Yahoo!ニュース

芸術性×ポピュラリティー、ポップミュージックを次世代にアップデートするLILI LIMIT

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
LILI LIMIT(左から土器、志水、牧野、丸谷、黒瀬)

ロックバンドとしての佇まいを超えた、芸術性とポピュラリティーを合わせ持つ、ポップミュージックを次世代にアップデートする5人組バンド、LILI LIMIT(リリリミット)。

魔法めいたアレンジのチカラ、言葉によって彩られる映像が浮かぶ音楽の可能性。世界水準のシンセポップなサウンドを生み出す、右脳(感覚)をつかさどる牧野純平(Vo)、左脳(構築)を担当する土器大洋(G)、ストーリーテラーな2人の世界観を無限大に広げる黒瀬莉世(Ba)、志水美日(Key)、丸谷誠二(Ds)による20代の男女5人組音楽集団だ。

日本語を大切にした歌詞における物語性と、海外の第一線で活躍するポップミュージックともシンクロニシティを感じる先鋭的な音楽性。夏フェス『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016』、『SUMMER SONIC 2016』での好演はもちろん、スマッシュ・ヒットした注目作「Festa」や「Living Room」の浸透など、早耳な音楽ファンの間で話題となっていたLILI LIMITが、10月26日(水)にファースト・フル・アルバム『a.k.a』をリリースした。

――今年の夏は『SUMMER SONIC 2016』など、夏フェスでのライブが盛りあがりましたね。

土器:フェスごとにカラーがあって、それぞれ反響が違ったことが勉強になりました。

牧野:僕らはまだまだ小さいステージだったんですけど、でかいステージだと後ろがわからないぐらいオーディエンスがいるじゃないですか? 目標というか、そこまで届けたいと思った課題がみえた夏でした。

――LILI LIMITって、楽曲を丁寧に作られているからレコーディング重視なバンドと思いきや、実は骨太なライブ・バンドだったりしますよね? そもそも地元九州で活動していた頃は、シャウトありなエモーショナルなライブだったそうですね。

黒瀬:感情が爆発してました(笑)。牧野はメガホンもってステージから降りたりしてましたから。

牧野:フラストレーションがたまってたんですよ(苦笑)。当時は、気持ちばかりが先走っていて。

――そんななかLILI LIMITは、トラックを手掛けるメンバー土器さんとの出会いもあり、山口県から福岡、そして東京へ進出するなど、紆余曲折がありながらも進化を遂げて、ファースト・フル・アルバム『a.k.a』完成へといたりました。

牧野:客観的に聴いても、疲れることなくずっと聴いていられるアルバムになりました。フルで聴いて、もう一周聴きたくなるような作品にしたかったんです。歌詞の面でも、肉体的なところをちゃんと書けるようになったなと。インディーズ時代と比べると、そんな変化がありましたね。

――変化というと?

牧野:これまでは歌詞を書くためにいろんなネタを探す行為をしていたんですけど、自分の中から言葉を生み出せるようになってきたんです。僕の中では大きな違いとなりました。

――機材的なことや手法で新しく取り組まれたことはありましたか?

土器:フル・アルバムとなると、手慣れた手法だけでなく。これまでやったことないことへも挑戦できたのが良かったですね。面白い音作りができたと思います。たとえば、オーディオデータをサンプリングして再構築してみたり、ドラムや声を加工して、音素材として扱ったりもしています。

――インスト・チューンの「Space R」とかに顕著ですよね。

土器:これまでLogic(音楽制作ソフト)を使ってたんですけど、最近Live(音楽制作ソフト)に移行しはじめて。せっかくインストなんで、「Space R」は完全にソフト・オンリーで挑戦的に作った曲ですね。偶発的な面白さが生まれるんですよ。

志水:ファースト・フル・アルバム『a.k.a』は、これから先も恥ずかしくない、あ、今までも恥ずかしくはないんですけど(苦笑)、この先大人になってもかっこいいと思えるアルバムを作れたと思っています。今までが媚びていたわけじゃないですけど、やりたいことをしっかりやれた作品です。全曲好きで“こんなに強い曲が13曲も入っちゃって大丈夫だろうか?”ってくらい自信のあるアルバムとなりました。

