Vol.09 台風の目となったNTTドコモ 数字では見えない成果と展望

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

今シーズン、NTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーをしております、福富信也です。

このコラムでは、チームワークの強化・チーム力の最大化、いわゆるチームビルディングという立場でレッドハリケーンズをサポートする私が、 ”チームがどのような課題に直面しているのか” “チーム内にどのようなリスクが潜んでいるのか” 、そのうえで ”どのような改善策を処方したのか” をわかりやすくご紹介してきました。一般的には、技術・戦術・フィジカル的な要素がチーム強化につながる ”重要なファクター” だと認識されていますが、このコラムは ”チームワーク” という新しい視点でアプローチしてきたことが特徴です。

5月8日(土)プレーオフトーナメント準々決勝のトヨタ自動車ヴェルブリッツ戦、ノーサイドのホイッスルが鳴った瞬間、私は放心状態、脱力状態に陥り、虚無感に襲われました。目に映るすべての景色がモノトーンに感じ、しばらく空を眺めました。そして頭の中で色々なことを思いめぐらせました。ところが30分ほどで気持ちが切り替わり、この原稿に取りかかりました。

ホワイトカンファレンスで6勝1敗の2位という好成績を残したトヨタ自動車を相手に、前半は1度もリードを許すことなくハーフタイムを迎えました。後半立ち上がりにトライを許し、この試合で初めてビハインドとなるも、その2分後にはヴィンピー・ファンデルヴァルト選手のトライとマーティ・バンクス選手のキックであっという間に逆転に成功。

終始リードを保つものの、粘るトヨタ自動車を大きく突き放すことができないギリギリの展開が続きました。そして残り時間10分を切り、レッドハリケーンズがわずかに1点リードの状況から逆転トライを許し、この試合2度目のビハインド。最後の最後まで猛攻を仕掛けましたがわずかに及ばず、33-29でノーサイド。今シーズンのレッドハリケーンズの挑戦は終わりました。

試合後に何人かの選手・スタッフとやりとりしましたが、「敗戦を受け止め切れない雰囲気がある。クボタスピアーズが神戸製鋼コベルコスティーラーズに勝って歴史を作ったのを目の当たりにし、余計に悔しい(佐藤大朗選手)」、「いい試合をした満足感ではなく、勝てたかもしれない試合を落とした悔しさが強い(山本隼年ヘッドS&Cコーチ)」など、悔しさを滲ませている人がほとんどでした。「プレーオフの興奮をまた味わいたい(杉下暢選手)」というように、歴史を塗り替えていく緊張感にハマった選手も出てきています。

選手、スタッフ、フロント、サポーター、その他関係者の皆様、コロナ禍で迎えた今シーズン、本当にお疲れ様でした。開幕は延期され、レギュレーションも大きな変更を余儀なくされましたが、2月の開幕以降、レッドハリケーンズは毎週のように私に感動を届けてくれました。仕事のリターンとして、こんなに刺激的な週末を過ごせた私は本当に幸せ者だと思います。

今シーズン最後となる今回のコラムでは、大改革を敢行した2020-21シーズンが終わった今、チームが何を成し遂げたのか、今後ますます発展していくために何を意識したらよいのか、この2点をまとめていきたいと思います。

## 企業チームの使命とは

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

レッドハリケーンズは企業チームであり、NTTドコモにとってのシンボリックスポーツチームです。当コラムVol.1では、「なぜ、ラグビーをしているのか」という根源的な問いから、企業チーム(シンボリックスポーツチーム)として活動する意義について触れました。おさらいの意味で、Vol.1より一部を要約・抜粋します。

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皆さんは、シンボリックスポーツチームの役割について、どのように捉えていますか。

私の考えるシンボリックスポーツチームとは、「社員の一体感(帰属意識)の高揚と会社のイメージアップ、社会貢献等を求められたスポーツチーム」であり、レッドハリケーンズはラグビーを通じてその役割を果たすことが求められています。

