先輩を超えるということ~後篇~

(C)株式会社サステイン

「誰でもかかってこい、受けて立ってやる。でも、その前にやらないといけない奴がいる。小谷直之、まずはお前からだ」

 昨年4月の修斗世界ライト級(-70.3Kg)王座決定戦で、キャリア初黒星を喫して以来、およそ1年ぶりとなった今年5月の復帰戦。川名雄生(26/Y&K MMA ACADEMY)は勝利後のマイクで思いをぶつけた。

 喧嘩腰に対戦を要求したのは、「思いつきや冗談で言っているのではない、本気なのだ」という気持ちを、先輩である小谷直之(35/ロデオスタイル)に伝えたかったからだ。

 高校3年生で格闘技ジムに入門したとき、近くのジムからインストラクターとして来ていた小谷は、すでにPRIDEやUFCの大舞台を踏む日本のトップファイター。雲の上という言葉が空々しいほど、はるか高みにいる存在だった。

 セミプロでの敗戦をきっかけに、「もっと強くなりたい、プロで飯を食っていきたい」と決意を固めた頃だったか。2人の選手と共に小谷とスパーリングをしていた川名は、小谷からこんなことを言われた。

「もうちょっと3人が成長したら、まとめて相手してやるよ」

 同じ土俵の片隅に乗せてもらえた気がして、嬉しさが込み上げた。軽い口ぶりだっただけに、小谷はすぐに忘れてしまうかもしれない。でも、自分は忘れない。5分間のスパーリングで2、3本は極められてしまうこともザラだったが、「いつか自分が闘える舞台に行ったとき、必ず挑戦しよう」と思った。

 修斗に主戦場を移し、アマチュアから階段をのぼり直して5年。世界王座を争うまでにキャリアを積んだ川名だが、「一番身近にいて一番強い選手を乗り越えなければ、次のステージには絶対に行けない」という気持ちが薄れたことはない。

 そのチャンスは、今年4月に訪れた。

小谷がプロ17年目にして初めて、修斗に参戦してきたのだ。盤石の強さを見せてランカーに勝利したことで、小谷はいきなり修斗世界ライト級3位となった。一方、世界王座は逃したものの、川名は世界同級1位をキープしていた。

「ランキング的にも自分が指名する権利はある。それに、直之さんはいつ引退するかわからない。やるなら今しかない」

https://www.youtube.com/watch?v=GrBG5Q9uwMs&feature=youtu.be

〈川名雄生 紹介映像(C)株式会社サステイン〉

 10月15日、千葉・舞浜アンフィシアターでの「プロフェッショナル修斗公式戦」。川名雄生vs小谷直之の一戦は、世界戦3試合、環太平洋戦1試合に先立ち、第7試合で行なわれた。ベルトの懸らないノンタイトル戦だったが、川名は退路を断つべく、すでに獲得していた環太平洋ライト級王座のベルトを「負けたら返上する」と公言していた。

 5分3ラウンドのライト級ワンマッチが始まる。

 5月、7月と豪快なパンチでKO勝利をあげ、この日を迎えた川名だったが、「相手の得意な組み技に付き合わない試合では、勝っても小谷直之を超えたことにはならない」と、むしろ自分からテイクダウンを狙っていった。

 得意のパターンを読み切られ、勝負をかけるタイミングを計りかねる小谷。小谷の蹴りあげで意識を飛ばしながらも、優位なポジションで必死に押さえ込み続ける川名。試合は15分の大半が、力と細かい技術、探り合いが拮抗する寝技の攻防に費やされた。

 試合が終わると、判定を聞くより早く小谷がしゃがみ込む川名に駆け寄り、声をかけた。

「強くなったよ。すげー強くなった。これが今の俺の実力だ」

 1人のジャッジはドローをつけ、2人のジャッジは1ポイント差で川名を支持した。レフェリーに手をあげられたとき、川名が思っていたのは、「ケージを下りるまではしっかりしていよう。泣いてはいけない」ということだけだった。

小谷からの言葉に「思わず涙が込み上げてきた」と川名(C)株式会社サステイン
小谷からの言葉に「思わず涙が込み上げてきた」と川名(C)株式会社サステイン

 試合のあと、今までの敗戦に比べて悔しがっていない自分に、小谷は気づいた。数日たった今も、込み上げる悔しさはあるが、歯噛みするまでには至らない。

 それは、相手がほかでもない川名雄生だったからなのか。それとも、試合内容から来るものなのか。そうでなければ、これが年を取るということなのか。自分でもよくわからない。ただ、試合のなかで感じた後輩の心の強さを、今度は自分が教わりたいと素直に思っている。

先輩を超えるということ~前篇~

◆10.15プロフェッショナル修斗公式戦 舞浜大会 全試合結果