リコーの未来のために:業績回復を目指す前にやるべきこと

(写真:アフロ)

4月24日、東洋経済オンラインに「コピー機が売れない!名門「リコー」の袋小路」と題する記事が掲載された。

2016年度は、通期の業績予想を4度も下方修正し、営業利益率は1.5%にまで落ち込んでいるという。理由としては、市場シェアと販売台数を伸ばすためになされた営業社員による過度な値下げなどが挙げられている。実際にこれまで業界では、どの企業から仕掛けたのかはさておき、機器本体もトナーも価格は値下りを続けてきた。リコーは、このままでは2019年度には赤字になると試算しているようである。

4月に就任した山下社長は、「過去のマネジメントとの決別」を掲げ、改革を断行する方針である。しかし、アナリストらは冷ややかな目で見ている。それというのも、このほど掲げた成長戦略、事務機器と他のオフィス機器との連携の仕組みづくりや、商用・産業印刷機への進出といったものには、キヤノンや富士ゼロックスもまた目を光らせているからである。野村証券のアナリスト、和田木氏も言うように、「他社に先行し差別化できる成長戦略は示されていない」。

ところで、記事には「野武士のリコー」と呼ばれた営業力への依存が強かったことが原因と指摘されている。それはそうなのだが、筆者としては、野武士のような営業スタイルが他社の遅れを取ったと言い換えたい。ようするに「事務機器」を次々と販売するという姿勢、企業文化、パラダイムが、リコーの変革を阻めているように思われるのである。

当記事では、ライバルである富士ゼロックスの営業姿勢を紹介しながら、そもそもリコーとはビジネスそのものが異なることを指摘したい。誤解を恐れずざっくりといえば、前者はソリューションの会社であり、後者はメーカーである。

製品やサービスは手段である

富士ゼロックスは、ご存知のようにオフィス向けの複合機やプリンターを「売っている」。リコーと同じである。

しかし富士ゼロックスの営業社員は、基本的には事務機器を売っているという感覚では仕事をしていない。少なくともそのような姿勢で営業をすることを、会社は推奨していない。そうではなく、お客様に寄り添い、課題を発見し、解決することで、お客様のパートナーとなることを目指して営業をしている。

したがって例えばマネジャーと会話するときも、お客様の課題は何かを話し合うことから始めることが徹底されている。自分たちがどの機器を売りたいか、何台売りたいかは二の次である。検討の結果、もしも課題解決の手段がペーパーレス化であるときは、たとえ自社の複合機の数が減り、売上げが一時的に下がったとしても、ペーパーレス化の施策を提案する。富士ゼロックスにそのノウハウがあるのは、かねてそのような提案をしてきたからである。

愚行だろうか。そのようなことはない。ひとたびお客様に課題解決のパートナーとみなして頂けたならば、事務機器とは関係のない話であっても、次々と相談をよせて頂ける。一つひとつの課題を解決することで、お客様からは「ありがとう」を頂くことができる。お金を頂戴することができるのである。顧客がいて、ビジネスがある、ということである。

気分はスーパーヒーローだ。お客様は困っていることを率直に伝えてくれる。目の前に困っている人がいるのだから、営業は必死で解決方法を考える。上司や先輩に相談をし、あるいは社内の知識を持った人にすがって、何とかしてお客様の喜びを創造しようと努めるのである。頭などはいくらでも下げてやろう。お客様の喜ぶ顔が見たい。だから富士ゼロックスの営業は、セールス・レプレゼンタティブ、「営業の代表者」というのである。

そういう社風、文化があるから、富士ゼロックスでは、何台売ったかよりも、いかなる課題解決を行ったかをもって称賛を受ける。営業としてのよき姿を追求していることが美徳とされる。お酒の席でもそうであり、営業社員は何十台、何百台売ったということよりも、いかなる課題解決を行ったのかを話すことを好んでいる。

ただし、製品やサービスを売っていないということは、お客様の課題解決をしていないということである。それはよくない。もっとお客様を満足させなければいけない。よって営業社員は、他の営業社員の課題解決事例をよく勉強し、カスタマイズしてお客様に紹介する。それによってお客様の課題を発見し、新しい満足を提供する機会をつくりあげるのである。

