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生きた英語は外国人観光客から学ぶ!高校生ガイドとして活動する PIPS JAPANの魅力

藤村美里TVディレクター、ライター
明治神宮の手前でボードを持って立つ PIPS JAPANの高校生たち

JR原宿駅を出てすぐ、明治神宮の手前に架かる神宮橋。多くの外国人観光客が通るこの場所で、英語のボードを掲げる若者がいる。

彼らは、外国人観光客をガイドする学生団体PIPS JAPANの高校生たち。学んだ英語を使うため、ボランティアで明治神宮内の観光案内をしている。

「私たちからは声を掛けず、『無料で観光ガイドをします』と書いたボードを持って立っているだけ。今は夏休みシーズンということもあって、10分もしないうちに外国人観光客に声を掛けられます。『本当に無料なの?』って。『はい、無料です。私たち、英語を勉強したいので!』と答えて、そこから1時間くらい明治神宮を一緒に歩いて案内しています。」

そう話すのは、現在 PIPS JAPANの代表を務める冨田夏美さん。都立高校に通う高校3年生だ。

活動するのは、毎週日曜日の10時〜15時。今はバカンスで来ている欧米人も多いが、時期によっては中国やタイなどアジアからの観光客が半分以上を占めるという。

「外国人と一緒に行動することを心配する親御さんも多いので、安全性については気をつけています。明治神宮は参道をまっすぐ行きますし、観光案内をするルートが決められるのが良いですね。また、外国語の向上だけでなく、日本文化の深い理解、食事や会話の内容などゲストへの細かい心配りも大切です。参拝前に身を清めることや、参拝の仕方なども英語で説明しています。」

英語を話す場が欲しくて、外国人観光客に声をかけた

2014年1月、この団体を立ち上げたのは、4人の男子高校生だった。最初に声を掛けたのは、当時高校2年生だった吉田拓巳くん。

「学校で毎日のように英語を学んでいるのに、日本にいると英語を使う場所がなくて。もっと英語を話すために留学したいと母親に話したところ、『近所(上野や浅草)にいる外国人に話しかけて、観光案内でもして来たら?』と言われました。それもそうか…と友人たちを誘って浅草の外国人観光客に声を掛けたのが始まりです。最初の頃は、少し話すたびに英語のスキルがアップしていると実感できた。どんどん英語ができるようになる気がして、楽しかったですね。」

Facebookページを作り、学生団体として活動をスタートしたところ、一緒にやりたいという高校生達がたくさん集まってきた。現在の代表、冨田さんもそのひとり。英語を話す場所を探している学生は、たくさんいたのだ。

立ち上げメンバーの吉田拓巳くん、宮本麟太郎くんと現代表の冨田夏美さん。
立ち上げメンバーの吉田拓巳くん、宮本麟太郎くんと現代表の冨田夏美さん。

当時の活動場所は東京だけだったが、立ち上げメンバーの1人が関西の大学に進学したため、現在は大阪の心斎橋でも同じ活動を行っている。

最初は4人だった仲間も、今では30人に増えた。それでも、新しく一緒にやりたいという高校生が多すぎて、英語で自己紹介ビデオを送ってもらい、面接をしてから判断しているほどだという。最近では、京都や福岡でもやりたいという声が出始め、今後はもっと広がっていく予定だ。

教科書の英語ができなくてもいい 生きている英語を学びたい!

吉田くんが在籍していたのは、英語が話せる子が多い、都立学校の外国語コース。それでも、なんとなく学校では話しにくい雰囲気があったという。

「日本の英語教育って、話す事を目的にしていないと思います。外国人観光客をガイドすることによって、同じ出身国のネイティブでも使う英語は全然違うと、同じような内容でも様々な表現があるということを知りました。“生の英語”を学ぶことができるんですね。英語が話せるようになると本当に色々な人と話せるから、それがめっちゃ楽しくて。ガイドをするたびに『英語が話せるっていいな』と実感していました。中国人やタイ人など、非ネイティブの人から学ぶ部分も多いです。相手の文法間違いに気づいて、自分も気をつけようと。あと、下ネタは世界共通だなっていうのも感じましたね。(笑)」