黒瀬:静かに大きく存在感のあるアルバムになったなと思っています。楽曲的にもメンバーの好きな音楽性が1曲1曲それぞれにあらわれています。新しいサウンド面のアイデアだったり、きらびやかなエッセンスなど、全曲それぞれカラーが違うという。落ち着いているんですけど、存在感のあるアルバムになったなと。

丸谷:アルバム『a.k.a』は、全曲ライブが見える曲が集まっていると思います。早くワンマンツアーやりたいですね。すごいセットリストになると思いますよ。

――LILI LIMITの作品って、コンセプチュアルな魅力がありますよね? 意味ありげな感じというか、でも簡単には解けない部分が秘められている魔法めいたポップ性。ファースト・フル・アルバム『a.k.a』のコンセプトやイメージは?

牧野:前作EP『LIVING ROOM EP』が部屋をイメージしたコンセプチュアルな作品だったので、フル・アルバムでどうまとめようかめちゃくちゃ考えたんですよ。『a.k.a』というタイトルをつけた理由は、曲タイトルと歌詞についての結びつきを考えたら、歌詞が牧野純平 a.k.a LILI LIMITだとしたら、牧野純平が歌詞となり、a.k.a LILI LIMITの部分がタイトルとなるんじゃないかなって思ったんです。曲と歌詞とタイトルを結びつけるために『a.k.a』というタイトルにしました。

――前作EP『LIVING ROOM EP』とつながってるんじゃないかと思わせる曲もありますよね?

牧野:そうですね、いろいろ仕掛けながら考えてやっています。『LIVING ROOM EP』と同じような意識なんですけど、ポップさとしては一歩先を取りにいこうと意識して作っています。

――より“伝えたい”、“進化”もしたいという、ポップミュージックの存在意義としての本質のあらわれですね。

牧野:誰ってわけではないんですけど、昔からその時代ごとに先を目指して進んでいた人っているわけじゃないですか? そういう姿に憧れています。なおかつ、新しいだけじゃなくて、僕らは日本が大好きなので日本でまず認められたいという思いが強いですね。なので、歌詞も日本語にこだわっています。

――LILI LIMITが面白いのが、まっとうなポップス感がありながらもアバンギャルド性も持ち合わせているという。歌詞にもナンセンスな世界観が込められてますよね。でも、呑み込みやすくするためのアレンジでの魔法めいたチカラがあるという。ポップに対してのこだわりが強いチームですよね。

土器:そこはリズムへのこだわりかもしれません。たとえば、楽器を知らなくても、赤ちゃんだってリズムにのれるじゃないですか? なので、わかりずらいリズムは全然やっていなくて、土台はわかりやすくしているんです。

牧野:歌詞は、聴いていて引っかかる言葉を絶対に入れようと思っていました。楽曲がポップなので、ちょっと突っ込んだ歌詞でバランスをとろうとしているかもしれませんね。

――LILI LIMITらしさといえば、“ハっとした驚き”を与えてくれるアートワークへのこだわりにも注目しています。

牧野:作品コンセプトとアートワークのコンセプトをリンクさせたかったんです。そんな結びつきを作れるバンドって、なかなかいないなと思って。アートワークは、僕の兄といっしょにやっているので、説明無くても感覚を共有できるんですね。それこそ、何でも言いあえる関係性なので、仕事ではおさまらない関係だからこそできるアートワークになっているんじゃないかと。本来だったらメジャー・アーティストじゃやれないようなところまで踏み込みこんでいきたいんですよ。それがLILI LIMITらしさだと思っています。

【アルバム『a.k.a』全曲解説】

●1曲目:A Short Film

――ギターリフでひっぱっていく、アルバムを代表するポップチューン。作曲は、牧野さんと土器さんの共作という。

土器:僕はメロディーですね。アルバムの中では最後に作った曲です。

牧野:一番最新といいつつ、上京したての僕らのサウンドにも近いかもしれません。ある意味原点というか。あえて、かつてのコード進行を使ってみたり。歌詞もなんですけど、現在と過去がうまいこと交差しあっている曲になりました。