そして、すべてのチーム関係者の目指すべき方向性を合わせるためにも、重要となるのが「チーム理念」や「スローガン」です。企業にとっても、企業理念(ミッション)やビジョンが重要なのと同じです。

それに沿って考えると、レッドハリケーンズは、選手・チームスタッフ全員が、

チーム理念

  「ラグビーを通じて夢と感動を創り、社会に貢献できる人間となる」

チームスローガン

  「PLAY TO INSPIRE」

を意識し続けること が必要なのです。

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上述のとおり、企業チームの第一義として、「社員の一体感(帰属意識)の高揚」が挙げられます。今シーズンのレッドハリケーンズは、果たして企業チームとしての役割をまっとうできたのか。まずはこのことについて書いていきたいと思います。

## NTTドコモ社内に起こった小さな変化

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

最近私は、サッカーを通じてNTTドコモの社員の方と知り合いました。初めはNTTドコモにお勤めしているとは知りませんでしたが、何度か話をしていくうちにお互いの仕事を知るようになり、私がレッドハリケーンズに関わっていること、彼がNTTドコモ社員であることを知り、その偶然に驚きました。そんな偶然の出会いがなければ知り得なかった嬉しい話があったので、ここでご紹介したいと思います。

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『レッドハリケーンズの存在はもちろん知っていましたが、あまり強くはないのでこれまでは特に興味を持つことはありませんでした。周囲の社員も同じような状況だったと思います。しかし、今シーズンは8年ぶりに開幕2連勝をしたと聞き、「そういえば、素晴らしいヘッドコーチとスター選手が来たらしい」ということを思い出しました。

その後も、チーム史上初の開幕3連勝を飾るなど、目覚ましい躍進は伝わってきました。私自身もスポーツをやってきたので、だんだんとチームの成長に興味が湧いてきました。そんなタイミングで福富さんと出会いました。Yahoo!の記事(当コラム)を読み、ますます興味が湧いたので今シーズンの試合結果を調べてみると、大接戦の末に勝利を重ねてきたことがわかりました。また、敗れた試合のスコアをみると、最後まで諦めずに相手を苦しめたことがわかりました。これはヘッドコーチやスター選手の存在だけで成し遂げられることではなく、チーム全体の意識改革の成果だろうと気づきました。

そこで私たちの部署は、Yahoo!記事(当コラムVol.2)の内容を参考に、職場のチームビルディングにチャレンジしようと動き出しました。レッドハリケーンズのように「行動指針」を作って運用を始めるなど、多くの刺激をもらって少しずつ成長しようとしているところです』

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こんなコメントをいただきました。これを聞いたあと、私は思わず下沖GMにもこの話をし、「本当にすごいことですね。嬉しいですね」と一緒になって喜び合いました。チームの取り組みによって、NTTドコモ社員の方々がINSPIREされたわけですから、これほど幸せなことはありません。

このコメントから、「今シーズンのレッドハリケーンズは、少なからずNTTドコモ社員の一体感や帰属意識の高揚に役立ち、なおかつINSPIREすることができた」と言うことができるのではないかと思いました。もちろん、これで満足しているわけではありませんが、社員の皆様に関心を持っていただけたこと、さらには職場のチームづくりに役立ててみようと思っていただけたことは、過去にない大きな成果と言って良いと思います。SNSでは、「大人の組織でも変わることができると証明してくれた」という趣旨のコメントを見かけ、多くの方を勇気づけることができたと感じています。

## ”勝利” というインパクト

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

先ほどのNTTドコモ社員の友人のコメントから、もう1つ重要なことに気づかされます。

「なぜ、今までレッドハリケーンズに興味を持てなかった彼が、今シーズンは興味を持ってくれたのか」

それは、8年ぶりの開幕2連勝、チーム史上初の開幕3連勝、という大きなトピックスがあったからにほかなりません。「勝利」というもののインパクトを改めて実感させられたできごとでした。興味のなかった方々に興味を持ってもらう上で、最もインパクトがあるのはやはり「勝利」だということです。

