アイラヴミー×Moe Shop、“心の痛み”に寄り添った奇跡のリミックス作品を紐解く
●国内ダンスミュージックの歴史を紡いだアレンジが痛快
本音を吐き出す“切実な心の叫び”がインパクトを解き放つ、“心の痛み”に寄り添った宝物のようなポップ・ミュージックの存在。2020年7月8日、アイラヴミーが誇る名曲「セーブミー」をMoe Shopがリミックスしたことは事件だ。まったく新しく生まれ変わった「セーブミー- Moe Shop Remix」の誕生となった。
センシティブな心情を浮き彫りにする言葉のチカラ。自分を守る=セーブミー。今こそ大事な考え方であり、不安定な時代の羅針盤となる心の守り方だ。
リミックスを担当したのは日本在住、フランス出身のプロデューサー/DJとして活躍する若き新鋭Moe Shop。TikTokなどで大人気のねお「プチアガール (feat. Moe Shop)」のサウンドプロデュースを担当した新しい才能だ。「セーブミー- Moe Shop Remix」では、ガラパゴスでカオティックな東京文化圏に影響を受け、様々なジャンルが織り交ぜられた国内ダンスミュージックの歴史を紡いだアレンジが痛快だ。
原曲「セーブミー」を生み出したアイラヴミーとは、作詞作曲を手がけるシンガーさとうみほの、物静かに見えながらも実は心に熱い炎を滾らせるギタリスト野中大司、様々なカルチャーに興味を広げるアグレッシヴなベーシスト井嶋素充が結成した3人組だ。琴線揺さぶる言葉とメロディー。海外と同時進行形な突き抜けたポップセンスを持ち、“心の痛み”に寄り添う歌詞のチカラに定評がある。2019年メジャーデビューにもかかわらず、この春、NHK『みんなのうた』に書き下ろしたエバーグリーンなナンバー「答えを出すのだ」によって知られる次世代アーティストだ。耳にしたことがある人も多いことだろう。
●コラボレーション作品を“「好き」で繋がる。”と表現
コロナ以前、ブレイク前の新人バンドは対バン・ライブを重ね、フェスへの出演を目標に成長した。それがこれまでのバンドの成功への方程式だった。しかし、2020年コロナ禍以降、観客を入れた対バン・ライブやフェスが実施しづらいなか、アイラヴミーは異なるベクトルで自分たちの作品がオーディエンスへ届く方法を試みた。
その方法論とは?
アイラヴミーが常連としてリストインするSpotify公式プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』にて、同じプレイリストに入っていたアーティストにリミックスをオファーしたのだ。生まれや環境、年齢、ジャンルは関係なく、そこに共通するのはひとつのプレイリストで繋がる緩やかな縁だった。
ひとつのプレイリストに同タイミングで選曲されることは、その背景にリスナーが多数いることを考えればライブやフェスのように“コミュニティー”を共有していると言えるかもしれない。アイラヴミーはこの初夏(5月〜7月)、ライブは行わずリリースを“リミックス3曲連続配信”としてシリーズ化した。なお、アイラヴミーのヴォーカリストさとうみほのは、この特異なコラボレーション作品を“「好き」で繋がる。”と表現している。
●コラボレーションが広げてくれる可能性の光を強く感じた作品
リミックス第一弾となったのは、ヒップホップ・カルチャー生まれ、トラックメーカーとしても活躍するKUVIZMをリミキサーに迎えた、学生生活の名残を淡いサウンドで浮き彫りにする「答えを出すのだ- KUVIZM remix」(2020年5月27日)。
第二弾は、ストリーミングサービスをきっかけに世界へ名を広げた表現者Kotaro Saitoをリミキサーに迎えた、8ビットセンスを織り交ぜ、アッパーに疾走感溢れる「でも生きている-Kotaro Saito remix」(2020年6月17日)。
そして、第三弾が冒頭で紹介したMoe Shopによる「セーブミー- Moe Shop Remix」(2020年7月8日)だ。
クラブ文化が正常に機能することがままならず、エクステンデッドな長尺アレンジを目的とした12インチ(アナログレコード)が主流でないいま、ただ、躍らせるだけが目的ではなくなったリミックス=再構築行為。ストリーミング時代、リミックスという言葉にも“リスニング”という目的が生まれ、多様性が起きている。オリジナル楽曲を尊重し、新曲として楽しめるような新たなアプローチを感じるリプロダクション作品として、新しい血を受け入れ、コラボレーションが広げてくれる可能性を感じる作品となった。
音楽ストリーミング時代、リミキサー側もアーティストと同じく並列に名前がお互いのディスコグラフィーに並ぶ。結果、アイラヴミーは、KUVIZM 、Kotaro Saito、Moe Shopという方向性の異なるそれぞれのアーティストとともに、ある種、同じ方向へ足並みをそろえ作品の再構築、コラボレーションをやり遂げた。新たなフィールドの扉が開かれ、世界が広がったのだ。
●自らの心情、世の中との接点、揺らぐアイデンティティーが向かう行方とは?
こうして新しい出会い、成長を続けるアイラヴミーはオリンピックが延期となった2020年カオスの夏へ向けて、オリジナル楽曲の“3ヶ月連続配信リリース”へと歩みを進める。その先には9月30日、2枚目となるミニアルバム『そのまんま勇者』のリリースが待っている。自らの心情、世の中との接点、揺らぐアイデンティティーが向かう行方とは? アイラヴミーの冒険はまだまだ止まらない。
先日、リリース日が発表されたオリジナル楽曲による“3ヶ月連続配信リリース”第1弾「ナイフ」の歌詞をメンバーの許可を得たので掲載したい。誰もが不安を感じる昨今。やり場のない気持ちを、心の叫びを表現した渾身の作品「ナイフ」。本作は、7月22日に先行配信リリースされる。
ポップミュージックは時代を映し出す鏡。アイラヴミーは、心情を映しだす割れてしまった鏡をまるでナイフのように握りしめ歌い奏でる。自分を守るために。自分の心を守るために。それは、いまの時代において、羅針盤のごとく最も大事な考え方のひとつだ。明けない夜を切り裂き、自分たちの足で来るべき夜明けを歩んでいくのだなと。新しい時代を奏でるサウンドの完成だ。
アイラヴミー オフィシャルサイト