――ギターソロでの音使いもかっこいいですよね。

土器:あれは、ずっとリズムをループさせて、偶発的に生まれたリフから出来上がりました。完全に自分の気持ちよさだけでやりましたね。ギターに関しては、リスナーに向けたところが大きくて、自分の気持ちよさは後回しにするタイプだったんですけど、「A Short Film」に関しては自分の好みの音しか入れてないです。

黒瀬:リズムのかたまり感がすごい気持ちよいですよね。弾いていて、いつもよりどっしりリズムに身を浸したナンバーです。

丸谷:だいたい他の曲は、それぞれバラバラの符割で演奏しているんですけど、この曲はみんなでいっぺんに出している感じがあって、そこで生まれたグルーヴがいいんですよ。ドラムはローピッチというか、中心下にある系なんですけど、スピード感をそこなわないように意識しましたね。

志水:この曲はリズムとシンセフレーズが同じなので、みんなと一緒にのれました。リズムが覚えやすいからシンプルで良いなと思います。

●2曲目:Wink, Blink

――続いて、アルバムを引っ張っていくビートの効いたナンバーが登場。

牧野:歌詞は、昔、付き合っていた彼女によく言われていたたことを女性目線で書いてます。男性が共感してくれるかもしれませんね。

黒瀬:この曲はほぼ8ビートなんです。歪みもかかっていて疾走感があるなかで進んでいくんですけど、サビだけノリノリでキャッチーという、そんなメリハリが気持ちよいんですよね。

土器:まずメロディーと歌詞が良い感じにハマりました。最初リード曲の候補にもあがっていたんです。J-POPらしく飾ることもできたんですけど、どこで抑えるかというバランスを工夫しました。最後に転調するネタもあったんですけど、最終的にはきらびやかでせつなさを保ちたいっていう今の形になりました。はじめて生のストリングスをお願いしました。生音は簡単に抜き差しできないので、上モノの音の重なりに気を使いました。もともと想像していたノイジープラスきらびやか。そこはキープできたと思うので満足しています。

丸谷:ハイハットをすごく気に入っていて。打ち込みっぽいんですけど生で叩いてます。いつもは14インチのハイハットなんですけど、これは13インチでしかもけっこう薄め。デモがあがった段階でダブルストロークで打ち込みっぽいイメージだなと思って、ぴったりなサウンドになったかなと。

志水:ずっとオクターブで、ピアノが流れているんです。ひさしぶりにピアノをたくさん弾いた曲で気に入ってるナンバーですね。

●3曲目:Kitchen

――前作EP『LIVING ROOM EP』にも収録され、ライブでもキーとなっているキャッチーなポップチューンですね。

土器:「Wink, Blink」の歌詞があがった瞬間から、「Kitchen」とのつながりを感じて泣きそうになりました。曲順的にも、良い感じで2曲目〜3曲目と並ぶ流れになりました。

――絵が浮かんでくる曲ですよね。

牧野:きっかけが同じ人というか、僕の中ではつながっている曲ですね。

志水:『LIVING ROOM EP』の中で聴いたときとは違う感じに聴こえました。人気な曲になると思っていたので、アルバムの中だと目立っちゃうかなと心配していたんですけど、流れにぴったりおさまってよかったです。

黒瀬:最近ライブでもよくやってますね。「Wink, Blink」のあとにすることによって関連性というか、歌詞のつながりが生まれて、アルバムの中でかかせない曲になったと思います。

丸谷:自分で言うのもなんですけど超名曲ですよね。今回のアルバムは全曲自信を持ってオススメできるんですけど、「Kitchen」はまた特に良い曲だなと思いました。

●4曲目:Observe

――4つ打ち的な感じで、でも内省的な世界観。演奏的には爆発力があって、歌詞には前作『LIVING ROOM EP』に収録された楽曲タイトル「Unit Bath」ってフレーズも出てきたり、最後まで聴くとギミックが仕掛けられている感じとかエモいですね。

牧野:この曲は「Unit Bath」から派生している曲です。窮屈な日々を過ごしていることで誰かに八つ当たり的に嫉妬して……、そんなテーマで「Unit Bath」で書いた世界をもっと深く表現したいと思ったナンバーです。よりシニカルになりましたね。

――怖さもありますよね。

牧野:これまであんまりシニカルな表現をしてこなかったんですけど、求められている気もしたんですね。結果、すごく怖い歌詞になりました。僕もびっくりしています(苦笑)。

――記号みたいなフレーズの意味は?