当コラムVol.8でも触れましたが、私は今シーズン、「勝て」「勝たなければならない」という表現を1度も使わずにチームに接してきました。それが私の個人的なこだわりでした。「勝敗は自分たちにはコントロールできない部分。だからこそ、コントロールできることに全力を注ごう」「応援してくださる方々に ”素敵な体験” を届けよう」と訴え続けてきました。しかし、最後の1秒まで諦めずに戦い、応援してくださる方々に ”素敵な体験” を届けることができたとしても、負けていては人々のアンテナには引っかからず、影響の輪が拡大することはありません。関心の薄い方々を惹きつける最も有効な手段は、やはり「勝利」なのです。

私たちレッドハリケーンズがより多くの方々をINSPIREしていくためには、やはり「勝利」が必要なのです。もしも今シーズンのリーグ戦で、パナソニックワイルドナイツや神戸製鋼に勝利していたとしたら…。もっともっと多くの方にレッドハリケーンズの取り組みを知っていただけたかもしれません。「正しいプロセス」と「勝利」がセットになっていくことで、レッドハリケーンズの影響の輪は、ますます拡大していくことになります。

チームの取り組みに自信を持っているからこそ、その素晴らしさを「勝利」で証明したいという思いをもっている選手がたくさんいることと思います。「勝利」によってますます影響の輪を広げていくこと、それこそが来シーズンの目指す姿だと思っています。

## 経験の差

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

今シーズン最初のミーティングで私が選手たちに伝えた「企業チームの存在意義」という点については、NTTドコモ社内に小さな変化が起こったことからもわかるとおり、一定の責任は果たせたと言ってよいかと思います。

と同時に、私たちは「勝利」というモノの価値を学びました。「勝利」することによって、より多くの方々にプロセスを知ってもらえるのです。来シーズンは、自分たちではコントロールできない「勝利」というモノにこだわるためにも、日々の練習で今シーズン以上に妥協を許さない1年にしていきたいと思います。勝利の確率を1%でも高める余地がある限り妥協なく取り組む、その積み重ねが「必勝の信念」に変わっていくことでしょう。

今シーズンのリーグ戦では、強豪相手に「経験の差で敗れた」という選手のコメントがありました。スポーツではよく耳にする「経験」という言葉ですが、具体的にどういうことを指すのでしょうか。この使い勝手のいい抽象的な概念をきちんと言語化することで、選手たちのモヤモヤも少しはすっきりするかもしれません。

私がスポーツ現場にいて感じるのは、絶対に負けられない「大一番」で「大接戦の末になんとか勝利をもぎ取った数」と「大接戦を演じつつも奈落の底へ突き落とされた数」、そしてそこから得られたモノの蓄積が「経験」と呼ばれているのではないかと思っています。

「勝利」を手にするためには、単に全力を尽くすだけでは足りません。そして、緻密に練られた戦略・戦術だけでも十分ではありません。公式戦でしか味わえない感覚、大接戦でしか得られないモノがあるのです。苦しい試合では、大局的な視点をもって試合を運ぶことが大切です。そのためには過去にそのようなシーンを「経験」していることが有利に働きます。経験があると、勝負どころを見抜くことができるようになります。バランスを取るところ、落ち着かせるところ、ミスしてはいけないところ、最大限の注意が必要なところ、割り切って耐えるところ、リスクを負うところなど、流れの中でメリハリをもてるようになるのです。

そういう意味では、神戸製鋼やトヨタ自動車はやはり試合巧者だったのでしょう。「相手に試合の主導権を渡したとしても、勝利だけは渡さない」、そんな戦い方を熟知していたのかもしれません。

