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やりたい仕事を見つける前に 自分はどこに向かって歩いているのか

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

6月8日、マイナビニュースに「中堅・中小企業への就活、依然売り手市場が継続 - 会社を選んだ理由は?」と題する記事が掲載された。東京商工会議所による「平成29年度 中堅・中小企業の新入社員の意識調査」についての記事である。

就職活動で苦労したことは、今年度も「自分のやりたいことがわからず悩んだ」が59.7%と、高い。また「会社について知りたい情報が入手しにくかった」が30.8%と、こちらも高い割合である。

筆者は幸せに働くためにはどうすればよいのかについて調べているが、学生のうちで、働くとはどういうことなのか、やりたい仕事を見つけるにはどうすればよいのかということを深く考える機会があまりないように思う。また、中堅・中小企業は、彼らの求める情報をうまく提供できておらず、そのため学生に、自らの仕事を見つける機会を与えられていないようである。ようするに、学生らが仕事を満足のいく形で選択することのできない状況が続いているということである。

はっきり言ってしまえば、最初に選択する企業、仕事が、自分のやりたい仕事であるかどうかは、やってみなければわからない。ある意味、博打である。しかし、自らの選択した仕事が、自らにとって何の意味があるのかを考えることができれば、その仕事にやりがいをもって取り組むことはできる。前にも書いたが、人が仕事によって意味づけられるのではなく、人が仕事を意味づけるのである。いま行っている仕事を、自分の人生というストーリーの一つのシーンであるとみなしたとき、その仕事はやりがいのある仕事となる。つまり、やりたいことがわからないのは、そして仕事にやる気がもてないのは、自分の人生をどのように進めていきたいのか、人生という脚本のテーマがないからである。

活き活きと働くとはどういうことか。そのような社員をつくるために、企業はいかなる姿勢をもつべきか。自分の人生に向き合い、ある企業で働くことを決めた若い女性をインタビューしてみた。

株式会社 郷土活性化

株式会社 郷土活性化は、主に飲食業を経営している会社である。三重県の四日市市諏訪商店街で、三店の飲食店を開いている。

株式会社 郷土活性化の社長、吉田金二朗氏は、自社のビジネスを「感動提供業」と定義する。提供する料理には、県南部の南伊勢町から仕入れた海産物や青果などを使用している。社名にもあるように、自社のビジネスが郷土活性化につながれば嬉しいと思って仕事をしているようである。郷土活性化という「目的」のために、「手段」として飲食店を開いている、ということである。

また、吉田社長はアルバイトの社員に、たんに働く機会、お金を稼ぐ機会ではなく、働くことで成長する機会を提供している。店を「希望する就職を叶えられる養成所」として機能させようと考えており、育成方針を明確にしている。核となるのは、「1日につき7回はお客様にありがとうと言われよう」という目標にあるようだ。なぜか。ありがとうと言われると、人は嬉しいからだ。そうすると自分の仕事に誇りが持てるし、もっと頑張ろうという気分になる。人を育てるという「目的」のために、「手段」として飲食店を開いているのである。

こういったことを楽しく考え、そして実践していこうというのが吉田社長だ。「楽しそうに働く大人がいないのが悪い。」自分が楽しく働くことで、アルバイトがやりがいをもって働くことができる。そうすると、美味いものを仕入れ、美味いものをつくり、もてなすことでお客様を喜ばせようという気持ちになるから、お客様もその店が好きになる。みんなが満足し、よって経営がうまくいく、という寸法である。

株式会社 郷土活性化で働いて三年目の南川桐子さんは、三重の出身である。大学は、北九州市立大学の地域創生学群に進んだ。まちづくりに関心があったためだ。しかし大学で学んでいくうちに、どうやら自らの関心は、まちづくりそのものではなく、「人」にあると感じるようになっていった。まちのなかで、活き活きとしている人。そのような人をつくる、人間のつながり。心と心がつながるための、出会い。南川さんはそのような絵を描こうとしている。

就職活動は、自らの思いを実現できるような会社に入りたいと考えて、始めた。大手の就職サイトでエントリーし、定型化されたプロセスで進む面接。そのような就活では、自分の思いはわかってもらえないかもしれない。そう感じた南川さんは、自分の手と足を使って情報を集め、自分の思いを貫くことができる仕事を探し始めるようになった。

かくして出会ったのが、吉田社長だった。南川さんは、社長が実現したいものに共感する。そして、この会社に入社すれば、自分は自分らしく、人生のストーリーを描いていくことができると思った。だから、入社した。

中小企業に人が集まらないと聞く。もしかしたら人が来ないのは、人に目を向けていないからかもしれない。人が組織に入るのは、何らかの誘因があるためである。その誘因は千差万別、人それぞれではあるが、人は誰でも自らの人生をよりよいものにしたいと考えていることは同じである。自社の仕事は、そこで働く人の人生にとっていかなる意味があるのかを明示すれば、自ずと人は集まるだろう。

南川さんの描くもの

南川さんがやりたいことは、たくさんある。しかしそれらを追っていっても、本当にやりたいことは見えない。やりたいことからは、人の達成したいものは見えてはこないのである。

「やること」の前に「なすこと」がある。「なすこと」を達成する手段として「やること」がある。「なすこと」がわかれば、その人は理解できる。南川さんは、人が互いに理解しあい、個々の役割を果たす世の中をつくりたいのだと言う。そうすることによって、一人ひとりが自身の存在意義を見出すことができるからである。

そのためにいま「やること」、やりたいことは、人のネットワークづくりだったり、小学校から大学までのロングスパンの人生設計支援だったりする。そしていうまでもなく、株式会社 郷土活性化での仕事だ。南川さんは同社で「楽読」の仕事に従事し、人が読書を通じて楽しく成長することで、まちを豊かにしたいと考えている。それらは南川さんにとって、いずれも「なすこと」のための重要なプロセス、手段なのである。

南川さんは、自分がやろうとしていることを楽しそうに語る。それが自分の人生にとって意味のあることだからである。やりたいこと、あるいは正確に言って、自らがやると決めたことをやるのだから、自分に自信が持てるようになる。人生は、楽しい。

南川さんは、もともと飲食業がやりたい仕事ではないし、おそらくいまでもそうだ。そうではなく、株式会社 郷土活性化での仕事が、やりたい仕事なのである。しかも吉田社長は、人として成長し、別のやりたいことが新しく見つかったならば、自社を離れてもいいとすら言っている。そうであるから南川さんは、外からの圧力ではなく、自らの内なる動機によって、仕事を頑張ることができるのである。

結局のところ重要なのは、仕事を人生にどのように意味づけるかである。その仕事は、自分の人生で達成することのなかで、いかなる意味があるのかを考えなければならない。そして、どうしても意味づけができないのであれば、つまりその仕事が自分らしくあることを否定することになるのであれば、そのときは辞めたほうがいい。人生において意味のある仕事を見つけ、それに邁進したときに、人は自己実現に、そして自己超越に到るのである。自分のいまが、いかなる明日のためにあるのかを明らかにしたとき、人生は有意義なものとなる。

南川桐子さんのホームページ

http://arigatohko.com/

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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