牧野:最初の仮歌のときから当てていたフレーズなんです。ここに意味ある文字をはめたら、世界観崩れるなと思って。だったら記号的にすることでリスナー自身が考えられる余白になるかなと。

土器:サウンド重視で作った曲ですね。リズムのネタはもともとあって、Aメロは好きなことやってみようという感覚で作りはじめました。いろんなマイクでこだわって音を録りました。ちなみにスネアもいいんですけど、“カーン”っていうサンプルを重ねていて、パーカッシブな部分、クラップもバイノーラル・マイクで録っていって。最後の演出もバイノーラル・マイクなんです。オーディオコンポで鳴らして録音して。紙をビリビリやぶいてみたり。けっこう良いヘッドホンで聴いたらゾクっとするかもしれないですね(苦笑)。

志水:“LILI LIMITにはこんな面もあるんです”と言えるような楽曲ですね。実は昔からダークなところがあるんですよ。この曲の歌詞は女心的には傷つくんですけどね(苦笑)。すごく強い曲になっているので人気出て欲しいなぁ。

黒瀬:ベースは頭で“ダーダッダダッダッダ”ってフレーズがあるんですけど、あれが大変で。音の長さとか切り方とか、曲自体がダークなので、人が弾いていないかのような弾き方にしてみました。人間の隠れているダークな部分とリンクすることで雰囲気がより不気味になったかなと。すごく好きですね、この曲。

丸谷:僕、マッキー(牧野)がめちゃくちゃ毒を吐いている歌詞が大好きで。エグくないですか?グサってきますよね。

●5曲目:On The Knees

――アップテンポなビート感、ギターのカッティングの気持ちよさでライブが楽しみな曲。歌詞のギミック的なところに、牧野さんが描く奥深い感情が入っているんだなと。

牧野:“男って情けねぇな”って歌を作りたかったんです。男性ってダサさを隠そうとするんですけど、隠そうとすること自体がダサかったりするじゃないですか?そんな理由で浮気されてしまう男性を書いた曲ですね。“あなたが悪いんですよ!”っていう。そういう歌です。

――頭からの数字で表現された歌詞は、居場所の座標軸?

牧野:そう、これは場所を示していて。六本木あたりから品川あたりのホテルまでのルートをあらわしています。

――この立体的な表現は、サウンドとともに緊張感や切迫感が伝わってくるようで新鮮ですね。

土器:ギターカッティングは19歳くらいの頃からあったリフで。当時、別のオリジナル曲もあったんですけどお蔵入りしてたんです。このフレーズは、いつか使おうとずっと取っていて。昔のLILI LIMITだったらやらなかったんですけど、今なら敢えてやれるなって。リズムもなるべくわかりやすく、ざっくりキャッチーっていうのを目指していて。音のかたまり感はミックスの時点でひずみ感に気をつけながら構築して行きました。気持ちよく勢いを出せたかを重視してテイクも選んでいきましたね。

志水:この曲は、聴く人によってはLILI LIMITってこんな曲もあるんだって新鮮に感じてくれると思うんですね。どんな風に受け止められるのかが楽しみです。面白い曲になったと思います。

黒瀬:細かいことは置いておいて、ざっくりとした勢いで弾きました。不協和音なフレーズを入れているんですけど、“浮気の歌なんだろうな”と思いながらレコーディング中に歌詞カードをチェックしたときにまさにで、ぴったりだったなと思いました。

丸谷:久しぶりにテンポ早い曲だったので、ひいひい言いながら録音しました(苦笑)。しかもスネアがめっちゃローピッチで、たぶん人生で一番ローピッチなんですよ。筋肉ドラムが聴けます(笑)。

●6曲目:Suite Room

――ロックなビートからのイントロ、そこからシンセポップな世界観へ広がっていく世界観。歌詞では生活感を感じられる言葉使いでストーリーテリングされていきますね。

牧野:自分の父親のことを考えて書きました。思い返せば、父親から仕事の愚痴を聞いたことがないんです。でも、大変なことだっていろいろあったと思うんです。僕を育ててくれた父親に向かって歌いたいなと思って。大人になって一緒にお酒を呑んだときに感動してくれたんだろうなとか。そんな思いを歌にしてます。