例えば、サッカー男子日本代表は1998年から6大会連続でワールドカップ出場を果たしていますが、私が幼いころは「ワールドカップは夢舞台」とか「ワールドカップは観るものだ」などと言われていました。そして「日本がワールドカップに出場するうえで足りないものは “経験” だ」と言われていました。

1992年のJリーグ開幕という追い風を受けてメキメキと実力を高めた日本代表は、ついに1994年アメリカワールドカップ出場に王手をかけます。アジア最終予選の最終節(イラク戦)、2-1でリードを保ちアディショナルタイムに突入、このまま終われば悲願の本大会初出場が決まるところでしたが、最後の最後で同点ゴールを許し、アジア予選敗退という結末を迎えました。これが、俗にいう「ドーハの悲劇」です。ピッチに倒れこむ選手たちの光景は今でも脳裏に焼き付いています。

その後も、日本代表は長い歴史の中で様々な大接戦を繰り広げました。1998年フランスワールドカップ出場3か国を決めるアジア最終予選で、第3代表の座をかけたイランとの対戦は、延長戦にもつれ込む激闘の末にゴールデンゴールで勝利し、悲願の初出場をつかみました(1997年、ジョホールバルの歓喜)。また、記憶に新しい2018年ロシアワールドカップで史上初のベスト8進出をかけた強豪ベルギー戦、残り1分で逆転されて夢が潰えた「ロストフの悲劇」など、肉体的にも精神的にも限界に達する極限状態での接戦で得たモノが、日本代表の経験値になっています。

様々なギリギリの大接戦を通して、日本は6大会連続でワールドカップ出場を果たせるまでになりました。アジア予選では徹底的に研究・対策される立場ですが、長い年月をかけて「思い通りの試合展開にならなくても勝利できる」ようになったのでしょう。これからは、さらに一段高いところでギリギリの接戦を積んでもらい、ワールドカップベスト8常連になってくれることを期待しています。

## 来シーズンの展望

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

さて、話をラグビーに戻します。今シーズンのレッドハリケーンズは気の抜けない大接戦が続き、とにかく必死に全力で戦い続けたと思います。そして、例年以上に注目度が増して、緊張の連続だったと思います。今年は公式戦9試合を戦いましたが、そのほとんどが大接戦。こんなにもギリギリの試合展開を繰り広げたチームは他にないと思います。言い換えれば、「今シーズン最も経験を積んだチーム」と自負してよいと思います。紙一重の経験をしなければ得られないモノを得た、それが今シーズンの最大の収穫です。

そんな1シーズンを戦い抜き、私たちは間違いなく経験値を高め、共通理解を積み上げました。来シーズンはこれらを生かし、試合の流れを読み、ゲームコントロールできる試合巧者として、勝つか負けるか紙一重の試合をモノにしてくれると確信しています。特に、今シーズンのレッドハリケーンズには国際経験が豊富な選手たちがいました。彼らから多くのことを学べたことで、間違いなく経験値は高まったと思います。

もう「惜しかった」「負けたけど、本当にいい試合だった」では、サポーターの皆さんは満足できなくなっていることでしょう。サポーターの皆さんの期待を高めることができたことこそが、今シーズンの成長の証です。

2021年5月8日、トヨタ自動車ヴェルブリッツ戦から数日が経過し、だんだんと私の気持ちも整理されてきました。ここで今シーズンのレッドハリケーンズに関する連載に区切りをつけ、静かにペンを置きたいと思います。

コロナ禍で大変な中、無事にシーズンを終えることができました。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。たくさんの感動を届けてくれた選手の皆さんには、酷使した身体をしっかりと休め、来シーズンに向けて英気を養ってもらいたいと思います。

チームアドバイザーとしての私の仕事は、決して個人で完結できるものではありませんでした。下沖正博GMやヨハン・アッカーマンHC、選手、スタッフの皆さんとベクトルが一致していたからこそ成し得たことです。招聘してくださったことに感謝しかありません。3か月間、刺激的な週末をありがとうございました。