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タイガー・ウッズを取り巻く「もう」と「まだ」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
辺境の地で地元メディアの取材に答えるタイガー・ウッズ(写真/舩越園子)

かつての世界ナンバー1。しかし現在は世界ランキング220位まで後退しているタイガー・ウッズ。起死回生のチャンスは、もはや少なくなりつつある。

かつてはメジャー大会やビッグ大会、相性がいい好きな大会を選んで出場していたが、もはやそんな贅沢ばかりを言っている場合ではない。今週はウエスト・バージニア州の辺境の地で開催され、ビッグネームたちの多くが敬遠するグリーンブライヤー・クラシックに出場する。

ウッズがこの大会に出るのは2度目。初出場した2012年大会は好調な中で挑んだにも関わらず予選落ちした、いわば相性が決して良くない大会だ。だが、試合を選ぶ余裕はない。2週間前に開催された全米オープンでは「80―76」というキャリア最悪の36ホールスコアで予選落ちとなり、「全英オープンまでに、なんとかして調子を上げなければ」と語った自らの言葉をさっそく実行に移したのが、今週のグリーンブライヤー出場だ。

【不調を自己分析すると……】

腰痛などの故障を理由にシーズン序盤で欠場していたこともあり、今季のウッズはまだ6試合しか出場していない。そのうちの3試合で80台のスコアを喫し、4日間プレーできたのは6試合のうちの半分の3試合のみ。どこからどう眺めても、今季の不調はひどい。

だが、ウッズにはウッズなりの主張がある。グリーンブライヤー開幕前日、インタビューエリアにやってきたウッズは、こう言った。

「以前にも似たような(不調の)時期はあったんだ。97年、98年もそうだった。あのころも僕は優勝ではなく予選通過を目指してプレーし続け、そして99年、2000年に良くなったんだ」

ウッズのこの言葉は、スイング改造の途上は成績が下降して当然だという意味だ。新コーチ(スイング・コンサルタント)のクリス・コモの理論に従い、新しいスイングを目指している現在は、過渡期ゆえに成績が振るわなくて当然なのだ、と。

最悪のスコアを喫した先々週の全米オープンも「信じがたいかもしれないが、優勝できるゴルフからほど遠いかと言えば、そんなに遠くはないんだ」。ウッズ自身の感触は決して悪いはないのだと言う。

それなのに、ひどいスコアを喫した原因の1つとして、まっ先に挙げたのは左手人差し指の小さなケガだ。「マイナーなケガだけど、あの週は本当に痛かった」。

そして、開催コースだったチェンバーズベイの特殊性にも触れた。

「ああいう“面白い場所”では、1打のミスで“本当のバカ”のようにも見えてしまうし、ひどいショットを打ってもヒーローになることだってある。まあ、でも、どっちにしても僕は狙ったところに打っていくことができなかったんだけどね……」

いろいろ振り返りつつ、ウッズ自身が最終的に戻ってきた結論は、やっぱり自分のショット、自分のゴルフそのものの不調だった。

【数々の“まだ”】

昨年はバッバ・ワトソンがマスターズ2勝目を挙げ、今年はジョーダン・スピースがマスターズと全米オープンを続けざまに制し、そうやって米ツアーのスター選手の顔ぶれが様変わりしている昨今、米国の新種のネットメディアの中にはウッズを過去のスターと決めつけ、こき下ろし報道を重ねているものも増えている。

「いまだにウッズはPGATOUR.COMの選手紹介ページで特大に扱われている。そういう特別扱いが続く限り、どの大会もウッズが出場エントリーするだけで『タイガーが我が大会に出るぞ』と大喜びするんだろうね」と皮肉たっぷりに書いている。

ウッズに向けられたギャラリーの野次を拾い集め、「いまだにナンバー1!」「いまだに君こそが本物」「いまだに応援しているぞ」という具合に、「still(いまだに)」をくっつけて声援を送るのが最近の流行りだと紹介している。

しかし、一番辛辣で露骨なのは、かつてウッズが行くところには世界中のどこへでも行った“タイガー番記者”たちの姿が、今週のグリーンブライヤーには「まだある」ではなく「もうない」という現実だ。

クラブハウス前の屋外インタビューエリアにやってきたウッズを待っていたのは、顔なじみの番記者たちではなく、辺境の地の地元メディアばかりだった。

「タイガーをこの目で見るのは前回出場した2012年以来だ」という地元の老齢の記者がニコニコしながら質問した。

「タイガー、今週、ここで勝てるかい?」

ウッズは笑顔で頷きながら、一言。

「もちろんだよ」

そのやり取りが、妙に淋しく響いた。

ウッズは今大会後、全英オープン、自らの財団が主宰するクイッケンローンズへの出場は決まっているが、その後は未定。出たくても出られないであろうビッグ大会もある。

現在、米ツアーのフェデックスカップランクは202位と低迷中。だが、1勝すれば一気にトップ100以内へジャンプアップして、シーズンエンドのプレーオフ4試合に出場できる可能性は「まだ」ある。だが、このまま不調が続けば、ウッズの今季は望む望まぬに関わらず、8月で終了してしまう。

たとえ皮肉や嫌味が込められていようとも、「まだ」は小さな可能性が残されている証。 まだチャンスはある。まだ勝てる。まだ起死回生の望みはある。

その「まだ」を「もう」には、しないでほしい。そう願っているファンは、「まだ」多いはずだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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