Yahoo!ニュース

全英オープン 「不思議」が起こらないからこそ、松山英樹にチャンスがある!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
松山英樹はミュアフィールドを相手にどこまで実力を出せるか!?(写真/中島望)

全英オープン開幕を控え、ミュアフィールドでは選手たちが最後の調整に必死だ。

ミュアフィールドが全英オープンの舞台になるのは今年が16回目。2002年の前回大会で優勝争いに絡み、激しい風雨の中を戦い抜いて5位になった丸山茂樹は、それ以前もそれ以後も、いつもこう言っていた。

「日本人がメジャーで勝つチャンスがあるとしたら、それは全英だけだと思う」

米ツアーに9年間、腰を据えて戦い続けた丸山は米ツアーや世界の厳しさを嫌というほど味わってきた選手だ。通算3勝を挙げながら、ついにメジャー優勝には手が届かなかった。全米オープンでもミュアフィールドの全英オープンでも勝利に迫り、最終的には好機を逃した。その丸山が言った「チャンスは全英だけ」という言葉は、勝つためには実力のみならず運も必要で、メジャー4大会の中で運に左右される面が一番大きい全英オープンは「日本人にも優勝の可能性があると思う」という意味だった。

確かに、全英オープンでは「運が良かった」「運に恵まれなかった」と誰もが思う展開がきわめて多い。神様の存在を信じない人でさえ「勝利の女神のおかげだ」と思ってしまう展開も多い。それほど不思議な出来事が多いのだ。たとえば、ここ5年間、世界ランクのトップ10から優勝者が出ていないことだって、かなりの不思議だ。トップ10どころか、09年大会では還暦間近の59歳だったトム・ワトソンが優勝目前まで迫り、世界中のゴルフファンをドキドキさせた。

そんなことまで起こりうるわけだから、往々にして小柄でパワー不足で、確実に国際経験不足で、ついでに言うと英語力は平均以下という日本人選手だって、もしかしたら運に恵まれ、勝てるかもしれない……そんな期待を抱けるメジャーは全英だけなのだと当時の丸山は言っていた。そして、それを聞いた私は、いつも深く大きく頷いていた。

だが、今年のミュアフィールドでそうした「不思議」が起こるかどうかと問われたら、その可能性はおそらく低い。なぜなら、全英開催コースのローテーションの中で、このミュアフィールドは最もフェアなコースだから。つまり、全英の舞台の中では運に左右される面が最も小さいコースだからである。

全英の舞台と言えば、リンクスコース。リンクスコースと言えば、ティからグリーンが見えず、狙いどころも見えず、一体どこへ打ったらいいのかもわからないなんて状況がざらだ。フェアウエイもグリーンもデコボコで、ボールがどこへどうバウンドするかもわからない。だから、全英におけるゴルフはフェアではなく、運任せになることが多いと言われるわけだ。

が、このミュアフィールドはティショットがブラインドになるのは1ホールのみで、他はすべて狙いどころを見据えた上でショットすることができる。155個超と言われるバンカーもブラインドではなく、すべて見えるようにレイアウトされている。グリーンの傾斜は、もちろんあるにはあるのだが、全英コースの中ではマイルドなほうで、それは強風下でもプレー不能にならないよう配慮されているからなのだそうだ。

なるほど。だから、あの2002年大会は、3日目にあれほど激しいストームに襲われ、タイガー・ウッズがキャリアワーストの81を叩くほどの悪天候になったのに、中断もされず、プレーが続けられたのだ。最終日も極寒の中、プレーが続けられ、丸山は5位に甘んじたが、優勝争いは4人によるプレーオフへもつれ込み、アーニー・エルスが勝利した。

そう、ミュアフィールドがフェアなコースであることは、この地で勝利を挙げた選手たちの顔ぶれを見れば納得できる。02年はエルス、92年と87年はニック・ファルド、80年はワトソン、72年はリー・トレビノ、66年はジャック・ニクラス、59年はゲーリー・プレーヤー。ラッキー優勝は一つもなく、実力溢れる大物ばかりが勝ってきた。

そうなると、今年、日本が期待を寄せる松山英樹には、どれほどチャンスがあるのか、ないのか――という点が興味と関心の対象になる。

ボールストライキングの技能がそのままスコアに反映されるという意味では、すでに先月の全米オープンで10位に食い込んで技能の高さを実証した松山が好成績を出せる可能性は高いと言える。

が、緻密なコース攻略がスコアを作るという意味では、ミュアフィールドを知らないどころか、生まれて初めての本場のリンクスに驚いている松山が、全英常連の実力派たちを凌駕できる可能性は低いのかもしれない。

だが、松山が誇る最高の能力は、初めての環境を鋭く観察し、素早く順応していく適応力とそのスピードだ。初出場したマスターズでローアマに輝いたのも、今年の全米オープンで10位に食い込んだのも、大きなモノを言ったのは、運ではなく彼の観察眼と適応力だった。

予選2日間に同組で回るフィル・ミケルソンは「マツヤマサンがいかに素晴らしい選手かって話がいっぱい耳に入ってきているけど、僕はまだ彼のプレーを見たことはない。明日からが楽しみだ」とお世辞混じりに語っていた。ローリー・マキロイ然り。

スコットランドのゴルフファン、そしてミュアフィールドを擁するガランという名の小さな街の人々も、今はまだ見たこともない「マツヤマ・フロム・ジャパン」の存在をこの全英オープンで覚えてくれるだろうか。

今週の予想入場者数は延べ16万人。大勢のギャラリーの目を釘づけにする実力者は果たしてタイガー・ウッズか、フィル・ミケルソンか、松山英樹か――。

そのどれが起こっても、それは「不思議」ではない。

18番グリーンのグランドスタンド。リーダーボードの最上段を飾るのは誰だ?
18番グリーンのグランドスタンド。リーダーボードの最上段を飾るのは誰だ?
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

舩越園子のゴルフここだけの話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週2回程度(不定期)

米国ゴルフ取材歴20年超の在米ゴルフジャーナリストならではの見方や意見、解説や感想、既存のメディアでは書かないことがら、書けないことがら、記事化には満たない事象の小さな芽も含めて、舩越園子がランダムに発信するブログ的、随筆風コラム。ときにはゴルフ界にとどまらず、アメリカの何かについて発信することもある柔軟性とエクスクルーシブ性に富む新形態の発信です。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

舩越園子の最近の記事