全英オープン3日目 松山英樹の1打罰をどう活かす!?

17番のティショットがトラブル。数分後、1打罰を食らった(写真/中島望)

全英オープン3日目。リーダーボードを駆け上り、一時は4位まで浮上した松山英樹が大事な終盤にスロープレーで1打罰を科せられた出来事は、松山自身はもちろんのこと、ファンや関係者、世界のメディアをも驚かせた。

が、その出来事を眺めながら、私が思い起こしたのは今年のマスターズと全米オープンだった。なぜなら今回の松山の一件は、そのあたりからの一連の流れの中で起こったものだと考えられるからだ。

アジア・アマチュア予選で優勝し、今年のマスターズに出場していた14歳の中国人少年、関天朗が、予選通過のかかる2日目のラウンド中、やはりスロープレーで1打罰を科され、予選通過が危うくなる出来事があった。

「14歳の少年に厳しすぎるのではないか?」「米ツアーの試合では、関よりスローなプロがたくさんいるのに……」

米メディアの報道の多くは、マスターズ委員会の決定に批判的で関に同情的な論調だったが、当の本人は「ルール・イズ・ルールだから従うのみです」と素直に受け入れ、最終的には進出がかなった決勝ラウンドを一生懸命にプレーして、関はローアマに輝いた。

そんなことがあった翌朝、タイガー・ウッズの2日目のドロップ処置が問題化し、失格かどうかが取り沙汰された上で、単なる罰打にとどまるという事件があった。

米メディアの多くは、これに対しても「マスターズが陰った大会になってしまった」と手厳しく批判。「タイガーのルールに対する知識や認識の低さが露呈した」と、タイガーを批判する報道もかなり見られた。

【スロープレーは大問題】

その2か月後に開かれた全米オープンの際、大会を主催するUSGA(全米ゴルフ協会)から「プレーのペースを見直すキャンペーンのお知らせ」が世界へ向けて発信された。

その内容は「スロープレーはアマチュア界でもジュニア界でも大きな問題であり弊害である」として、タイガー・ウッズや元女王のアニカ・ソレンスタム、ハリウッドの巨匠クリント・イーストウッドらが「スロープレーをなくそう」と呼びかけるもの。

ゴルフ中継や番組の合間に、そのキャンペーン映像が挟み込まれて流れる仕掛けになっていた。

男女を問わず米ツアーでもスロープレーは常に問題化している。それゆえ、このキャンペーンには、USGAのみならずLPGAやPGAオブ・アメリカも加わり、ゴルフ界あげての一大キャンペーンと化していた。

そのキャンペーンの発表と開始が全米オープンで行われたことは、ゴルフ界全体が総力を上げてスロープレーを減らそう、なくそうと躍起になっていることの何よりの証。

そして迎えたのが次なるメジャーである全英オープンだ。

マスターズ委員会もUSGAもスロープレーに対してアクションを起こしたのだから、R&Aがここで何かしらアクションを起こしたとしても、それは不思議ではないどころか、それはむしろ自然だった。

【英語力、ルール力】

1打罰を科せられた松山が激しい怒りを覚えたのは、心情的には頷ける。せっかく上位が狙える位置でがんばっているのに、どうしてよりによって……と思いたくなる。

松山と同組だったジョンソン・ワグナーは「メジャーの3日目のラウンド終盤に上位で戦っていた選手のプレーの仕方という意味で、マツヤマが罰打を受けなきゃいけないほどスローだったとは絶対に思わない。R&Aの判断はあまりにも酷でアンフェア。R&Aはもっといい判断ができたはず」と怒りを露わにしていたほどだ。

が、関少年の言葉を借りれば、最終的にはやっぱり「ルールはルール」。規定の所要時間を超えてショットに時間をかけてしまった以上、罰打の対象になるのは仕方のないこと。

むしろ松山の怒りは、覚えた疑問がその場で解明できず、「なぜ?」の怒りと疑問が混濁したまま残りをプレーしてしまったという流れのほうだった。

「何で?意味わからないと怒りを覚えて、そのまま最後まで来てしまった」

17番のボギーは1打罰のせいだが、18番のボギーは怒りのせいで、さらに落とした1打となった。

それならば、松山の「なぜ?」はなぜそのときその場で解明されなかったのか。

本来ならルール委員が選手に説明し、通達するというシンプルな作業のはず。だが、全英オープンでは各組にオブザーバーという役割の人物がおり、松山の組のオブザーバーは日本人だった。

スロープレー警告や計測開始を松山に直接伝えたのは、この日本人オブザーバー。17番の2打目を打ち終えたあと、1打罰が科せられたことを伝えたのも、この人物。

その際、そのオブザーバーが実際にどんな言葉でどんな風に松山に詳細をきちんと伝えたのか、伝えなかったのか。その事実を知りたいとは思うし、気になった。

が、そのオブザーバーへの直接取材は拒否された。代わりに会見に臨んだR&Aのルール委員長に詰め寄り、あれこれ尋ねてみたのだが、ルール委員長はオブザーバーの説明の仕方等々は取り沙汰せず、最後には「言葉の問題、障壁だね。マツヤマは今後、英語を学ぶ必要がある」。

その言葉、ひどく冷たく言い放ったように聞こえなくもない。が、それが世界という場でまかり通る正論であることも否めない。

もしも松山が英語力を身に付けていたら、警告が出されたとき、計測が開始されるとき、その時点で確認作業ができたはずだ。英語の問題にとどまらず、スロープレーのルールに関する深い知識があれば、罰打を受けないような対処をすることもできたかもしれない。

マスターズの関少年の例に戻れば、あのとき関と同組だったのは大ベテランのベン・クレンショーと若手とはいえ経験豊富なマテオ・マナセロだった。本当にプレーがスローだったのは大叩きしていたクレンショーだったという見方もあったが、そのスリーサム全体が計測にかけられた途端、彼ら2人はとんでもなくクイックなプレーに切り替え、そんな機転を利かせる術を知らない関だけが罰打を食らった。

そう考えると、この一件は、松山にとっては英語力の必要性を痛感し、スロープレーのみならずルール全体に対する知識認識を高める必要性を見直すためのいいきっかけになったのかもしれない。

いや、世界を舞台に戦っていくつもりなら、一度こうして転んだとき、絶対にタダでは起きないぐらいの姿勢で挑んでいってほしい。そうでなければ、厳しい世界を生き抜いてはいけないだろう。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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