慢しているだけじゃチャンスはない」。

そう、松山は3日目に攻めに出ることを心に誓っていたのだ。

「状態は良くないけど――」

ショットもパットも不調のまま迎えた今年のマスターズは開幕前から苦戦続きで、苦戦は今も続いているが、その中でも、なんとか上位へ、なんとか優勝争いへ。

その可能性は決して大きくはなかったが、たとえ小さくても、たとえわずかでも、松山はその可能性を信じていたのだと思う。

【最後にかき消された希望の光】

3日目は予報通り、青空が広がり、風はすっかり静まっていた。

午後1時40分。マーチン・カイマーと同組でティオフした松山は、難関のスタートホールをしっかりパーで潜り抜けたが、2番ではティショットを右の林へ打ち込んでボギー。6番、7番でもボギーを重ね、前半で3つスコアを落とした。この時点で通算5オーバー。首位とはすでに9打の差がついていた。

だが、それでも諦めてはいなかった。そして、10番でようやくバーディーを奪うと、そこから先はショットにキレが戻り始めた。

11番、12番とピンに絡んだ。しかし、バーディーパットを沈めることはできなかった。13番(パー5)は2オンしながら3パットして平凡なパー。14番でもバーディーパットがカップに蹴られた。

グリーン上で、一体何度、天を仰いだことだろう。だが彼は、それでも諦めてはいなかった。

「最低でもアンダーパーへ持っていきたかった」

パー5の15番。フェアウエイから打ち放った第2打は、見事、ピン3メートルにぴたりと付いた。イーグルパットをしっかりカップに沈めた瞬間、松山の中に希望の光は確かにきらめいたはず。きゅっと結んだ口元は、「まだいける」「まだいくぞ」と言っているかのようだった。

通算2オーバーで迎えた上がり3ホール。最低でも2つ伸ばしてアンダーパーへ。そこに松山は望みをかけていた。

しかし、16番も17番もバーディーチャンスをモノにすることはできなかった。

そして、54ホール目の18番。ピン左下10メートルからのバーディーパットをいきなり沈めることはさすがに難しく、2パットのパーで終了だなと誰もが思った矢先。パーパットがカップを舐め、ボギーパットもカップを舐め、4パットのダブルボギー。

18番グリーンを囲んだ観衆は思わず絶句した。松山は15番のイーグルできらめいたはずの希望の光が「最後にかき消された」と唇を噛んだ。

【チャンスは今年が最後ではない】

思えば、昨年の3日目は15番で今年と同じように見事に2オンしながら、3パットしてパーに終わり、松山の表情はこのホールで陰った。16番、17番は連続ボギーを喫し、18番ではバーディーが奪えず、54ホールを終えた時点では首位のジョーダン・スピースとは4打差になっていた。

「もうちょっと差のないところでやりたかった」

そう言った松山は昨年も54ホールを終えたときはすっかり落胆し、元気を失っていた。だが、あのときは優勝のチャンスが少しばかり遠のいたという落胆。今年は優勝争いに絡むチャンスを54ホール目で自らゼロに近づけてしまったという大きな落胆。その違いは、あまりにも大きい。

昨年は松山が落胆したその直後、スピースがスコアを落として2人の差は4打から2打に縮まった。

今年、通算4オーバーで最終日を迎える松山の上方には、6アンダーのジャスティン・ローズとセルジオ・ガルシア、5アンダーのリッキー・ファウラー、4アンダーのジョーダン・スピースとあまりにも多くの実力者がひしめき合っている。

松山と首位との差は10打。

「チャンスはないけど――」

確かに、可能性は限りなくゼロに近い。歴史を紐解けば、最終日に8打差を逆転して勝利した例はあるが、それは1956年の話で、しかも追撃をかけた相手は一人だけだった。

1996年に6打差を逆転したニック・ファルドのケースも、捉えるべき相手はグレッグ・ノーマンただ一人だった。

時代が違い、状況も条件も異なるとはいえ、松山が明日、10打の差と上にいる27人すべてを打ち負かせる可能性はゼロに等しいと言っても過言ではない。

だから「チャンスはない」と松山は言った。だが、それでもなお彼は、その足で練習場へ向かい、クラブもパターも握り続けた。

その先に何が起こるか。何を掴むことができるのか。

マスターズは今年で終わりではない。彼のチャンスは今年が最後ではない。魔の54ホール目を今後に活かせ、松山英樹。

そう、これからの未来のために、最終日をしっかり戦ってほしい。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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