Yahoo!ニュース

オーバーブッキングにより乗客を強制排除した事件について-弁護士が解説

福永活也福永法律事務所 代表弁護士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

アメリカで4月9日夜、シカゴ発ルイビル行にユナイテッド航空3411便において、おアーバーブッキングを理由に、搭乗済みのアジア系男性客が航空治安当局の係官に無理やり引きずりおろされるという事件が起き、全世界で話題となっているようです。

米ユナイテッド航空、乗客を引きずりおろし

このようなユナイテッド航空及び航空治安当局の対応について解説してみます。

そもそも飛行機内ではどこの国の法律が適用されるか?

今回の事件はアメリカの国内便でしたので、アメリカの法律が適用されるということで問題ないかと思いますが、仮に国際線の場合にはどの国の法律が適用されるのか検討が必要になります。

この点について、日本の刑法を前提とした場合には、基本的には日本国内における罪には日本の刑法が適用されますが、日本国外であっても、日本航空機内や日本船舶内で起きた罪にも日本の刑法が適用されることとなっています(刑法第1条)。

ちなみに、日本で出国手続きをした後も、手続き的に出国手続きをしてはいますが、日本国内であることに変わりはなく、日本の刑法が適用されます。

他方、私法関係については、通常は、乗客と航空会社との間の約款で、特定の国の法律が適用されることが定められています。

オーバーブッキング時の航空会社の対応について

本件でのユナイテッド航空による、オーバーブッキング時の対応については、アメリカ法での検討が必要となりますので十分な解説ができませんが、基本的な考え方としては、オーバーブッキング自体は世界的に条約、法律、規約、商慣習などで許容されており、オーバーブッキング自体が直ちに一般的な債務不履行として扱われるわけではなく、一定の上限の中での賠償や振替措置等が定められているケースが多いようです。

ユナイテッド航空の運送約款「Rule 25 Denied Boarding Compensation」を見ますと、オーバーブッキング時の対応としては、まずは代替便への搭乗に応じてくれるボランティアを探し、それで十分なボランティアがいなかった場合には、強制的に搭乗拒否がなされると規定されており、その場合の選定のための優劣については、ハンディキャップのある人や一定の18歳以下の人を優先し、次に運賃クラス、旅程、航空会社の会員ステータス、予め席指定をせずにチェックインをした時間等を考慮して決せられると定められています(逆に言えば、補償狙いでオーバーブッキングされたい場合にはチェックインをギリギリにすると良い)。

さらに、このような選定により搭乗拒否となった人のための補償等の規定が続きますが、さすがに一度搭乗している状態でも強制的に降ろすことができるというような具体的な排除についての規定はありません。

日本の航空会社の場合は、例えば、ANAやJALでは国内線でも国際線でも、運送約款上はオーバーブッキングについての具体的な定めはなく、強制的な搭乗拒否が発生することは想定されていないようです。

ただ、フレックストラベラー制度というボランティアを募る制度があるようです。

今回のニュースのような事件について

今回のユナイテッド航空での事件について、アメリカ法については十分に詳しくないのでわかりませんが、日本で同様のことがあるとすれば、乗客が業務妨害等の具体的な犯罪行為をしたと認定され、警察から逮捕をされた上で強制的に排除されることはあるかもしれません(その場合でも暴力は許されない)。ただ、本件のニュースを見る限りでは逮捕が認められるような状況とは思えず、航空会社や当局側の強制排除行為は違法行為に当たると思われます。

また、ANAやJALの場合であれば、そもそも強制的な搭乗拒否がされることがない以上、今回のような事件は起こり得ないものと思います。

本件では、たまたまなのか搭乗拒否された乗客はアジア人が中心だったことからも人種差別があったというような批判も出ているようですが、いずれにしても本来的に何の落ち度もない乗客に対する対応としては許されないものと言えるでしょう。

【参照:刑法】

(国内犯)

第一条  法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。

2  日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。

※本事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。

福永法律事務所 代表弁護士

著書【日本一稼ぐ弁護士の仕事術】Amazon書籍総合ランキング1位獲得。1980年生まれ。工業大学卒業後、バックパッカー等をしながら2年間をフリーターとして過ごした後、父の死をきっかけに勉強に目覚め、弁護士となる。現在自宅を持たず、ホテル暮らしで生活をしている。プライベートでは海外登山に挑戦しており、2018年5月には弁護士2人目となるエベレスト登頂も果たしている。MENSA会員

福永活也の最近の記事