そのうちやる音、私の特技は生きること ~新たなポップスター誕生秘話~

そのうちやる音 photo by 美澄

とあるポップスターの卵の話をしよう。北海道・釧路市出身の女性シンガー、そのうちやる音(読み方:そのうちやるね)。ライブハウスもない街で育ち、退屈な青春を過ごした自分を変えたくて、上京。音楽活動スタート時は、事務所やレーベルのこともよく知らないまま勢いに任せて自主制作でCDを作り、タワーレコードに売り込んでミニアルバム2枚を渋谷店と新宿店限定で発売したというツワモノ。

曲を聴いていると、あいみょん的というか、自分を描ききったシンガー・ソングライター、もしくはロックバンド・スタイルのように感じるが、詞曲の制作は、初期水曜日のカンパネラに近いスタイルであり、作詞作曲とシンガーは別な人。それこそ詞曲は、ロックバンドOverTheDogsのメンバー、恒吉豊(← すごい人)が担当していることに注目。とはいえ、どう考えても、そのうちやる音自身の世界観が赤裸々に繰り広げられているからおもしろい。そう、そのうちやる音がプロデューサー兼アーティストであるプロジェクトなのだ。

そのサウンドは、メロディアスなピアノを軸とした、言葉遊びに富んだメッセージ性ある楽曲が胸に残る。ライブでは、ザ・ブルーハーツっぽいパンキッシュな側面もあり、オーディエンスみんなで右腕を突き上げ盛り上げ熱唱する場面も。伸びやかな歌声でじっくりと歌い上げるバラードの魅力にも注目すべきだ。優れた楽曲パワーと、その世界観を具現化する、セルフプロデュース力を感じるそのうちやる音の人間力に気持ちを鷲掴みされたのだ。”こんな突き抜けた歌を聴きたかった”。そう思うリスナーはきっと多いはず。

印象的なアーティストネームである“そのうちやる音”という名前は、数年前に東進ハイスクールのテレビCMで観た林修先生の「いつやるか? 今でしょ」に対して、切迫感を煽る感じではなく“「そのうちやるね……」みたいなテンションでいたいと思った”からなのだそう。2019年の今、時代の空気感を見事に表現してくれた全10曲の珠玉のナンバーたち。一緒に歌いたくなる超絶キャッチーなフレーズに込められた魔法めいた音楽のパワー。2019年9月4日にリリースした、そのうちやる音 1stフルアルバム『色々、ありすぎる』に注目すべき。そこで、本人に話を聞いてみた。

<そのうちやる音 初インタビュー>

――初のフルアルバムが完成してみてどんな気持ちですか?

 嬉しいです。タイトルを『色々、ありすぎる』にした理由は色々ありまして。それこそ、はじめてライブした時に歌った曲から新曲まで全部詰め込みました。あと、髪の毛がすごい伸びたこともそうだし、歌い方も曲ごとにアプローチを変えたりして、色々あったんですよ。全国流通でCD出すのもはじめてで。

――あ、じゃあ地元北海道釧路でも買えると。

 それが、お母さんがCDショップに予約しにいったら「誰?」って言われたと(笑)。でも翌日、お母さんが友達を連れて2枚予約してくれました。そうしたらイオンモール釧路からツイッターでフォローされました(笑)。お店に、出身アーティストっていうコーナーがあるので置いてくれたら嬉しいです。

――印象的なアーティスト名の理由は?

 活動をはじめたのが2016年だったんです。当時、東進ハイスクールのテレビCMで林修先生の「いつやるか? 今でしょ」が流行っていて。わたしにはどうしてもそれが荷が重くて「そのうちやるね……」みたいなテンションでいたいと思ったんです。高校受験は“今”頑張ったほうがいいと思うんですけど、わたしはハタチ過ぎているしハタチ過ぎてから持っている夢は、いつか叶えられるように持ち続けていたいなって。それでこの名前にしました。

――前作『もはや、謎すぎる』、前々作『逆に、しろすぎる』というミニアルバムもキャッチーで素晴らしかったんですけど、初の1stフルアルバム『色々、ありすぎる』がとても良くって。

 自分の中では自信作ですね。満足度高いです。まさか制作に1年かかるとは思ってませんでした(苦笑)。そのうちやる音として、一歩進むためのスタートになる1枚ですね。

――ご自分の肩書きってどんな風に考えていますか? シンガー・ソングライターというわけでもないですもんね?

 そのうちやる音は、そのうちやる音ですね(苦笑)。メンヘラ寄りではあるんですけど、メンヘラをもう通り越している感じ。諦めているわけではないんですけど、世の中をポジティブに生きていけるようなメンタルには持っていっていて。古傷も気にしてないし。

――出身は北海道で釧路? どんな街でした?

 ほぼ霧がかかっていて先が見えません(苦笑)。当時はライブハウスがなくって。今はできたんですけどキャパ800名なんですよ。わたしじゃ埋められる自信がない……。海のまちで漁港が栄えていて倉庫がたくさんあるんですよ。そこをライブハウスにしたみたいで。

――音楽をやりはじめたきっかけは?

