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全英オープン初日 ミケルソンが語った松山英樹の「ここがすごい」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ミケルソン、マキロイ、松山。誰の胸にも不安はあった(写真/中島望)

全英オープン初日。フィル・ミケルソン、ローリー・マキロイとの同組ラウンドを控え、松山英樹はスタート前から身を固くしていた。

「すごい緊張しました。全米オープンのときの比じゃない。今までで一番緊張しました」

松山はパットを得意としている選手だ。だが、初日のスタート前は「朝の練習からストロークがうまくいってなくて……」と不安を抱えていた。

その不安があったことが大きな緊張を誘発したのかと尋ねると、「いやあ……」と松山は首を捻った。どうやらそうではないらしい。それならば、なぜ彼はそんなにも緊張したのか。

その理由は複合的なものだろうから本人だって明確に答えることはできないけれど、世界のゴルフ界のトップの中のトップ2人と同組で回ること、初めての全英で初めてのリンクスに挑むこと、練習ラウンドではなく、ついに本番に挑むこと、そのスタートを切ること……彼を緊張させる要因は、ちょっと想像しただけでもいくらでもあった。

だが、ふと考えた。初出場の若者だけが緊張するのか?大ベテランのミケルソンやマキロイには不安はなかったのか?緊張はしなかったのか?

いやいや、彼らも人間、誰もが人間。緊張もするし、不安もある。

初日にいきなり8オーバー、79を叩いたマキロイは、その理由は「メンタル面の問題に尽きる」と言い切った。ゴルフはメンタルなスポーツだからこそ、そういうことが起こりうる。

そして、ゴルフがメンタルなスポーツだからこそ、逆にミケルソンはメンタル面の作戦が功を奏し、好スタートを切ったと言うことができる。

松山のすごさを見抜きながら握手をかわしたミケルソン(写真/中島望)
松山のすごさを見抜きながら握手をかわしたミケルソン(写真/中島望)

【ミケルソンの満足】

「ミケルソンは全英が不得意」と言われて久しい。マスターズ3勝、全米プロ1勝のつわものだが、全英オープンでの成績は2004年の3位、2011年の2位タイ以外は振るわず、だから言うまでもなく未勝利だ。

だが、不得意を不得意のままにしないために、ミケルソンはこのほぼ20年間、さまざまな工夫と努力を重ねてきた。

たとえば、その1つ。先月の全米オープンにはドライバーをバッグに入れないクラブセッティングで挑み、最終的に惜敗をしたとはいえ、その14本の組み合わせで好感触を得た。そして彼はそのセッティングのままスコティッシュオープンに出場して優勝を飾り、さらなる手ごたえを得た上で全英オープンに臨んでいる。もちろん、ここでも彼のバッグにドライバーは入れられていない。

ミケルソンのそんな試行錯誤は単なるクラブセッティングの工夫に留まらず、自信や安心感の醸成にもつながっている。全米オープンでは6度目の惜敗を喫して心に傷を負ったが、同じクラブセッティングを貫きながら手に入れたスコティッシュオープン優勝で自ら心の傷を癒し、次なるメジャータイトル獲得を心に誓いつつ、全英オープンへ。

そうやってミケルソンはミケルソンなりに、大ベテランは大ベテランなりに、不得意を得意へ、不安を自信へ、不満を満足へ変えようと必死なのだ。

初日のラウンド中も試行錯誤を繰り返しながら不安や不満と戦っていた。風と日照で「後半は各グリーンの3分の1の芝が死に始め、風が無くても非常に難しい状態だった」。そのせいで2つのボギーを喫したが、「早い時間のスタートで助かった」「アンダーパーで回れて良かった」「4日間のいいスタートを切れた」。自信と満足を感じ取り、胸を撫で下ろしながら、ほっと安堵していた。

【松山の満足】

そんなミケルソンとさまざまな部分で似通った面を見せていたのが松山英樹だった。

ミュアフィールドに足を踏み入れたときはフェアウエイやグリーンの硬さ、速さ、バンカーの形状など数々の“初”に驚き、「帰りたくなった」と不安も覚えた。

が、名コーチ、ピート・コーワンからもらった「右肩を閉じるな」という助言でショットの好感触と自信をまず固めた。

ミケルソンがドライバー0本なら松山は3番アイアン2本のスペシャルセッティング。「ストロングとノーマル、2種類のロフトのロングアイアンを入れるのは全米オープンのときから続いている傾向ですね」とは、ダレルサーベイ調査員の分析。

しかし、パットの不調と不安は朝の練習で解消できず、「無駄なパットのミスが多かったから満足はしていない」という内容になってしまったが、「上がりの2連続バーディーには満足している」と最後の最後は不満を満足に変えた盛り返しが、ミケルソンとの最大の類似点だった。

ミケルソンも松山のそこに着目していた。

「彼は非常に手堅いプレーヤーだ。でも僕が彼の何に一番驚かされたかって、あれだけグリーンに手こずり、終盤に入って15、16番の2連続ボギーで崩れかけたのに、17、18番で2連続バーディーを奪った盛り返し方はすごい」

ゴルフはメンタルなゲーム。心が揺れない選手などいない。その中で、どれだけ不得意を得意へ、不安を自信へ、不満を満足へ変えられるか。

その度合いを最大化した人が、最後には勝者となって輝くはずだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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