小室哲哉、ギネス認定「Get Wild」30年にわたるヒットの秘密とは

ギネスに認定されたTM NETWORK(写真提供:エイベックス)

●引退発表後に3冠

小室哲哉が引退発表後、ビートたけしの粋なコメントに心を打たれた『東京スポーツエンタテインメント大賞 功労賞』に続き、『ギネス世界記録 R』と『CDショップ大賞 リビジデット賞』に選ばれたことがニュースとなった。

小室哲哉といえば、マスメディアでは1993年にデビューしたtrf以降の、安室奈美恵、H Jungle with t、globe、華原朋美などTKファミリーが注目されがちだ。しかし、実は80年代~90年代初頭にも多くのアイドルへ人気楽曲を提供していたことにも注目したい。

松田聖子、中森明菜、小泉今日子、中山美穂、岡田有希子、堀ちえみ、宮沢りえ、観月ありさ、裕木奈江、内田有紀、田中美奈子、CoCo、東京パフォーマンスドールなど、ここには書ききれないほどそうそうたるメンツだ。

しかし、小室によるエレクトロ・ポップ・サウンドのプロトタイプとなったmiss ORANGE SHOCKの「愛しのリナ」や、当時のアイドル楽曲は、現在配信されていない曲があるなど入手困難な作品が多い。

中森明菜「愛撫」、松田聖子「Kimono Beat」、宮沢りえ「My Kick Heart」など、当時はB面扱いであったり、アルバム収録曲だったが、2018年の今もなお再評価されている楽曲が多いのだ。

なぜ、楽曲提供に女性アイドルが多かったかといえば、自身もメンバーであるTM NETWORKが男性ヴォーカル・ユニットであったことが理由だ。当初は、TM NETWORKの知名度を上げるために作家活動していたという側面もあったという。

●歴代作詞作曲部門、両方ランクイン

その戦略は見事に功を奏し、後のTKファミリーへの成功とつながり、オリコン調べ(※2014年現在)『歴代作詞作曲別総売上ランキング』において、作曲家部門2位、作詞家部門4位という記録となった。

『歴代作曲家別シングル総売上ランキングTOP5』

1位:筒美京平

2位:小室哲哉

3位:織田哲郎

4位:桑田佳祐

5位:松本孝弘

『歴代作詞家別シングル総売上ランキングTOP5』

1位:秋元康

2位:阿久悠

3位:松本隆

4位:小室哲哉

5位:稲葉浩志

出典:オリコン調べ(※2014年現在)

唯一、小室哲哉だけが作詞家、作曲家としてともにTOP4内にランクインしている。さらに、小室は自らプロデュースや編曲している作品も多いことを忘れてはならない。

●「Get Wild」、ヒットの秘密

今回、ギネス世界記録 R に認定された、TM NETWORKとして30年前の1987年にリリースした「Get Wild」という代表曲はいかにしてヒットしたのだろうか。2014年に取材した際の、本人コメントとともに紐解いてみた。

ギネス世界記録 R(写真提供:エイベックス)
ギネス世界記録 R(写真提供:エイベックス)

ギネス世界記録 R 正式認定記録文

“The most versions/remixes of one track on a top 100 CD album is 36, achieved by Tetsuya Komuro (Japan) with all versions/remixes of the song Get Wild appearing on the album Get Wild Song Mafia, released on 5 April 2017 in Japan.”

オリジナル「Get Wild」(1987年4月8日発売)から、30年という年月をかけて“完成”した『GET WILD SONG MAFIA』。世界を見渡しても類を見ないこの企画性はまさにTM NETWORKそして「GET WILD」だからこそ成しえた記録と言える。認定数値:36曲 認定日:2017年4月5日

1987年リリース当時、毎週のように数百万部を売り上げ、飛ぶ鳥落す勢いだった漫画雑誌『週刊少年ジャンプ』。ハードボイルドでありながらもコメディ・タッチが人気だった『シティーハンター』のアニメ作品における、エンディング曲に抜擢されたのが「Get Wild」だった。