インタビュー中、二人の口から何度も出てきたのは“生の英語”や“生きている英語”という言葉。冨田さんも吉田くんも、帰国子女ではない。ずっと日本の英語教育を受けてきている。もし日本の学校教育に“生きている英語”を使う機会が欠けているならば、自分たちが行動することで補ってしまおうというモチベーションはどこから来るのだろうか。

さらに、冨田さんは中学時代までは英語が大嫌いだったというから驚きだ。

「教科書の中の英語が出来なくても、諦める必要は無いんです。私も、最初は英語が苦手で大嫌いでした。でも、今では米国の大学を目指しているくらい。英語へのコンプレックスは克服できたと思っています。

小学生のときから、ネイティブが来る英語の授業はありましたが、あまり役に立ってはいないかな。ただ、中学入学後の英文法の授業は大切だと感じます。文法ばかりの授業を否定する人もいますが、文法が出来なかったら話せないですから。

外国語はあくまでもツールのひとつ。話す内容が重要です。私たちの団体では特に、自分の品格や知識を伝える英語を目指して、文法はちゃんとやろうという話をよくしています。本当は、学校の英語でも、細かいニュアンスとか、敢えてこういう単語を使っているという使い方のグラデーションを教えてもらえると嬉しいのですが…そこは外国人観光客から“生きた英語”を聞いて、学んでいます。」

観光客をガイドすると「日本に生まれて良かった!」と思う

日本に来る外国人観光客は、年間1000万人を超えた。観光地としての日本はとにかく人気。その流れは2020年にオリンピックを控えている東京だけではない。東南アジアの人たちは、北海道や石川、長野など、冬場に雪を見ることができる観光都市にも詳しく、口コミで足を運ぶ人も増えている。

「外国人観光客の中には『ガイドはいたら嬉しいけれど、言葉が分からないのも楽しみのひとつだから。』という人もいて驚きました。独特の文化も日本の魅力と考えたら、全てを英語にする必要は無いかもしれない。ただ、オリンピックを開催する時には楽しいでは済まないですよね。スターバックスと都バスしかWi-Fiが使えないという状況は、ヤバいと思います。(吉田くん)」

最近では、案内をした外国人観光客にアンケートも実施。

『東京の良いところは、綺麗な道路や利便性の高い交通機関。改善してほしいところは、ホテルの部屋の大きさやメニューや標識の英語表記が足りないところ』など、外国人たちの本音が詰まったアンケート結果は、東京都のオリンピック委員会にも共有しているという。

約30人の高校生で運営しているPIPS JAPANは、東京五輪を前に関係者やメディアからも注目を集めているのだ。

そして何より、日本にいながら外国人と触れ合うことで、大きな学びを得られる場となっているのだろう。多くの高校生が殺到している理由もそこにある。

「学校とは違う仲間や、そのままの自分を見せられる場所を得られた事も嬉しいです。そして、何よりも日本人でいることに誇りを持てるということが、私たちの活動の魅力ではないでしょうか。毎週、色々な文化を持つ人と触れ合うたびに、この国に生まれてよかったと思うし、日本人としての誇りを感じています。(冨田さん)」

PIPS JAPANのPIPSには、”種”という意味。タンポポの綿毛のように、この活動が広がっていくように…と名付けたという。

まさにその言葉通り、彼らの活動は日本各地に広がりを見せている。大きな可能性を持つ、彼らの活躍に期待したい。

TVディレクター、ライター

早稲田大学卒業後、テレビ局入社。報道情報番組やドキュメンタリー番組でディレクターを務める。2008年に第一子出産後、児童虐待・保育問題・周産期医療・不妊医療などを母親の視点で報道。2013年より海外在住。海外育児や国際バカロレア教育についても、東京と海外を行き来しながら取材を続ける。テレビ番組や東洋経済オンラインなどの媒体で取材・執筆するほか、日経DUALにて「働くママ1000人インタビュー」などを連載中。働く母たちが集まる場「Workingmama party」「Women’s Lounge」 主宰。Global Moms Network コアメンバー。

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