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バンドン会議、日中首脳会談のゆくえ――李克強首相が河野代表らに会った理由

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

22日から始まるバンドン会議で日中首脳会談の有無が注目されている。14日に李克強首相が河野代表ら訪中団と会った裏には、同会議における安倍首相の講演内容を牽制し、首脳会談の可否を決める中国側の腹がある。

◆中国にとってのバンドン会議の大きさ

4月22日~23日、インドネシアのジャカルタでアジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年を記念する首脳会議が開かれる。

バンドン会議は1954年に中華人民共和国(中国)の周恩来首相とインドのネール首相が中印会議を開いたことに端を発し、1955年に「中国、インド、エジプト、インドネシア、パキスタン、スリランカ、ビルマ」を中心に開かれた「アジア・アフリカ会議」で、最初にインドネシアのバンドンで開催されたことからバンドン会議という。

当時、国連に加盟しておらず、国際社会から国家として承認されていなかった中国としては、何としても国際社会における横のつながりが欲しかった。だから中国にとって、バンドン会議は唯一の拠り所であったと言っても過言ではない。

そのため中国は早くから「アジア・アフリカ研究所」や「アジア・アフリカ局」を至る所に設立し、大学の中にも各政府部門の中にも深く根を下ろしていた。筆者はしばらくの間、北京大学アジア・アフリカ研究所にいたことがあるので、その重きの置き方を実感している。

習近平政権が、今年、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立に向けて急激に動き始めたのも、時期としてはバンドン会議60周年記念という節目に合わせている側面もある。

4月16日付本コラム「中国金融大動脈――AIIBと一帯一路」でも記したように、中国の一帯一路構想をAIIBに結び付けて紹介するときに、中国ではよくインドネシアが例に挙げられることからも、そのことが窺(うかが)われる。

◆日中首脳会談に対する中国の姿勢

河野洋平元衆議院議長が会長を務める国際貿易促進会一行が、4月14日、李克強首相と会談した。ここのところ汪洋副首相(中共中央政治局委員)が対応していたのに、今年はランクが上がって、李克強というチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員)の党内序列ナンバー2が会談したということは、日中関係緩和の兆しかという憶測もあった。

しかし、そういうことではない。

中国としては、今年戦後70周年に当たり安倍首相が新たに談話を出すことに関して、「歴史認識を忘れるなよ」、ということを警告し、牽制することが目的であった。

なぜなら河野氏は、いわゆる「河野談話」を出しており、「村山談話」に関しても否定する考えを持っていないことを中国は知り尽くしているからだ。だから河野氏を「政治家として素晴らしい勇気と覚悟を持っている」と持ち上げて安倍政権および安倍首相が出すであろう戦後70年談話を牽制したのである。

村山談話には「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」、「痛切な反省」と「心からのお詫びの気持ちを表明」などの言葉がある。

このうちの「植民地支配と侵略」「反省」「お詫び」といったキーワードが安倍談話にあるか否かが、中国の関心事だ。それを踏まえて、李克強首相は会談の冒頭、「歴史問題を正しく認識する原則精神」を強調し釘を刺した。

見落としてならないのは、それはただ単に戦後70年談話に対する牽制だけでなく、実は近くはバンドン会議で話す機会を得るであろう安倍総理のスピーチ内容に対する牽制でもあった、ということである。

だからこそ、汪洋副首相ではなく、李克強首相という、党内序列の高い人物を当ててきた。牽制する力が、汪洋よりは大きくなるだろうとの、中国側の計算があったからだ。

バンドン会議における安倍首相のスピーチを戦後70年談話の原型と、中国はみなしている。だからそこに中国が「歴史問題を正しく認識する原則精神」とみなすキーワードがあるか否かが、大きな関心事なのである。

安倍首相はあくまでも戦後70年談話を「未来志向」のものとしたい考えを貫いており、過去の言葉をそのまま踏襲するとは限らないと言明している。

中国では安倍首相のスピーチには「謝罪」の言葉がないのではないかと危惧している。つまり、「反省」はあっても、「戦後平和を守り、国際貢献をしてきた」という、安倍晋三型「未来志向」に留まるのではないかという憶測が中国では飛んでいる。

となれば、バンドン会議における日中首脳会談の可能性も危うくなってくると、中国メディアは報道している。

習近平国家主席は、安倍首相のスピーチの内容によって、会談を行うか否か、また行うとしても、どのような接触の仕方になるかを決める可能性は大きい。

ただ思うに、このような「踏み絵」のような外交は本来あってはならない。

日本の代表が、訪中した際に中国のどの序列の人物と「会ったか」という事実を、「誰が会ってくれたか」という形でとらえる(自慢する?)日本側関係者がいることも、逆にその傾向を増幅させてはいないか。朝貢外交ではないのだから、日本の成すべきことを堂々と成したうえで、「誰と会った」という対等の立場でなければならないはずだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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