土器:ギターを弾きながら口ずさんで作りました。そんな作り方をしたのが久しぶりすぎて途中でアレンジの方向性を見失って、ミックスが終わる最後の最後までねばって納得いく形をギリギリまで探した悩みの1曲でした。歌と歌詞が相当良かったので、下手なことをすべきではないし、でも、3ピースで出来ちゃうような音にはしたくなかったんです。本当はコードと歌とドラムだけでも成立するんですけどね。なので、バランスにすごく迷いました。

志水:歌詞がめちゃくちゃ良くて聴いていると泣いちゃいます。サウンド面はすごく迷って。音を入れすぎると超J-POPになってしまうので、バランスにこだわりましたね。

黒瀬:音が優しくて好きな曲ですね。それでこの歌詞なのでよけい染みてきちゃって。いろんな捉え方もできると思うんです。最初、父のことを歌った曲だとはわからなくて。家族愛だとは思っていたんですけど、暖かい曲になったなと。聴いているといつも泣きそうになります。

丸谷:最初聴いたときからアレンジがガラっと変わったなと。最初はアナログ感、バンドサウンドというイメージだったんです。でも、上モノがのってきたバージョンに進化して“なるほど”ってなりました。

●7曲目:Neighborhood

――ラジオスターというワードがキャッチーな、突き抜け感があるポップソング。

牧野:“ラジオスター”の曲を書こうと思ったんですけど、普通じゃあれだなと思って、ストーカーの歌になりました(苦笑)。“僕の心に眠る闇?”そういうのを書きたいなって(笑)。

丸谷:まぁ、みんな持ってるよね(苦笑)。

――ラブソングって突き詰めるとそこにいきつきますからね。

牧野:それを表に出すか出さないかですよね。僕はようやく出せたという感じです。

――表現の仕方がLILI LIMITらしさがあるのでドロドロしているワケではないんですよね。“炭酸ジュースのような声”というフレーズがキャッチーだと思いました。ぱっと浮かぶものなんですか?

牧野:そのフレーズはとあるラジオ番組で仲がいい人がいて、その人の声をきいてたら“炭酸ジュースのような声”に聴こえて、これだなって。

土器:はじまってからサビまでの流れを、スムーズに気持ちよいものにしたかったんです。Bメロに入る直前は、なかなか素晴らしい展開になったと思います。

志水:ライブで一番楽しみな曲です。自分が演奏する面でも、頭の変な音をサンプラーで出したり、コーラス・ネタもあったり、シンセのバッキングもあって楽しくやれそうだし、ライブ映えしそうですね。

黒瀬:すごく軽ろやかな曲なんですよね。外を歩くときに最近この曲が流れる率が高いです。歩きながら聴くとリズムが気持ちいいんです。あとコーラスいっぱいあるし、ライブが楽しそう。

丸谷:120くらいのこのテンポ感の曲がLILI LIMITは多いんですよ。たしかに聴きながら歩くと気持ちい速度ですよね。曲に足が引っ張られるビート感。サビのポップさ、ライブでは歌いながら叩きたいナンバーですね。

●8曲目:Space L

――アルバムの中でのターニングポイントとなるポップソングですよね。

牧野:教育書で『サウンドエデュケーション』(R.マリー・シェーファー著)という本があって、その本からインスピレーションを受けてつくった曲です。めちゃくちゃ面白くて、音について考えさせられる本なんです。たとえば紙くずを壁に投げた音をよく聴くと、まず手から紙がはなれる音、ぶつかる音、落ちる音があるよねって。音についての感受性や想像力を広げてくれるんです。そこからインスピレーションを受けて、ミシンをテーマに作りました。アルバムだからこそ入れられた曲ですね。

土器:牧野が作ったデモに忠実に作りました。あまり何かを足しすぎる必要はないと思って、自分はギターに徹してます。ひずみの具合にかなりこだわりました。カジュアルさを目指しましたね。

