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メンズコスメは髪を切る時に手に入れる ヘアサロンでのついで買いが流行る2つの理由

藤村岳男性美容研究家・エッセイスト
(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

今、メンズコスメの買い方に変化が起きている。従来はプレステージラインを扱うのは百貨店、汎用で買いやすいものが揃うドラッグストア、そして中級者向けには東急ハンズやロフトといったバラエティショップ、と価格やニーズに合わせた3つの売り場がメインであった。近年はソーシャルメディアやECサイトの充実によるD2Cを第4の売り場とし、男性がコスメを手に入れるチャネルは広がってきている。そこに第5の売り場として新たに注目されているのが、理美容のヘアサロンだ。

そもそも男性のコスメの買い方とは?

実際、ヘアサロンでヘアケアアイテムではなく、スキンケアを購入している人が増えている。スキンケアやメイク製品は男性にとってもなじみがあるものとして捉えられるようになり、年代や可処分所得の差、地域性などによって嗜好の差はあるが、確実に生活に根付きつつある。

男性に多く見られるコスメの購買行動として、一度買ったものから浮気をせず、同分野で新しいものが出ても以前と同じアイテムを買い続けるというのがある。女性は新製品や新成分、新処方などに関して感度が高く、情報を常にアップデートしようとしている人が多いが、男性は目立ったトラブルがない限り現在のコスメを変えることはほぼなない

男性がコスメを変えない理由は2つあるとボクは考えている。まず、情報をアップデートしていないこと。多くの女性たちのように美容サイトや専門誌などから情報を入手したり、友人たちとコスメの情報を共有したりする状況をあまり聞かない。若い世代の男性はこれらの行動をしている人も見受けられるが、30代以降のミドルエイジになるとそんなにいない。もうひとつの理由は、たとえコスメを変えたいと思っても、なかなか決断できないこと。これが例えば、趣味の靴やAV機器、車など嗜好がハッキリとしているものであれば、判断基準が自分の中にある。しかし、コスメとなるとその基準が途端にわからなくなってしまうという男性がほとんどなのである。

コスメを買う男性が求めているものは?

百貨店ではカウンセリングがあり(※コロナ禍の現在ではカウンセリングやタッチアップは中止されている場合が多い)、選ぶのを手伝ってもらえる。しかしあのカウンターに赴くのは人によっては難しい。そこで、第5の販売チャネルとして注目されているのが「理美容室」だ。厚生労働省の衛生行政報によると、理美容サロン業界は全国に約37万軒を超え、それぞれの従業師数は75万人を超えている。国内では飲食産業に次ぐ一大産業なのである。

理美容室でメンズコスメを購入する利点は、買いやすいことと相談できることの2つにある。最初の買いやすいというのは、ヘアカットなど元々、身だしなみを整える目的でサロンに来店しているので、「コスメを買うぞ!」と大上段に構えずとも精神的なハードルが低い点にある。周りにいる人たちもほぼ同じような状況であるので、気負わずに買い物ができる。これは人からどう見られるのかを気にするタイプにはありがたいシチュエーションだろう。

ヘアカットにかかる所要時間は約1時間。その間に肌状態やトラブルの相談はしやすい
ヘアカットにかかる所要時間は約1時間。その間に肌状態やトラブルの相談はしやすい写真:アフロ

次に自分のことをよく知ってくれているスタイリストにヘアスタイルの延長で、肌の悩みなども相談できること。これは大きな利点だ。スキンケアに慣れていない男性の場合、自分の肌質を理解し、それに見合ったケアを見つけるというのはかなり難しい。それを普段の雑談を通して自分のことをある程度知っている美容のプロに相談できるのはありがたい。サロンの滞在時間は平均1時間くらい。百貨店のカウンターでこんなに長時間、留まることはあまりないはず。

人にもよるが約1ヶ月に1回の頻度で訪れるサロン。コスメの消費行動と同じで長年通い続ける男性が多い。そうなるとスタイリストとのコミュニケーションも成熟していて、顧客のことをよく理解してくれている。また、スタイリストは美容のプロでもあり、顧客の肌状態を分析するとともに過去からの変遷までも把握している場合も多い。そんな人が「選んでくれた」「勧めてくれた」コスメは、判断基準を明確に持たない男性たちにはとてもありがたいものとなるのだ。

今注目のサロンで買える専売コスメ

今、ボクが注目しているサロンで手に入るメンズコスメラインは3つ。その登場順に紹介すると、ますは2017年に資生堂プロフェッショナルから出た“ザ・グルーミング”。カーキ色のスタイリッシュなシリーズで整髪料からスキンケア、日焼け止めなどが揃う。次に2019年9月に発売となったデミ コスメティクスの“エレベート”。白と黒の潔い見た目が印象的で、スキャルプケアからメンズ用のBBクリームまでと幅広く展開している。そして2019年10月にタカラベルモント・ルベルブランドから発売されたのが“ジオ フレイマン”。スキンケアが充実しており、こちらは業界でトップシェアを獲得しているという。

資生堂プロフェッショナルのザ・グルーミング
資生堂プロフェッショナルのザ・グルーミング

デミ コスメティクスのエレベート
デミ コスメティクスのエレベート

タカラベルモント ルベル ジオ フレイマン
タカラベルモント ルベル ジオ フレイマン

また、サロン専売というわけではないが、若者から絶大な人気を誇るオーシャントーキョウが展開している“オーシャントリコ”のスタイリング剤や雑貨類も好調に売れていると聞く。そこにはやはり、スタイリスト個人やサロンへの厚い信頼があるからであろう。オシャレの発信地でもあるヘアサロンは今やコスメの発信地として機能している。

新作のオーシャントリコ ヘアワックス ジェット
新作のオーシャントリコ ヘアワックス ジェット

新型コロナウイルスの影響で不特定多数の物理的に密なコミュニケーションは未だ避けなければならないが、繋がりや関係性を深めるためのパーソナルなコミュニケーションはこれからますます重要とされてくるだろう。信頼は有象無象の口コミからは決して得られない安心感と言い換えてもいい。自分のことを知ってくれているその道のプロに聞くというのも新しい買い方となってくるだろう。

男性美容研究家・エッセイスト

編集者としてハーブやアロマテラピーについて学んだ後、生活情報誌に携わる。そんな中、ヒゲを剃るなど男性特有の行動をしない女性ライターが男性の美容記事を執筆することに違和感を覚え、独立。シェービングを中心に据えた独自の「男性美容理論」を打ち立て、パイオニアとして活動。以降、テレビ・ラジオなどのメディア出演のほか、講演・イベント出演をこなす。また、コンサルタントとしてコスメ開発やブランド監修も務める。国内外のスパを訪れ、男性が楽しめるスパ・エステについても造詣が深い。最近はジェンダレス化の流れに伴い、女性への美容のアドバイスや提言も行う。著書に『一流の男はなぜ爪を手入れするのか』(宝島社)など。

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