誰のため、何のための全英オープンなのか?ミュアフィールドを全英開催コースから外した決定を考察する

ミュアフィールドで開かれた2013年大会ではフィル・ミケルソンが勝利を挙げた(写真:青木紘二/アフロスポーツ)

【メンズクラブは全英舞台から外す】

英国ゴルフの名門、ミュアフィールドが全英オープン開催コースのローテーションから外された。同クラブは、いわゆる女人禁制で男性オンリーのメンズクラブ。それは英国のプライベートクラブにおいては珍しいものではない。

だが、英国ゴルフの総本山R&Aが本拠を置くセント・アンドリュースが2年前に女性メンバー受け入れを決め、以後、英国ゴルフ界には性別を問わないオープンな雰囲気が漂い始めている。

そして今回、ミュアフィールドも女性メンバー受け入れの是非を問う投票を600名を超える男性メンバーたちに求めた。しかし、規定変更に必要な3分の2の賛同が得られなかったため、これまで通り、男性だけのメンズクラブとして存続することになった。

その決定を受けて、R&Aはミュアフィールドを全英オープンの舞台となる10コースのローテーションから外すことを決めた。

【残念すぎる損失】

ミュアフィールドといえば、これまで16回も全英オープンの舞台になったリンクスコースだ。ティショットがブラインドになるホールは、わずか1ホールしかなく、155個超のバンカーもブラインドではなく見えるようレイアウトされている。全英オープン開催コースの中では「最もフェア」「運不運ではなく実力こそがモノを言う」コースだと選手たちは口を揃えてきた。

ミュアフィールドの全英オープンで最も近年に勝利したのは2013年のフィル・ミケルソン。あの大会は松山英樹が初めて挑み、6位に食い込んだ全英オープンでもあった。

2002年大会を制したのはアーニー・エルス。そのとき優勝争いに絡んで5位になったのは丸山茂樹だった。1992年と1987年の勝者は、どちらもニック・ファルド。1980はトム・ワトソン、1972年はリー・トレビノ、1966年はジャック・ニクラス、1959年はゲーリー・プレーヤー。優勝者は押しも押されもせぬ実力者ばかりだ。

そんなミュアフィールドで全英オープンが開かれることが、もう2度とないとしたら、それはゴルフ界にとって大きな損失であり、あまりにも残念である。

【性急すぎる決定】

ミュアフィールドでメンバーによる投票が行われることが決まった後、女性受け入れを拒否すべしという内容の怪文書が出回ったと言われている。その怪文書が投票結果にどこまで影響を及ぼしたかは測る術もないが、ともあれ、ミュアフィールドがメンズクラブから男女共存クラブへと変身することには今回はならなかった。

もしも今後、ミュアフィールドが心変わりして女性メンバーを受け入れることにしたら、再び全英コースのローテーションに加わることは可能と見られてはいるが、どうにも首を傾げてしまうのは、由緒あるメジャー大会の舞台が、あっという間にその舞台ではなくなる事態が、こうして起こっている現実だ。

ミュアフィールドで勝った選手はもちろんのこと、悔しい敗北を喫した選手、今度こそはという想いを抱いている選手。そんな選手たちの胸の内とは無関係に、「もう、あそこで全英オープンはやらないよ」と決めてしまったら、それはまさしく選手不在の決定である。誰のためのメジャー大会なのかと考えると、本末転倒に思えてならない。

近代社会において、相変わらずメンズクラブを維持すると決めたミュアフィールドは唯我独尊と言われてもエクスキューズのしようがなく、エクスキューズするつもりもないのかもしれない。だが、そのミュアフィールドをいきなり全英のローテーションから外すと決めた決定の仕方も、少々、性急すぎるのではないだろうか。

先ごろ、もう1つ、伝統ある名コースが全英オープンのローテーションから外された。そう、あのドナルド・トランプが所有するターンベリーだ。トランプの言動や主義主張が、R&Aを始めとする近代のゴルフ界の姿勢にそぐわないというのが、その理由。

ミュアフィールド同様、ターンベリーにも様々な想いを抱いている選手たちがいる。だが、ターンベリーを全英コースから外すと決めた決定も、選手たちの心情とは無関係に、駆け足で下されたものだった。

【誰のため?何のため?】

ここで論点を整理してみようと思う。

ターンベリーは所有者であるトランプの意志の下にあり、ミュアフィールドは現在のメンバーたちの意志の下にある。 “彼らのクラブ”を彼らがどう運営していくかは、彼ら次第だ。

ゴルフ界に関わる者が論ずるべきことは、トランプの政治的主義主張に対する賛否やミュアフィールドの女性差別に対する賛否ではなく、よりよいゴルフ界を構築していくための最善の道は何かということだ。

スポーツと政治を混ぜるべきではないし、私的団体や組織の主義主張の是非を問いただすのは、スポーツ界、ゴルフ界の本来の使命ではない。

とはいえ、人種や国籍、性別による差別を無くし、ドラッグや暴力を追放し、よりよい社会を作り上げるために、スポーツ界、ゴルフ界がその一助となるのは喜ばしいこと。しかし、そこは性急になりすぎず、プレーヤーやファンの心情を考慮しながら慎重に進めていってほしい。

今回のように、いきなりローテーションから外すのではなく、たとえば、何年以内に規定が改正されない場合はローテーションから外すという警告を出すとか、金銭的なペナルティを課した上でローテーションに残すとか、あるいは、多大なるチャリティをすればローテーションに残すといった引き換え条件を付ける等々、何かしら段階的な処置を講じる手はなかったのだろうか。

誰のため、何のための決定なのか。誰のため、何のための全英オープンなのか。その答えが誰にもわかるものであってほしい。そうでなければ、名舞台が消えることは残念すぎる損失となるだけで、失うものはあっても、得られるものは何もない。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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