Yahoo!ニュース

「紅い皇帝」反腐敗の狙い――その先には国際金融界の覇者

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

習近平政権が激しい勢いで反腐敗運動を進めている先には、国際金融界の覇者となる狙いがある。そのため、腐敗、環境汚染、不透明性などで反撃を強めるアメリカに対抗し、環境汚染をもたらす腐敗構造を変ようとしている。

中国が主導権を握るアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しては、3月14日付本コラム国際金融センターをアメリカから中国に――習近平政権のもう一つの狙いおよび3月18日付本コラムイギリスのアジア投資銀参加で日本孤立化?――キッシンジャー訪中は如何なるシグナルか?で書いたが、今回は、習近平政権の反腐敗運動そのものの最終的な狙いが、実は国際金融界の覇者となることにあるという点に焦点を絞って、ひとこと述べたい。

AIIBの創始国メンバーとなるための申請期限が3月末と迫っているのを前に、イギリスに加えて、その後ドイツ、フランス、イタリヤなどが参加を表明した。G7が雪崩を打ったように中国主導の投資銀行に参画を表明したことは、どの国も「中国発の経済特急列車に乗り遅れまい」としている証しだ。

実は筆者は3月16日に民放のあるテレビ番組にナマ出演していたのだが、番組内で放映された麻生財務大臣のコメントは「AIIBは透明性が保証されていないので、どうも……」といった趣旨の、かなり否定的なものだった。

しかし3月20日には「(AIIBに参加して、その中で)協議の可能性」を示唆した。

日本が指摘している融資の審査などの意思決定の透明性や、返済能力を考慮した融資姿勢が確保されれば「少なくともこの(AIIBの)中に入って協議していくことになる可能性はある」という考えを示したのである。

このままいけば、G7は総崩れで、日米までが揃ってAIIBに入れば中国の思う壺だ。

そのきっかけを作ったのが、3月18日のコラムに書いたように、元をただせば実はダライ・ラマ14世であったことを考えれば、なんとも皮肉なことである。

イギリスのチャールズ皇子やキャメロン首相がダライ・ラマ14世に会っていなければ、中国から「イギリス外し」の憂き目に遭うことはなかっただろうし、それ故にイギリスが中国にひれ伏すことにもならなかっただろう。

こういった敵の弱点を自らの勝利につなげていく中国の戦略は、長い歴史から培われてきたものであり、一党支配体制がもたらしたものではない。

しかし強権的な一党支配を逃れたダライ・ラマ14世が、結果的には、一党支配の中国に救いの手を差し伸べたことになる。

これまで国際取引の主軸だったドルに代わって人民元が基軸通貨となれば、中国は資本送金の自由化や人民元の変動相場制への移行を強めていくしかない。

すでに資金の 50%以上である500億ドルを越える出資をして圧倒的主導権を握る中国が、参加国に対してどれだけ譲歩するのか見ものだ。

2010年~2020年のアジアにおけるインフラ整備には8兆ドル(約1000兆円)以上の資金が必要とされている。中国はそのため、すでに鉄道を中心としたインフラ建設に関して関係各国に中国資本の投入を約束した。

インフラは主として高速鉄道や高速道路の開発を対象とする。

資金だけでなく、中国はこれまで蓄積してきた高速鉄道技術をも投資するとしている。しかしその技術、実は日本やドイツなど数カ国の技術を部分的に頂いて創った「寄せ集め技術」に過ぎない。そのため何度も大きな鉄道事故を起こしている(たとえば2111年7月に浙江省温州市で衝突脱線事故が起き、証拠を隠ぺいするため脱線車両を事故後すぐに埋めようとしたことで有名)。

インドでは高速鉄道開発に当たり、日本の(価格もレベルも高い)新幹線技術を導入するか、(安価だがレベルが低い)中国の「寄せ集め技術」を導入するかで最終的決断を迫られているが、中国はこれを新たな「抗日戦争」と称して、何としても「日本」(の新幹線)を打ち負かし、「中国」(の寄せ集め技術)を勝利に導こうとしている。そのためにもAIIBのゆくえは重要だ。

このような中、日米が懸念する透明性がどれほど確保されるかは疑問だが、万一にも日米までが加入することになれば、「紅い皇帝」習近平は高笑いだ。

習近平政権の反腐敗運動を、権力闘争などと位置付けて日本人を喜ばせていた一部のチャイナ・ウォッチャーやメディアは罪作りなことだ。

「紅い皇帝」習近平の力は、政権スタート時から毛沢東を越えている。

彼は「中国の夢」から始まり、「アジアの夢」を語り、今は「アジア太平洋の夢」を語っている。

それが夢物語で終わればいいが、AIIBに群がる先進国の動きを見ていると、チャイナ・マネーが「世界の夢」を買いそうな勢いである感を否めない。

アメリカが中国の「腐敗」や「環境汚染」を取り上げて、国際金融センターとしての資格を欠くとAIIB成長の可能性を否定したため、「紅い皇帝」はそれをクリヤーしようと腐敗撲滅に躍起になっていた。

腐敗撲滅は党幹部の汚職により「紅い王朝」が崩壊するのを防ぐことが第一義的な目標だったが、聖域にまで斬りこんだいま、「紅い皇帝」は国際金融の覇者としての条件を整えようと、最後の一手を打とうとしているのである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

遠藤誉の最近の記事