志水:これは生ピアノですね。途中で玉が転がる音などかわいい音が入っています。シンプルに聴けると思います。かなりお気に入りな曲ですね。

黒瀬:ギターのメインフレーズがあると思うんですけど、それと平行してベースもハイポジションで鳴っていて。最初にフレーズを考えたときに、仮タイトルが「ミシン」だったので、けっこうなめらかにフレーズを弾いてくれって言われて、最初はなめらかに弾くイメージだったんですけど、だんだんとなめらかな部分を減らした感じになって、さらにミシンっぽくなって歌詞ともリンクしていきました。

丸谷:一番好きな曲です。デモの段階からめっちゃ好きでした。すべてが完璧じゃないかと思うくらい名曲ですね。歌詞もメロディーも無駄がないし、あったかい雰囲気がいいんです。

●9曲目:Living Room

――加速していく感じがたまらないですよね。アルバムで聴くとハっと目を覚まさせられるというか。キャッチーであり力強い、LILI LIMITの今感が強くあらわているナンバー。改めてアルバムに収録してみていかがですか?

牧野:曲順としても流れ的にめちゃくちゃ良いですよね。この展開だけで飯が何杯も食えるくらい最高な。このアルバムで通してこの曲を聴けば、名曲と認めざるをえないくらい説得力が強いナンバーだと思いますね。

志水:EPのときは LILI LIMITっぽくないって意見もあったんですけど、アルバムの流れで聴いたらわかってくれるんじゃないかって思います。

黒瀬:前作の主役だった「Living Room」が、アルバムで折り返し地点な位置に入ることによって、安心して支えてくれる存在になったなと思いました。頼りになる曲なんですよね。

丸谷:イントロの入りが卑怯ですよね(笑)。曲順をみんなで考えていたときに、「Living Room」の位置はもっと難航するかなと思ったら、わりとすんなり決まって。やっぱ卑怯な良い曲なんですよ(笑)。

●10曲目:A Few Incisive Mornings

――やわらかなメロディー展開。歌詞がズバっと入ってくる楽曲でした。

牧野:めちゃくちゃ昔のことを思い出して書いた曲です。福岡に住んでいたときの家のことを思い出して。でも、今は他の誰かの幸せに変わってるんだろうなと思ったら悲しくなってきて、複雑な気持ちになったんです。引越しとか経験している人はよくあると思うんですけど、それぞれの物語がその家にはあるから。そのあと、自分以外の人に塗り替えられるのって悲しいなって思って。独りよがりですけどね(苦笑)。でも、そんな心境を書きたいなというところから歌詞が出てきました。言葉数も少なくしたくて、個人的には歌詞とメロディーのハマり具合がすごく好きですね。

――キャッチコピーのように強い言葉が並んでいる曲ですよね。

土器:この曲もアルバムだからこそ入れられたと思っていて。歌詞的には、僕の中ではある意味ここでアルバムが終わってもいいんですよね。アルバムの物語はここで区切られますね。そんなポジションの曲になったなと。サウンド的にも良い意味で流れていくような、通過していってほしいというか。ドラムも点を打つ感じではなく、ミックスの段階でもかなり弱くしてくれと頼んで。こういう曲を入れられたのは、フル・アルバムを作って良かったなと思うことのひとつですね。

志水:もともとクラシック・ピアノやっていたので、気持ちよく原点に戻って弾けたナンバーですね。

黒瀬:すごく純度の高い曲ですよね、透明で綺麗だなと。弾きながら気持ちよかったですし、歌詞も言葉数が少なくて伸びやかで、アルバムだからこそ映える曲ですね。

丸谷:美しい曲だなと。デモでオケだけのときからこの雰囲気は出ていて、それにメロディーがのってより人間味が増したというか。オケだけのときは情景が浮かぶ感じの曲だったんですけど、完成したことで物語が生まれましたね。リズムもけっこう流れを感じられるグルーヴになったんじゃないかなと思っています。

●11曲目:Space R

――サンプリングな実験的な作り方。コーラスが魅力でありユニークですよね。

土器:アルバム全曲がそろった後につくった曲なんです。アルバムの音を使っての再構築。“ワンエンツーエン”というのも「Space L」のトラックから、Live(音楽制作ソフト)で切り貼りして、偶発的に生まれた音から形作って行きました。家で音楽を作っている感じをそのままパッケージングしたかったんです。