ドラマティックな物語とクロスフェードするかのように、静かに奏でられる光のようなイントロダクション。爆発音に続いて、バンドブーム全盛期において珍しかった“スネア”無しで4つ打ちのキックが牽引するビートの新しさ。そこに、シンセで手弾きされたアタック感の強いDX-7でのシンセ・ベースの調べ。空間を支配するエフェクティブなギターサウンドの広がり。あらためて、音の構成や、一音一音の意図に着目して聴いてほしい素晴らしさ。いわゆるヒット曲の方程式とは異なる特異な、カウンターとも言える楽曲なのだ。

これまでの邦楽サウンドとはベクトルの異なる、“ダンスミュージックの方法論”が取り入れられた圧倒的疾走感に満ち溢れた「Get Wild」。シングルとともにTM NETWORK初のベストアルバム『Gift for Fanks』にも収録され、スタートしたばかりのオリコンCDチャートで史上初の1位を記録したことでも知られている。そして、小室はTM NETWORKにおいて「Get Wild」をツアーごとにまったく新しいアレンジを施し、時代に合うビート、サウンドをアップデートすることで数々のヴァージョンを更新し続けた。

1989年にはユーロビートを世界的に流行させたPWLのエンジニア、ピート・ハモンドがリプロダクションした「GET WILD'89」。1990年には、完全なるバンド・サウンドでハードロック化した「Get Wild (“RHYTHM RED TMN TOUR” Version)[1991/2/22 仙台イズミティ21]」など、FANKS(※TMファンの意)に衝撃を与え続けた。当時、ティーンエイジャーのファンが多かったTM NETWORK(TMN)は、誤解を恐れずに言えば小室による“日本人リスナーへの洋楽英才教育”の場だったのだ。ゆえに、小室哲哉は初期スタッフやコアファンからは“先生”と言われていた。

2005年には小室自身がプロデュースした玉置成実による「Get Wild」のカバー。最新では、石野卓球(電気グルーヴ)による「Get Wild "Full Acid Remix”」や、宇都宮隆がバンド・スタイルでセルフカバーした「GET WILD PANDEMIC」など、2018年の今も、ヴァージョンは増え続けている。

「基本的にTMは大ブレイクというのはないんですよ。『Get Wild』だって、オリコン9位でしたから。でも、このあたりからみんな何となく存在をわかってきてくれたんです。ただ、『Get Wild』は2014年にいたるまで、いろんなヴァージョンを合わせると、累積でミリオンいってると思うんですよ。

あとカバーも多くて、ちょっとしたセミプロの人まで含めると100組は軽く超えているはず。ちゃんと登録されているものでも50何組以上かな。フランス、スウェーデンなどにもいるのですが、K-POPでも超新星もカバーしてくれましたね。中国や台湾でも、とにかくカバーが多い曲です。

『シティーハンター』はフランスですごく有名みたいですよね。本編はフランス語に吹き替えられているそうですが、エンディングの『Get Wild』はそのままなので、去年サマソニで来日していたフランスのDJが、カラオケで『Get Wild』を日本語で歌ってくれていたらしいんですよ。そんな意味でも『Get Wild』は、現在進行形ですよね。

クラブとかフェスでもキラーチューンになり得るというか、不思議な曲ですね。自分でもわからない力を持った曲で、見えない力というのがある。引っ張られて行くというか一人歩きしているというかね。」

出典:『小室哲哉ぴあ TM編』 / 2014年発行より引用
『GET WILD SONG MAFIA』(写真提供:エイベックス)
『GET WILD SONG MAFIA』(写真提供:エイベックス)

●音楽とは、時代の匂いを記録するアート

小室哲哉は「Get Wild」がヒットした1987年当時、人気音楽番組で要塞のようにシンセサイザーを積み上げ、当時では画期的だったコンピューターによる自動演奏でのプレゼンテーションをお茶の間で披露した。今で言うところのYouTubeなど動画文化へとつながる“音楽の可視化”というアプローチだ。