「知の創造と活用をすすめる環境の構築」

富士ゼロックスはソリューションの会社、課題解決の会社なのである。それでは富士ゼロックスは、いかなる領域において課題解決を行う会社であろうか。

富士ゼロックスはドキュメントマネジメントの分野で課題解決を行う会社である。あるいはそれによって「知の創造と活用をすすめる環境の構築」という目的を達成するための会社である。

富士ゼロックスのいうところのドキュメントとは、紙文書のことではない。ドキュメントという言葉の語源はラテン語の docare であるが、これは「教えること」を意味する。つまり、何らかの情報ないし知識を人に伝え、教えるもののすべてが、ドキュメントになるのである。その意味で、紙とか電子といった物質的で無機的なものよりも、伝える、教えるといった人間活動のほうに焦点がおかれる。オフィスにおける人と人との知的なつながりをつくり、ビジネス価値を最大化するための環境をつくることが、富士ゼロックスの使命なのである。

そのような使命を達成するには、その手段は卓越していなければならない。そのため、富士ゼロックスの製品やサービスは、誰もが認めるように、非常に質が高い。保守を行うエンジニアの質が高いのも、同じ理由からである。そういうわけで、富士ゼロックスの顧客満足度は高いのであって、社員もまた誇りをもって自社の商品を提供することができるのである。

目指すもの、理念が明確であって、それが社内に浸透している企業は強い。ブランドコンサルティング企業であるリスキーブランドの調査では、企業理念が浸透している会社は、浸透していない会社と比べて2.3倍の確率で儲かっており、また2.6倍の確率で成長しているとのことである。さらには、4.3倍の確率で社内に活気があるのだという。これはつまり、共通の目的に向かって進んでいるという実感が、社員の働きがいをつくり、会社を未来へと進めているということであろう。

結局のところ、目指すものがあることが、人間の行動を推し進めるのである。富士ゼロックスとリコーは、手段は同じであっても、目的が異なる。目的が異なるであれば、提供価値が異なる。提供価値が異なるのであるから、ビジネスが異なるのである。企業は、提供物が何であるかということの前に、自社が目指すものを明確にすることから始めなければならないのである。

いかなる未来を描くのか

そうはいっても、目的のために必要とされるものは、もはや複合機ではないのかもしれない。紙に変わる情報伝達手段が様々に存在するようになったこの時代にあっては、出力機器をメインに据えてビジネスを展開することは、少なくとも我が国のような先進国においては、難しくなってきたように思う。社員の士気にも影響があるだろう。富士ゼロックスにはManaged Content Serviceリーダー企業として、同分野の新しい領域を切り拓き、顧客価値を創造し続けてほしいと思う。

リコーも同じ道を歩むのだろうか。いずれにせよ、問わなければならないのは、自社の事業が何であるか、である。事業の目的を問うことによって、それは定められる。リコーの経営理念は「リコーウェイ」によって明らかにされている。経営哲学である三愛精神には「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」こととある。経営理念の私たちの使命には、「世の中の役に立つ新しい価値を生み出し、提供しつづけることで、人々の生活の質の向上と持続可能な社会づくりに積極的に貢献する」とある。非常に立派である。筆者が富士ゼロックスとあわせてリコーを応援したい理由がここにある。

しかしながら、それを達成するためにいかなることを為すのか、すなわち明確化されたビジョンが、ここには欠けている。そうであれば、社員はどこに向かって進んでいけばいいのかが分からなくなってしまう。イノベーションとは、何らかの達成すべき地点に至るために、新たな手段を考案することによって生じる。イノベーションなき企業は衰退する。

いうまでもなく、描くべきは自社の描くビジョンである。それは、自社の描く「よりよい世界」を明確にすることである。絵は誰かが描くものではなく、それを描きたい自分が描くものである。ビジネスとはやりたいことをやることなのだから、リコーの考えるよき世界を描けばよい。富士ゼロックスは「知の創造と活用」の世界を描いた。リコーは何を描くのだろう。人と人とのイメージがつながる環境の構築、だろうか。

最後に、これまで述べてきたことは、富士ゼロックスがよくて、リコーが悪いということではない。リコーには一つの、しかし重要な観点が欠けているということを述べているのである。だから、それをやればよい。やろうではないか。日本の誇りある企業、リコーを、未来につなぐために。