●12曲目:Naked

――これもライブ感あるナンバー。アルバム・タイトルである「a.k.a」というワードも出てきつつ、意味深な数字も気になります。後半の“いつの日か僕らの子供が〜”以降の展開に感動でもっていかれました。

牧野:最初「マジカント」って仮タイトルだったんです。ファミコンのゲームソフト『MOTHER』でクィーンマリーが統治していた幻想の世界のことですね。

土器:夢の中みたいなステージがあって影響を受けたんです。サウンドを僕が作って牧野に渡して。

牧野:『MOTHER』のことをいろいろ調べてたら、差別の感じを物語として受けたんです。そこからのインスピレーションで、いじめとかそんなテーマで書きたいなと思ったんです。数字は、ある人の何かをした日と誕生日ですね。

土器:アルバムの中でもかなり真心を混めて作りました。最初リード曲にしたい気持ちでいました。このテンポ感でタムで押していくフレーズをやってみたいなって。なおかつドリーミーでつかみ所のない感じを入れたくって。一発で理解されたくないような、そんな魔法っぽいこだわりがたくさんつまった曲です。

志水:最初、聴いたときは土器さんっぽくないサウンドだなって思ったんですよ。でも、歌詞が入ると、すごくかわいい曲なんだけど少し不安になるような怖さもあって。狙い通りになっているんじゃないかと思います。

黒瀬:良い意味で音色的に奇天烈というか。キャッチーでそれこそ『MOTHER』の世界を描いていて、夢見がちというか、そんな音がたくさん入ってます。聴きすすめることでいろんな発見があると思いますよ。

丸谷:最初の歌入りからマッキー(牧野)の声でひきこまれますね。そこからタム連打という、展開もユニークな紛れもないライブ曲です。

●13曲目:Self Portrait

――すごく好きな曲ですね。後半へ向けての突き抜け方であったり、エンディング感。コーラスの美しさが絶妙で、自己肯定感を感じたナンバーです。

牧野:昔作った曲なんです。なので過去と今、自分が青春時代に思い描いていたことと現在ってどれくらいギャップあるんだろう?ってことを比べながら、AメロBメロを作って、サビで文房具的なフレーズを並べて、“俺どんな感じだったかな?”って思ったら、“30cm定規でおさまらない思い”はあるなと。勢いのままに書いた曲ですね。

――物語感、童謡感、今の自分が見てどうなるのかというところで、映画的でもあり、でも裏側からの視点が牧野さん独特なセンスが注入されていますよね。

土器:歌詞の関係性に気づいたときは感動しました。言葉がすごく広げてくれた曲ですね。ストリングス入れて、トランペットも吹いてもらって。いろんな楽器が自由に音楽をやっているような、それでいて混沌としたものにしたかったんです。

牧野:デモの状態からトランペットが入っていたんですよ。学校の校舎でずっと聴いてきたブラスとかに聴こえてきて、昔の思い出に繋がったというか。

土器:この曲は聴く人が見える景色がみな近いものになるんじゃないかと思います。脳内で共有ができるんじゃないかなって。

志水:アレンジの力もあって、今までのLILI LIMITのサウンドとは違う形になりましたね。壮大だけどちゃんとかわいくおさまって、アルバム最後の曲にぴったりなんじゃないかと思います。

黒瀬:突き駆け抜けている曲だなと思って。曲の終わり方もフェードアウトなので、そういう意味でも歌詞の内容と一緒で、アルバムのラスト1ページにふさわしい曲になりました。

丸谷:いろんな工夫が詰め込まれていて、アルバムを代表する1曲になったと思います。

土器:メジャーでのレコーディングということで、本物のストリングスを入れることができたので、インディーズ時代に完成させなくて良かったなと思いました(苦笑)。自信作ですね。

LILI LIMIT 1st Full Album 『a.k.a』
LILI LIMIT 1st Full Album 『a.k.a』

LILI LIMITオフィシャル・サイト

http://lililimit.com/

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

ふくりゅうの最近の記事