常にシンセサイザーやコンピューターで生み出す音楽アートを牽引してきた小室哲哉。ゆえに、作品は時代とともに進化し続けることが当たり前という発想だったのだろう。結果、楽曲は見事に増殖し、同一アルバムに同一曲をヴァージョン違いで36曲収録するという前代未聞のアルバム作品『GET WILD SONG MAFIA』(2017年4月8日発売)が、“トップ100にチャートインしたCDアルバムに収録された同じ曲のバージョン/リミックスの最多数”という記録で『ギネス世界記録 R』に認定された。

「Get Wild」は、アニメ・タイアップでのヒットであり、カラオケで歌いたくなるメロディーを持ち、リズムやアレンジに海外サウンドを取り入れるなど“J-POP文化の元祖”だと定義されている。「Get Wild」進化の歴史は、そのまま音楽家 小室哲哉やシンセサイザー進化の歴史でもある。そもそもアートの世界では、これまでの手法と異なる価値観を提示することで付加価値が高まり評価へとつながる。その定義で言えば、小室哲哉がいかに音楽シーンにおいて、革命的なアーティストであるかを証明できるはずだ。

●J-POPの革命家、小室哲哉が生み出す作品のアート性とは? 

近年、小室哲哉が力を入れて取り組んでいたメディア・アート方面での活躍にも触れたい。

慶應義塾大学教授の脇田玲とコラボレーションしたオーディオ・ビジュアル・インスタレーション・プロジェクトをご存知だろうか? 2017年、お台場で行われた世界最先端のデジタルアート&エレクトロニック・ミュージックの祭典『MUTEK』でのライブ出演が話題となった作品だ。二人がリスペクトする“冨田勲さんをオマージュする作品をつくりたい”という共通したテーマのもと、2016年にはオーストリアで開催されたメディア・アートの祭典『Ars Electronica Festival 2016(アルス・エレクトロニカ・フェスティバル)』への出演でも大きな評価を得たメディア・アートである。

●小室哲哉×浅倉大介によるユニット=PANDORA

今年、アルバム『Blueprint』をリリースした小室哲哉と浅倉大介によるユニットPANDORAの存在にもあらためて注目したい。

PANDORAは、人気テレビ番組『仮面ライダービルド』主題歌、Beverlyをフィーチャリングに迎えた「Be The One」のヒットもあり、歌モノのイメージがあるかもしれないが、ユニットの本質はシンセサイザーをオーケストラのような音像でプログレッシヴ・ロックをデジタル化したようなサウンドを生み出すモンスター・ユニットだ。引退発表直後の2018年1月26日、六本木Billboard Live TOKYOで観た、破壊力にあふれた表現が今も忘れられない。

小室哲哉は今から20年前、1998年『フランスワールドカップ』の際に、フランスの音楽家 ジャン・ミッシェル・ジャールとともにユニットTHE VIZITORSとして、エッフェル塔前の特設ステージで100万人を超える観衆の前でエレクトリックなサウンドをプレイしている。願わくば、小室哲哉が覚悟を持って結成したユニットPANDORAにて、野外スタジアムのような天井のない環境で、最先端技術を駆使した演出で世界へ向けてライブしている姿を体感したい。

PANDORAのアルバム『Blueprint』には、17分の作品として「Aerodynamics」が収録されている。進化し続けた小室哲哉の本気度があらわれたデジタル・オーケストラな組曲だ。ヒットチューン「Be The One」の影に隠れてはいるが、昨年EDMフェス『ULTRA JAPAN』でプロトタイプが披露された「Shining Star」でのTK節を存分に感じられるキラキラなポップチューンも、未来を感じられる進化系エレクトロポップと呼べる名曲だ。引退発表をしたとはいえ、小室哲哉の功績を振り返りながらも、リアルタイムの作品もチェックしてみてほしいと思う。新たな発見があることだろう。

<INFOMATION>

TM NETWORKホームページ:http://avex.jp/tm/

TM NETWORK ツイッター:https://twitter.com/tmnetwork_2014

小室哲哉 ホームページ:http://avex.jp/tk/

TK STAFF ツイッター:https://twitter.com/TK_staff

※ギネス世界記録 R はギネスワールドレコーズリミテッドの登録商標です。