 高校ぐらいの頃からバンドを組んで歌ってみたかったんです。ライブは当時Bump Of ChickenやSHAKALABBITS、RADWIMPSを観たり。札幌へは汽車に乗るんです。7,8時間かかるんですよ。こっちでは電車を汽車と呼んでいました(苦笑)。片道1万円なので、なかなか行けないんです。バンドは組めなかったんですけど、脳内お花畑だったので詞は書いてました。厨二病的に引きこもりがちで暗い詞しか書けなくって。あまり披露することもなかったです。あ、引きこもるって言っても、すごい計算して出席日数大丈夫なぐらいというズルイ感じで(笑)。田舎にいると、アニメ観たりCD聴いたり本読むぐらいしかやることなくって。そんな退屈な時、当時観ていたアニメのエンドロールにたくさん名前が載っていることに気が付いて。ここに名前が載れば、わたしが生きていた証になるのかなって。そんな時に、歌いたいって思いました。

――じゃあ、全国流通でCDをリリースすることはとても大きなことだ。しかも、SPACE SHOWER MUSICからのリリースですもんね。

 先日、ファミリーマートでも曲がかかったんですけど、釧路にはファミリーマートが無かったんです(苦笑)。他のコンビニはあるんですけどね。

――作詞作曲を、OverTheDogsのメンバー恒吉豊さんが手がけられていますが、完全にそのうちやる音さんの世界観に寄り添う感じがすごいなと。

 曲作りについては色々話し合いました。キーワードを汲み取っていただき歌詞で表現してくれました。

――そこがリアリティーとなるんですね。自分をさらけ出しているところに繋がりますよね。

 男女や世代問わず、幅広い人たちに聴いてほしいです。“そのうちやる音”って、誰の心にもいるんじゃないかなって。たぶん。

――1曲目「やる音さん、就寝刑です」という曲が好きで。イントロから没入感ある掴み、疾走感あるビート展開がツボです。

 ライブをはじめた初日からある曲で。でも、前作や前々作のミニアルバムには入れなかったんですよ。自分の名前が入っている曲なので、“ここぞ”の時にリリースしたかったんです。今回が“ここぞ”ということで、ようやく出せました。

――2曲目「血痕願望」はMVをアルバムに合わせて撮られたという。これも結構前からあった曲?

 最初のライブの時からありました。でもなかなか歌いこなせなくて封印してました(苦笑)。今年に入って、ようやく歌えるようになって。共感できるメッセージもあるし、「結婚願望なんてなくっていいかな」って2回問いながら、最後「結婚願望なんてなくっていいよね」って他人に求めている弱さが出ているところが好きです。

――6曲目「興味がなくなったんだ」は、ライブでも軸になるぐらい名曲で。

 “好き”という言葉の反対は“興味がなくなった”だと思っていて。“嫌い”ではないんですね。一番悲しい状態というか。そんな人は“ゴミ収集車に運ばれてしまえ”って思いながら歌ってます(苦笑)。これも初期にあった曲ですね。1曲目にライブでやることも多くって。

――7曲目「呼吸」は、1年前に先行配信した曲であり、今回アルバム・ヴァージョンでバンド感が高まりましたね。

 わたしって特技がなくて。それで思ったのが“私の特技は生きること。”なんだなって。「呼吸」という曲のテーマでもあって。生きること=呼吸というわけで。

――8曲目「ちょうらくしょう」のポップ感が好きで。やる音さんの曲って歌詞とは裏腹な感情とか二面性ある心情もリアルで魅力ですよね。

 “ちょうらくしょう”って言ってるんですけど、本人はそんなこと本当は思っていないんです。でも、強がっている自分をどう表現しようと思ったらこの歌い方になって。家に帰ったらいつも反省会をするんですよ、わたし。そのときの心情に近い曲ですね。

――10曲目「それのみ」は歌いはじめからナチュラルであり、やる音さんらしさ溢れる曲で。

 イントロは環七沿いで録りました。わたしのコンセプトを歌った曲ですね。最後に“それのみ”という言葉で終わるところがポイントで。

――ある種、これで3部作の完結って感じがしました。見事にいい曲ばかりで。ここまでやりきるってとても大変だったんじゃないですか? クオリティー・コントロールもしっかりしているし。モチベーションはどうやって維持してきました?

 まさにそうですね。恒吉さん曲でできた3部作なんですよ。モチベーションは、制作チームに美味しいご飯に連れていってもらうことかな(笑)。あと、「やる音さん、就寝刑です」という曲を世に出したかったんです。名刺代わりとなるアルバムになったと思います。曲だけじゃなくて、アートワークもこだわりました。この時代にCDを世に出せてとても嬉しいなって。お母さんが釧路で予約できたのも嬉しくって。ちょっとは親孝行できたかな? それこそ“売れたら遠くなった”とかファンの方がよくいうじゃないですか? でも売れないとあなたの近くまでなかなかライブへ行けないんですよ。北海道や九州とかもっと行きたいですし。もちろん他の地域もね。なので売れたいですねぇ。

そのうちやる音 photo by 美澄
そのうちやる音 photo by 美澄

<そのうちやる音 オフィシャルサイト>

https://sonouchiyarune.com