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松山英樹とスピース、ファウラーを同組にしたUSGAの願い

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
「ジャック・ニクラスの大会」で米ツアー初優勝を挙げた松山英樹(写真・平岡純))

来週、ノースカロライナ州のパインハーストNo.2を舞台に開催される全米オープン。その予選ラウンド2日間の組み合わせが発表され、松山英樹は20歳のジョーダン・スピース(米国)、リッキー・ファウラー(米国)と同組になった。

言うまでもなく、「注目若手」という修飾語で括られる取り合わせだが、この3サムを考えた背後には、それだけではない何かがある。

松山は先週、米ツアーのメモリアル・トーナメントを制し、ルーキーにして初優勝を挙げたばかり。世界ランクは一気に13位へ上昇。今、最も旬な若手と言えば、それは「ヒデキ・マツヤマ」と言っても過言ではない。

その松山が誰と同組で全米オープンの予選ラウンドを回るのか。それは、ある意味、大会を開催するUSGA(全米ゴルフ協会)や米ゴルフ界が、松山をどう見ているか、どんな期待を寄せているかを物語るものだ。

【松山とスピース】

米ツアー出場わずか26試合目で挙げた松山のスピード優勝は、言うまでもなく、センセーショナルな勝ち方だった。が、松山の優勝のセンセーショナル性を高めたのは、世界ナンバー1のアダム・スコットやマスターズ2勝を達成したばかりのバッバ・ワトソンなどの強豪選手たちを相手に、まるで臆することなく勝利を挙げた堂々たるパフォーマンス、いわば強心臓ぶりにある。

USGAは、そんな松山にスピースとの共通性を見い出したのだろう。スピースは2012年の暮れにプロ転向し、ノンメンバーとして米ツアーに挑み始めたのが昨年の春からだった。そして、7月にジョンディア・クラシックで初優勝を挙げた。デビューから早々にルーキーにしてスピード優勝を果たすという点は松山とまったく同じだった。

スピースはその勢いのまま、、シーズンエンドのプレーオフシリーズにも進出。あらゆるランキングを駆け上り、瞬く間に世界のトッププレーヤーの仲間入りをした。

そして、今年4月のマスターズでは、最終日最終組で回り、一時は単独首位にも立って、メジャー初優勝に迫った。結果的にはワトソンに敗れ、グリーンジャケットは遠のいたが、スピースがオーガスタの4日間で見せた堂々たるプレーぶり、自信に溢れた姿と、メモリアルを制したときの松山の姿が、だぶって見えた人は多かったはずだ。

松山とスピースは、ルーキー優勝、スピード優勝、そして自信に溢れ、臆せずプレーする強いメンタリティ……2人の間には、たくさんの共通項が見られる。

スピースはミケルソンに続く米国スターになると期待されている(写真・平岡純))
スピースはミケルソンに続く米国スターになると期待されている(写真・平岡純))

【松山とファウラー】

一方、すでに米ツアー5年目を迎えている25歳のファウラーは、松山やスピースと比べると、すでにベテランの感さえ漂う。

米ツアーに正式デビューしたのは2010年シーズン。当時は、米ツアーでも「注目のティーンエイジャー」ということで石川遼と比べられることが多かった。日本ではファウラー、ローリー・マキロイ、石川の3人のファーストネームの「R」を取って、「3R」などと呼んだ時代もあった。

だが、ファウラーは優勝争いにはデビュー当時から絡んだものの、なかなか勝利を掴めず、ようやく初優勝を挙げたのは3年目の2012年のウエルスファーゴ選手権だった。

つまり、ルーキー優勝、スピード優勝という点では、ファウラーは松山やスピースと共通項で結ばれることはない。

が、祖父が日本人、母親が日本人と米国人のハーフ、ファウラー自身には日本人の血が4分の1流れているという点で、日本の松山と共通項がある。

もちろん、ファウラーは日本語はまったく解せず、もっと言えば、祖父の「ユタカ」さんだって日本語はわらかないのだから、「日本の血で結ばれている」という表現が当たるのかどうかは疑問。しかし、ちょっぴりこじつけであっても、米国のギャラリーや子供たちには大人気のファウラーと松山を結び付け、同組にしたところに、USGAの松山に対する期待の高さがうかがえる。

【USGAの期待、願い】

その期待とは、何か。

ファウラーのように、米国や世界の子供たち、ジュニアゴルファーたちに夢を与え、夢を広げるプレーヤーになってほしいという願いだ。

米国のゴルフ好きの子供たちは、ファウラーそっくりの出で立ちでゴルフ観戦にやってくる。上から下までオレンジ色で固めたり、あの特徴的なキャップを被ったり、ファウラーが契約しているプーマのロゴが大きく描かれウエアを身に付けたり。大人でも、そんな格好をしている人がいるほどで、まさにファウラーは、人々が「リッキー・ファウラーっぽい?」と憧れ、真似される存在だ。

憧れ、真似される存在という意味では、スピースも同じだ。スピースの場合は、トレードマークのアンダー・アーマーがゴルフ好きの間でどんどん広まりつつあるが、そんなゴルフビジネスの話はさておき、スピースの歩みを真似しようとするプロ予備軍たちが増加している。

ノンステイタスで、スポンサー推薦を頼りに一か八かで米ツアーに挑み始め、優勝してシード選手へ、トッププロへと上っていったスピースの歩みは、すでに「ジョーダン・スピースする」という動詞となって口ずさまれ、「僕もジョーダン・スピースしたい」と崇められている。

松山にも、ファウラーのように子供たちの憧れの的になってほしい。願わくば、ファッションリーダーにもなってほしい。スピースのように、プロを目指す予備軍たち、さらなる若手ゴルファーたちが「ヒデキ・マツヤマする」「ヒデキ・マツヤマしたい」と言う存在になってほしい。

そんな大きな大きな期待が、松山英樹の双肩にかけられている――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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